【行政書士監修】技能実習生に関わる問題の原因と解決策とは

近年会社内の活性化などを目的に、外国人技能実習生を採用する企業が増加しています。しかし外国人技能実習生の制度では、近隣住民を巻き込んだ犯罪や失踪などの問題がたびたび生じているのです。
思わぬトラブルを回避するためにも、まずは技能実習生を取りまく問題点について知っておくと良いでしょう。この記事では、技能実習生の採用で生じ得る問題や、その原因、そして解決策についてお伝えします。
目次
- そもそも技能実習生とは?
- 技能実習生を採用した上で起こり得る問題は?
2-1.失踪と犯罪
2-2.事故や事件 - 技能実習生が問題を起こしてしまう原因は?
3-1.労働環境
3-2.賃金
3-3. 雇用者の知識不足 - 技能実習生の問題を回避するための解決策は?
4-1. 制度改正による規制強化
4-2. 雇用側の改善 - 技能実習生の問題について詳しくなりましたか?
目次
いま問題の技能実習生とは?
技能実習生とは、母国で習得するのが難しい技能や知識を得るために日本企業と雇用関係を結んだ上で働く外国人です。「技能実習制度」とは、開発途上国経済の発展に貢献する目的で確立され、その制度に従って働く外国人を「技能実習生」と呼びます。
技能実習生を受け入れる企業には、日本とは異なる文化や環境で育った技能実習生を受け入れることで社内の活性化につながる点や、人手不足の解消につながる点など、様々なメリットがあります。ただし技能実習法によれば、労働力の需給調整の手段として技能実習生を受け入れることが許されていないため、あくまで技能実習生の技能習得を第一に考えることが重要です。
参考:JITCOホームページ
技能実習生を採用した上で起こり得る問題は?
メリットの多い技能実習生の採用ですが、場合によっては大きな問題が生じる可能性もあります。技能実習生の採用で起こり得る問題とは、「失踪・犯罪」と「事故」の2種類です。
この章では、それぞれの項目に分けて解説していきます。
失踪と犯罪
技能実習生の雇用において、最も大きな問題となっているのが「技能実習生の失踪」でしょう。法務省が公表しているデータによると、平成24年には2,005人だった失踪者が、平成29年には7,089人にまで増加しているのです。約5年で3倍以上も失踪者が増えており、特にベトナムからの技能実習生の失踪者数は急激に増加しています。
また技能実習生による犯罪も大きな問題となります。2014年のデータによると、特に不法残留や空き巣、万引きなどの犯罪に手を染める技能実習生が多かったようです。
2014年の1年間で摘発された技能実習生は1,000人は超えなかったものの、2012年と比べると3倍にも増えています。技能実習生やその内に占める失踪者数が増加している点をふまえると、技能実習生による犯罪数は近年さらに増加していくと予想されるでしょう。
事故
技能実習生が事故に遭う件数が増加しているのも、問題点として近年議論を呼んでいます。厚生労働省の公表しているデータによると、平成28年度の技能実習生による労働災害は約500件も発生しています。
詳しい数は明らかとなっていませんが、数年前と比べると技能実習生による事故(労働災害)は増加傾向にあり、死亡や後遺障害の残る重大な事故も一定数発生しているとのことです。具体的には、クレーンで吊り上げていた鋼材が当たったり、プレス加工機に挟まれたりと、主に製造加工業での重篤な事故が目立ちます。
また交通事故により技能実習生が死亡する事故も例年発生しています。JITCO(国際研修協力機構)の発表によると、2011年には3件、2010年には5件自転車での死亡事故が発生しました。
参考:
「外国人技能実習生が起こす事故・事件について」:外国人労働者新聞
「外国人の労災事故2847人 最多更新、技能実習生も増加(2019年5月18日):日経新聞
技能実習生が問題を起こしてしまう原因は?
技能実習生を採用すると、なぜ失踪や犯罪、事故といった問題が生じてしまうのでしょうか?結論から言うと、「労働環境」、「賃金の安さ」そして「雇用者の知識不足」の3つの原因からこれらの問題は発生します。
この章では、それぞれの原因について詳しく解説しましょう。
労働環境
1つ目の原因として考えられるのは、技能実習生の労働環境が非常に悪い点です。厚生労働省が平成29年度に行った監督指導によると、実習を行う事業者の約70%に労働基準関係法令の違反が認められました。
具体的には、健康に害を及ぼすレベルの労働時間の過多や、使用する機械の安全が確保されていなかったことなどが挙げられます。なお労働時間が過多となっている背景には、人材不足を技能実習生でおぎなう企業が多いという理由があると考えられるでしょう。タイムカードの制度があったとしても、サービス残業や日本独特の心理的な残業強制は、実習生の心身にダメージを与えることになるので気を付けましょう。
十分な安全が確保されていない環境で、過酷なまでの労働を強いられているために、不慮の事故に巻き込まれたり、犯罪に手を染めてしまう技能実習生が出たりするのです。
賃金
労働環境の悪さに加えて、賃金の安さも技能実習生に問題を生じさせる引き金となっています。日本政策金融公庫の調査によると、技能実習生はこれだけ過酷な労働を強いられているにもかかわらず、全体のうち95%は月給18万円以下しかもらえていません。
最低限の暮らしすらできないために、万引きやスリといった金銭目的の犯罪を起こす技能実習生がいるわけです。技能実習生だからといって安く使えると言うことは決してなく、日本人労働者と同じように扱う必要があります。扱わない場合、法律違反となりますのでよく注意しましょう。
雇用者の知識不足
上記2つの原因と重複しますが、そもそもは雇用する側が知識不足であるのが理由で、技能実習生の問題は発生するのです。本来、この制度は人材不足の解消を主な目的とする雇用が禁止されています。
しかしそれを知らずに技能実習生を雇用する事業者は少なくありません。また、労働基準法の決まりを知らないために、技能実習生に過酷な労働を強いる事業者も一定数存在しているのです。技能実習生の雇用で問題が生じる場合、その原因が技能実習生側ではなく、採用する事業者側にあるということにならないよう十分注意しましょう。
参考:
「外国人技能実習生の実習実施者に対する平成29年の監督指導、送検等の状況を公表します」:厚生労働省ホームページ
「中小企業における外国人雇用の現状と課題(2018年3月)」:日本政策公庫 総合研究所
技能実習生の問題を回避するための解決策は?
技能実習生の採用を成功させるには、問題が発生するリスクを1つ1つ克服する必要があります。具体的には、制度自体を改正して環境を半強制的に変えるか、もしくは雇用側の意識や仕組みを改善する解決策が考えられるでしょう。この項では、それぞれの解決策についてもう少し詳しく解説します。
制度改正による規制強化
1つ目の解決策は、技能実習の制度自体を改正し、規制を強化することです。たとえば「監理団体」による技能実習の監督を強化したり、より罰則を厳しくしたりすることで、技能実習生の不当な取り扱いを心理的に行いにくくするなどの解決策が考えられます。
年々外国人技能実習生の問題が大きくなっているため、今後本格的に制度が改正される可能性は十分考えられるでしょう。
雇用側の改善
2つ目の解決策は、雇用側の改善です。先ほどお伝えした通り、技能実習生の問題が生じる主な要因は雇用側にあります。雇用する会社側が技能実習生の人権を尊重し法令を遵守すれば、技能実習生が罪を犯したり、突然失踪したりというリスクはかなり抑えられるでしょう。
また社内の協力を得て、お互いに積極的なコミュニケーションがとれるよう配慮することも重要です。
技能実習生の問題は事前に防ぐことがベスト
技能実習生を採用すると、失踪や犯罪に手を染めるといった問題が生じる可能性があります。しかし、雇用側が法令遵守や技能実習生の人権を尊重すれば、問題が生じるリスクを大きく軽減できるのです。技能実習生を今後雇用したいと考えている方は、関係する法令を守りつつ、技能実習生と自社の双方にとって利益となるような技能実習の実施を心がけましょう。