近年、働き方改革の一環として、柔軟で多様な働き方が注目されています。これまでの固定的な労働時間に縛られる働き方ではなく、成果を重視した制度が広がりつつあります。その中でも、裁量労働制は特に注目を集めている新しい働き方の一つです。この制度は、従業員が自らの裁量で仕事を進められることを目指しており、固定的な労働時間の概念を再定義するものです。

本記事では、裁量労働制の基本的な仕組みやメリット・デメリット、対象となる業務、さらには導入の際に考慮すべき課題について詳しく解説し、企業が新しい働き方を導入する際の参考にしていただければと思います。

裁量労働制とは?

裁量労働制とは、従業員の労働時間を実労働時間ではなく、あらかじめ定めた時間を働いたとみなす制度です。

この制度では、業務の進行に関して従業員自身が大きな裁量を持つため、労働時間の管理が厳密に行われず、仕事のやり方や進め方を個々の裁量に任せることができるようになっています。

したがって、実際に働いた時間がその定められた時間より長くても短くても、設定された時間分の労働をしたとみなされます。

例えば、裁量労働制で1日8時間の契約(みなし労働時間)を結んだ場合、実際に働いた時間がそれより短くても長くても8時間分の給与が支払われるという仕組みです。

反対に、みなし労働時間が法定労働時間である8時間を超えた場合は、超過分の残業代が支払われますただ、残業代は給与にあらかじめ含まれている場合が多いです。

-みなし労働時間が8時間の場合-

曜日時間
8時間
9時間
7時間
9時間
8時間

火木は9時間働いているが、みなし労働時間が8時間であるため、残業代は支払われず給与は8時間分。

-みなし労働時間が9時間の場合-

曜日時間
9時間
8時間
10時間
10時間
8時間

みなし労働時間が法定労働時間である8時間を超えているため、残業代が含まれた9時間分の給与が支払われる。

裁量労働制の種類

裁量労働制には、大きく分けて以下の2種類があります。

専門業務型裁量労働制

高度な専門知識やスキルを必要とする業務に適用されます。

具体的には、弁護士、コンサルタント、デザイナー、エンジニアなどが該当します。これらの業務では、仕事の進め方を自分で判断し、労働時間に拘束されることなく成果を出すことが期待されます。

例えばデザイナーの場合、きっちり8時間働いたからといって良いデザインができる訳ではありません。本人のペースに合わせて働いた方が、良い結果が生まれる可能性は高いです。

企画業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は”業種”を対象にしていたのに対して、企画業務型裁量労働制は、”職種”を対象にしています。会社の経営方針や事業計画の策定、人事戦略などに関わる企画立案業務が当てはまります。

この制度では、管理職や経営に近いポジションで働く従業員が、自分の裁量で業務を進めること可能となります。

自身の状況に応じてどちらかを選ぶことで、業務内容に応じた柔軟な働き方が実現できます。

裁量労働制のメリットとデメリット

裁量労働制には企業側と従業員側の双方にメリットとデメリットがあります

企業側のメリット

労働時間の柔軟化により、効率的な業務遂行が期待できる

成果主義による評価が可能となり、従業員のモチベーション向上につながる

時間外労働の管理が軽減される

企業側のデメリット

労働時間の実態把握が難しく、過剰労働やメンタルヘルスへの影響が懸念される

導入にあたり、管理体制や運用方法の整備が必要となる

従業員側のメリット

自由な時間管理ができ、ワークライフバランスが向上する

業務を自分のペースで進められるため、ストレスが軽減される

従業員側のデメリット

業務量や時間管理が自己責任となるため、過労のリスクがある

成果が不明確な場合、評価が難しくなることがある

みなし労働時間では到底達成できないような仕事内容の場合、労働力搾取となる恐れがある

他の新しい働き方との違い

裁量労働制は、他の柔軟な働き方とは異なり、労働時間をあらかじめ定めた時間として扱うことが特徴です。

例えば、テレワークやフレックスタイム制は、働く場所や時間を自由に選べる点がメリットですが、労働時間の実績が重要視されます。一方で裁量労働制は、労働時間よりも成果に基づいた評価が行われます。従業員に対する信頼と責任が大きい働き方といえるでしょう。

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裁量労働制の課題

裁量労働制にはいくつかの課題があります。まず、労働時間の管理が曖昧になることで、過労や長時間労働が発生しやすいことが挙げられます。特に、業務が複雑で期限が厳しい場合、従業員が自己管理できないと負担が増大するリスクがあります。

また、裁量労働制を適用する業務や職種の範囲が限定的であるため、全ての従業員にとって適切な制度ではない点も課題です。企業側としては、導入の際に対象業務の選定や適切な評価制度の整備が必要です。

裁量労働制の導入方法

裁量労働制を導入する際には、以下の手順が必要です。

対象業務の選定

まず、どの業務に裁量労働制を適用するかを明確にする必要があります。対象業務は法律で定められているため、該当する職種かどうかを確認します。

労使協定の締結

次に、労働組合や従業員代表との間で労使協定を結ぶ必要があります。この協定には、裁量労働制を適用する業務や労働時間の基準、適用開始日などを明記します。

運用の透明性確保

導入後も、労働時間や業務の進行状況を定期的に把握し、適切な運用が行われているか確認することが重要です。

おわりに

裁量労働制は、企業と従業員双方に効率性をもたらす新しい働き方です。ただ、専門的な業務や企画業務において、従業員の裁量を尊重し、生産性の向上や柔軟な働き方を促進する一方で、適切な導入や運用が求められます。企業がこの制度を効果的に活用することができれば、より働きやすい環境を整えることが可能となり、従業員のモチベーション向上や成果を最大限に引き出されることが期待できます。