日本の技術や知識を開発途上国等へ移転し、それらの国の経済発展を担う「人づくり」を目的とした外国人技術実習制度ですが、近年、実習生の失踪が急増しています。

この問題を解決するため、法務省は2019年11月に失踪の対策を強化する方針を発表しました。ここでは、最新情報として、その失踪対策強化の内容についてご紹介します。

実習生の失踪対策強化について

会見の記者

まず、法務省の外局である出入国在留管理庁が11月12日に発表した方針内容について解説します。

出入国管理庁によれば

出入国管理庁は失踪が増加する外国人実習生の問題に関し、改めて対策を強化する方針を発表しました。その内容のポイントは以下の通りです。

<実習生の失踪対策強化のポイント>

1.送り出し機関、監理団体、実習実施者への技術実習生の新規受け入れを停止

以前は、実習先に失踪の原因がある場合に限って、その実習先の新規受け入れが停止されるという方針でしたが、今回の発表では、実習先だけでなく、監理団体や現地送り出しの機関も含まれることになりました。また、ブローカー対策を強化するため、二国間取り決めを行った相手国政府とも連携していくことを明らかにしています。

2.違法行為等があれば、無期限の受け入れが不可に

賃金の未払い等の違法行為があった実習先企業は、新規の受け入れはもちろん、無期限で技能実習生の受け入れができなくなります。

3.失踪技能実習生を雇用した企業名の公表検討

こちらは企業名の公表を検討している段階で、決定事項ではありません。しかし、これが決定されれば、失踪技術実習生を出した企業は、企業名を公表される可能性があります。実際に賃金未払いなどの違法行為があった場合は、確実に公表されることになるでしょう。

4.在留カード番号を活用した不法就労等の摘発強化

これまで「外国人雇用状況の届出」が必要でなかった技能実習生の在留カードの番号をハローワークへ報告することを義務化。失踪者の特定がしやすくなる上、不法就労等の摘発もしやすくなることが期待されます。

上記以外にも、技能実習生を失踪させないために、技能実習生からのヒアリングを行い、賃金の支払い状況や人権侵害等についても調査するそうです。

問題企業は受け入れ禁止?

ストップの標識

出入国管理庁が新たに打ち出した対策は、「不適切な機関・企業等の排除」「技能実習生を失踪防止」「失踪者の不法就労防止」などの側面があります。その中でも、「不適切な機関・企業等の排除」に含まれる問題企業は、前述した通り、技能実習生の受け入れが今後一切できなくなる可能性があるので注意が必要です。

失踪技能実習生を出した機関(送り先・監理・受け入れ先)の3者に責任があると判断された場合、新規の送り出しや受け入れは一定の期間認められません。また、賃金の未払い等の違法行為があった場合は、無期限で技能実習生の受け入れができなくなるばかりか、企業名が公表される可能性もあります。仮に企業名が公表されるようなことになれば、企業の信用問題にもなりかねません。

問題企業にならないために

では、問題企業にならないためには、どうしたらいいのでしょうか?問題企業にならないためには、なぜ失踪者が出てしまうのかを考える必要があるでしょう。

<実例1>

建設会社で技能実習中だったベトナム人のフンさんは、家族を助けるために2016年9月に来日。平日の仕事中は、「バカ」「アホ」という言葉だけでなく、「ベトナムに帰れ」という暴言を受けていたそうです。また、ヘルメットや角材で殴られるだけでなく、安全靴で蹴られるという暴行を受け、負傷したことも。休日は社長に私用の雑用もやらされていました。当然、休日はほとんどなく、給料は15日分程度しかもらえなかったといいます。結局フンさんは技能実習中だった友人に相談し、「失踪」を決意。その後は、不法就労に従事しました。皮肉なことに、技能実習より不法就労の方がお金を稼げたそうですが、数カ月毎に職を転々としているそう。不法就労では銀行口座もつくれず、保険にも入れないので危険な仕事は続けられないのが現実です。

<実例2>

縫製工場で技能実習中だったベトナム人女性は、低賃金で長時間の労働を強いられたそう。彼女は、雇用者の目を盗んで動画を撮影し、それをテレビ番組へ送り、助けを求めました。彼女に起きた過酷な経験は、実際にNHKで放映されています。

上記の例は氷山の一角ですが、実際にこのようなことは起こっているのです。彼らの失踪から、「賃金未払い」「ヘイト行為」「暴行」「雑用」「実際の労働条件がイメージと異なる」などが失踪の理由と考えられます。

つまり、問題となる企業では、賃金の未払いやヘイトスピーチ、暴行、パワハラなどが横行しているということ。日本人でも、このような環境で働くのは大変でしょう。

このような問題企業にならないためには、問題企業が行う賃金の未払いやヘイトスピーチ、暴行、パワハラなどをしないことです。また、労働条件や労働環境の見直しも、必要になるでしょう。

実習生の失踪対策強化は必要なの?

アイデア

では次に、出入国管理庁が発表した実習生の失踪対策強化が必要なのかどうか考えていきましょう。

実習生の失踪はよくある?

法務省が2019年3月に発表した調査によると、2018年度の失踪技能実習生は9,052人で、2017年度より約2,000人増えています。

出典:法務省

上記は、2014年から2018年までの5年間で失踪した技能実習生の人数と前年末の在留実習生数に占める割合です。失踪者が5年間で倍近く増加したことがわかります。

出典:法務省

上記は、前年末の在留技能実習生とその年に新たに入国した技能実習生の合計とその比率です。この5年間で失踪技能実習生は増加していますが、実習生の総数も倍増しているのがわかります。失踪率は2~3%で横ばいの状況です。

2017年11月に施行された『外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律』により制度が厳しくなっており、上記の失踪率は旧制度と新制度が併存した結果となっています。一方、新制度の対象者のみで検証した結果、失踪率は旧制度対象者の半分以下になったと報告しています。つまり、新制度が一定の効果をもたらしているということでしょう。

失踪されないためには

逃げる

最後に、技能実習生に失踪されないための対策を考えていきます。今後は、受け入れ企業の評価にも大きく影響を及ぼすので、しっかり対策するようにしましょう。

・十分な情報提供

失踪の原因の多くは、技能実習生が抱いたイメージと実際の労働条件が異なることです。送り出し機関から説明があっただろうと考えず、十分な情報を提供することが重要となるでしょう。そのためには、現地で面接を実施したり、求人票に詳細を丁寧に記載したりすることが求められます。また、企業や業務内容がイメージしやすくなるよう、ビデオなどを準備してもいいかもしれません。また、「日本に行ったら大金が稼げる」と過度の期待をしている人も少なくないので、家族などへの情報提供も必要でしょう。

・プラスの情報だけでなく、マイナスの情報も提供

環境が変わる日本での生活は容易にホームシックになることが考えられる上、言葉が理解できないストレスも感じることになります。日本で働く心構えを持ってもらうためにも、プラスの情報だけでなくマイナスの情報も提供することが、失踪防止につながるでしょう。もちろん、マイナスの情報のみの提供では日本に来てもらえなくなるので、プラスとマイナスをバランスよく提供することをお勧めします。

・「失踪」が犯罪と認識させる

事前研修や入国直後の研修などですでに「失踪」が犯罪であることは伝えられているでしょうが、職場となる企業でも、強制送還されることや罰金、禁錮が課されることを認識させるよう心がけましょう。

・問題が起きたときの対処法を事前に教える

企業が目を光らせても、労働条件に不満があったり、同僚や顧客から人権を侵害されるような発言を受けたりするかもしれません。技能実習生が企業内で相談できるセクションを設け、技能実習生にその存在を事前に知らせておくようにしましょう。

・コミュニケーションをとり、人間関係を構築する

様々な問題を防止するためにも、日頃から技能実習生とコミュニケーションをとり、技能実習生が話しやすい環境や人間関係を築くよう心がけましょう。

・契約書通りの適切な賃金を遅れることなく支払う

契約書通りの適切な賃金を遅れることなく支払ってくれない企業も存在します。当然のことですが、適切な賃金を遅れることなく支払うことは失踪防止に重要です。また、実習計画にない業務や行動を強制しないことも大切でしょう。

実習生の失踪対策は掴めましたか?

笑顔

出入国在留管理庁が新たに発表した技能実習生の失踪対策強化について、最新の情報をお届けしました。「失踪」は技能実習生だけの問題ではなく、送り出し機関・監理団体・受け入れ企業の問題でもあります。

失踪率は横ばいですが、やはり現状を見ると実習生失踪対策の強化は必要です。技能実習制度の活用を検討しているのであれば、失踪の理由はもちろん、こちらでご紹介した対策等に留意して失踪を防いでいきましょう。

<参考サイト>

法務大臣閣議後記者会見の概要:法務省ホームページ

外国人技能実習生の失踪を防ぐには?法務省発表の新防止策で何が変わる?

外国人技能実習制度とは | 外国人技能実習制度の円滑な運営を支援 | JITCO – 公益財団法人 国際研修協力機構

失踪した元技能実習生を直撃。彼らはなぜ「不法就労」に至ったのか? – ライブドアニュース

NHKドキュメンタリー – ノーナレ「画面の向こうから―」

法務省 調査・検討結果報告書