法務省によれば、平成29年の「在留資格取り消し件数」は385件で、前年より30%以上も増加しているそうです。在留資格が取り消された場合、外国人労働者はどうなるのでしょう?また在留資格取り消しで雇用主も罪に問われることがあるというのは本当なのでしょうか?

そこで今回は、増え続ける「在留資格取り消し」について、具体的な事例と人事担当者の対応をあわせて解説します。

在留資格取消で雇用者側も犯罪者に!?

逮捕 手錠

在留資格が取り消された状態で日本国籍を持たない外国人が働くということは、外国人本人のみならず雇用者も罪に問われることになるので注意が必要です。逮捕されてしまうと事業への信頼度も下がりかねません。よく確認して、外国人を採用する際は注意しましょう。

在留資格の種類をおさらい

まず、ざっと在留資格の種類についておさらいしておきましょう。

ビザ 申請書 記入

<就労が認められる在留資格>

  • 外交
  • 公用
  • 教授
  • 芸術
  • 宗教
  • 報道
  • 高度専門職
  • 経営・管理
  • 法律・会計業務
  • 医療
  • 研究
  • 教育
  • 技術・人文知識・国際業務
  • 企業内転勤
  • 介護
  • 興行
  • 技能
  • 技能実習(1~3号)
  • 特定技能(1~2号)2019年4月施行

<身分・地位に基づく在留資格(活動制限なし)>

  • 永住者
  • 日本人の配偶者等
  • 永住者の配偶者等
  • 定住者

<就労の可否は指定される活動によるもの>

  • 特定活動

<就労が認められない在留資格>

  • 文化活動
  • 短期滞在
  • 留学
  • 研修
  • 家族滞在

在留資格が取り消された外国人は強制退去?!

飛行機

入管法第22条4項にある通り、在留資格が取り消された外国人は強制退去させられる場合もあります。特に、偽りや不正手段により上陸許可を受けた場合や、活動内容を偽ったり経歴を詐称したりして上陸許可を受けた場合は、退去強制の対象です。

また、虚偽の書類提出、在留資格外の活動、在留資格に関わる活動を3ヶ月以上行っていないなども在留資格の取り消し対象です。しかし、これらの理由で在留資格を取り消された場合、30日を上限に出国日が指定されるため、即時退去というわけではありません。ただし、指定された日までに出国しないと、退去強制の対象になるだけでなく、刑事罰の対象にもなるので注意しましょう。

在留資格取り消しで雇用主も罪に問われるって本当?

在留資格を取り消された外国人が日本国内で就労すれば、「不法就労」になります。当然のことながら外国人本人が罰せられますが、外国人を不法就労させると雇用主も罰せられます。つまり、雇用主の責任が問われるということです。

入管法では、以下の場合に「3年以下の懲役」あるいは「300万円以下の罰金」、もしくはその両方が科せられるので注意が必要です。(入管法73条2第1項)

  • 外国人に不法就労をさせた者
  • 外国人に不法就労をさせるために自己の支配下に置いた者
  • 不法就労を斡旋した者

【見落とし注意】在留資格取り消しケース7選

外国人 男女 驚きの顔

次に、在留資格が取り消されるケースを具体的にご紹介します。知らなった!そんなことでも取り消されるなんて!という項目も出てくるかもしれませんので最後までチェックしてみてください。

ケース1:身分を偽ったら…

具体的には過去に出国命令を受けて日本国外に出国した外国人が、上陸拒否期間中に身分等を偽り、不正な手段で上陸許可を受けた場合です。例えば、退去強制を受けた者が、上陸拒否期間5年の間にその事実を隠し、氏名を変えて在留資格を取得すると取り消しの対象となります。

実際日本では、増加する外国人に目を付けた犯罪者集団が偽の身分証を発行している実態もあり、こういったケースは年々増回しているので注意が必要です。

ケース2:日本国内での活動内容を偽ったら…

ウェイター

例えば、就労が目的なのに「留学」の在留資格を取得したり、飲食店のホール業務なのに「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得したりすると取り消しの対象になります。

これに関してはそれぞの在留資格の詳細や活動が許される範囲など徹底的に調べておく必要がありますので早めに確認しておきましょう。

ケース3:上記以外の偽りや不正手段で上陸許可を受けたら…

例えば、在留資格取得の要件となる学歴や資格等を偽ったり、日本人との婚姻を偽装して偽りの事柄が記載された戸籍謄本等を提出したりすると取り消しの対象になります。

外国人の「学歴」や「資格」に関しては、実際に裏付けをするのが難しい項目ですから、雇用者側も充分な注意が必要です。特に「資格」に関しては、証明書等を提出してもらいチェックするようにしましょう。

ケース4:虚偽の書類で上陸許可を受けたら…

書類 外国語

このケースでは、偽りや不正手段が要件になっていないため、外国人を雇用する企業が虚偽の文書を提出しても取り消しの対象となります。書類を提出する際はよく確認して漏れやミスがないようにしましょう。

在留資格申請前に雇用者側が確認できるのであれば、2重チェックの意味でも確認することをお勧めします。そうすることで、外国人との信頼関係も生れるという効果が期待されます。

ケース5:適切な活動を行っていないと…

具体的には、正当な理由がないのに3ヶ月以上在留資格に応じた活動を行っていない場合です。

例えば、「留学」の在留資格を持つ留学生が学校を辞めた後に他の学校に入ることなく3ヶ月以上(高度専門職2号は6ヶ月以上)在留したり、「医療」の在留資格を持つ看護師が退職した後に他の医療施設で働くことなく3ヶ月以上在留したりするなど。なお、就職先の倒産で就職活動をしている場合などは正当な理由とみなされます。

ケース6:平成24年入管法改正でプラスされた取消事由

  • 日本人あるいは永住者の配偶者等の在留資格を持つ者が、正当な理由なく在留資格に応じた活動を6ヶ月以上継続で行っていない場合

例えば、日本人配偶者と離婚・死別・別居した後も6ヶ月以上在留するなど。このケースの場合、申請することで他の在留資格を取得できることがあります。また、正当な理由とは、配偶者からのDVや離婚調停・離婚訴訟中などです。

  • 日本上陸後、あるいは届出をしている居住地から転居した後、正当な理由がないのに90日以内に住居地の届出をしない場合

例えば、上陸した空港で在留カードを受けた後、居住地の役場に住所登録をしなかったなど。ただし、就職先企業の倒産により経済的な理由で新居住地が定まらなかったり、長期入院したりした場合などは正当な理由とみなされます。

  • 偽りやその他の不正手段で在留特別許可を受けた場合

例えば、日本人との結婚を前提に許可を受けたのに婚姻の実態がなかったなど。

ケース7:平成28年入管法改正の強化事項

  • 正当な理由がないのに、在留資格で定められた活動で在留しながら在留資格に関わる活動を行わず、かつ資格外の活動を行う、あるいは行おうとしている場合

これまでは3ヶ月以上在留資格に応じた活動を行っていない場合に資格が取り消されましたが、この強化により、3ヶ月に満たない場合でも取り消しが可能となりました。

  • 偽りやその他の不正手段によって上陸許可・在留資格の変更許可・在留資格の更新許可・永住許可を受けた場合

これは罰則の対象となるのでよく注意が必要です。この強化では偽装滞在者に関わる罰則が整備され、上記の偽装滞在者は「3年以下の懲役・禁錮」または「300万円以下の罰金」、あるいは両方が科されることになりました。

在留資格取消から再取得までは長い道のり?!

悩む 男性

在留資格が取り消される場合、入国審査官が対象となる外国人から意見を聴取します。その際外国人は意見を述べたり、証拠を提出したり、資料の閲覧を求めたりすることが可能です。また、意見の聴取において代理人を選出し、本人の代わりに意見聴取に参加できるよう要請できます。

悪質な行いにより在留資格が取り消された場合、即時に退去強制の手続きに入ります。一方、悪質とまではいかない経歴詐称等の場合は、30日以内の範囲で指定された期日までに自主的に出国しなければなりません。

しかし、日本から退去強制されたり出国命令を受けたりした者は、原則として一定期間日本には上陸できません。この期間を「上陸拒否期間」といいます。具体的な上陸拒否期間は以下の通りです。

  1. いわゆるリピーター(日本から退去強制や出国命令を受けて出国した者):退去強制日から10年
  2. 退去強制された者(1以外):退去強制日から5年
  3. 出国命令により出国した者:出国日から1年

また、日本国内外を問わず法令違反で1年以上の懲役あるいは禁錮等が科せられたり、違法薬物等の法令違反で刑罰を受けたりした者は、期間の定めなく日本への上陸はできません。

したがって、一度在留資格が取り消されると、上記の期間を経て再取得しなければならず、その道のりは長くなるということです。

在留資格取消はみんなで防ぐ!

外国人 協力 手

自社で就労していた外国人の在留資格が取り消されて退去強制の措置が取られた場合、日本から出国しなければならないため、業務を続行できません。そうなれば企業側も痛手を被ることになるので、人事担当者はその注意すべき点を確認しておきましょう。

意外と簡単!在留資格取消とその対策とは

在留資格は突然取り消されることはありません。前述した通り意見聴取で外国人が意見を述べたり事情を説明したりする機会が持たれ、その上で処分が決まります。意見聴取には代理人も参加できるため、外国人だけでなく利害関係のある企業の人事担当者も参加するようにしましょう。

意見聴取の前には、外国人本人からしっかり事情を聞いた上で対処することが求められます。言語に不安を抱える外国人に代わって意見聴取に参加するつもりで挑みましょう。

在留資格取り消しについて詳しくなりましたか?

在留資格の取り消しは、外国人だけの問題ではありません。人事担当者は在留資格の種類やその内容、取消事由だけでなく、入管法改正など外国人労働者に関する世間の動きに注意を払う必要があるでしょう。もちろん、人事をはじめとする企業全体が関与していくことも不可欠です。

<参考サイト>

在留資格「特定技能」について

在留資格の取消し(入管法第22条の4)

外国人を雇用する事業主の皆様へ

出入国管理及び難民認定法

在留管理制度に関するQ&A

平成28年入管法改正について

出入国在留管理庁 Q&A