2024年10月1日、日本の最低賃金は全国平均で1055円に引き上げられました。この51円の増加は、昭和53年度に目安制度が導入されて以来、最大の引き上げ額となりました。しかし、この増加にもかかわらず、中小企業やサービス業は依然として人手不足が続いています。

賃金の引き上げだけではこの問題の解決には至らず、ほかの手段を考える必要があります。その一つとして、外国人労働者の採用が注目されています。

都道府県別最低賃金ランキング

まず、日本国内の都道府県別最低賃金を見てみると、最低賃金が高い地域と低い地域の差が大きいことがわかります。例えば、2024年10月の引き上げ後の最低賃金を見てみると、以下のような傾向が見られます。

高い順

都道府県最低賃金
東京都1163円
神奈川県1162円
大阪府1114円

低い順

都道府県最低賃金
秋田県951円
岩手県(ほか4県)952円
青森県(ほか2県)953円

このように、最低賃金の格差が地域によって大きく、特に地方では賃金水準が低いため、人手不足がより顕著です。この地域格差は、企業が適切な賃金を支払うことが困難である現実を反映しており、地方の企業にとっては労働力確保がますます難しくなっています。

また、最低賃金には地域別最低賃金と特定最低賃金があります。

地域別最低賃金は、各都道府県において定められた最低賃金のことで産業や職種にかかわりなくそのエリアの事業所すべてに適用されます。また、最低賃金は正社員だけでなく、あらゆる雇用形態に適用されます。

特定最低賃金とは、特定の職種(製造業や鉄鋼業)などに定められており、一般的には地域別最低賃金よりも給与水準が高いことが特徴です。

日本の最低賃金はほかの国と比べても低い

 

日本の最低賃金は、先進国の中でも比較的低い水準にあります。OECDのデータによると、日本の最低賃金はほかの主要国と比較して後れを取っています。以下の表は、いくつかの国の最低賃金の比較です(日本円換算、OECD参考)。

オーストラリア:約2160.27円

オーストラリアでは労働組合の権力が強く、最低賃金は世界最高水準となっています。

フランス:約1835.96円

アメリカ:約1076.86円

国の連邦議会が定めた賃金の他に、各州が独自に定めている賃金も存在します。

日本:約1055円

このデータからもわかるように、日本の最低賃金は物価や生活費に対して不足しているとの指摘があります。特に、都市部の生活費に対しては最低賃金が十分ではないため、多くの労働者が生活に困難を感じています。

人手不足の現状

最低賃金の引き上げにもかかわらず、人手不足が続いているのは、賃金だけが問題ではありません。ほかの要因は、人口減少と少子高齢化です。日本の総人口は毎年減少しており、労働力の担い手となる若年層が減少しています。一方で、65歳以上の高齢者が増加し、労働市場からの引退者が増えていることから、労働供給が追いつかない状況です。

特に、次のような業界で人手不足が深刻化しています。

介護業界:高齢化に伴い、介護サービスの需要が急増しているにもかかわらず、介護職の給与や労働環境が厳しいため、介護職に従事する人材が不足しています。

建設業:オリンピックやインフラ整備などの大規模な建設プロジェクトが進行中でありながら、若年労働者の不足が大きな問題です。高齢の労働者に依存しているため、将来的な労働力の供給が懸念されています。

飲食業・サービス業:賃金が低く、長時間労働が常態化しているため、国内の労働者に敬遠されがちです。この業界でも外国人労働者の需要が高まっています。

農業・漁業:高齢化が進み、若者が農業や漁業を選ぶケースが少ないため、地方の農村や漁村で労働力が不足しています。

土木・介護・サービスに関する業種は人手不足が著しい一方、一般事務や会計事務、運搬・清掃・包装等の職業は人材の余剰が発生しています。

上記の業界では人手不足が著しい一方、一般事務職や会計職は人材の余剰が発生しています。このように、企業が求める人材と求職者の持つ特性が異なることを「構造的失業」と呼びます。

少子高齢化による労働力不足と構造失業の二つが相まって、慢性的な人手不足という事象を引き起こしています。

また、近年ではワーキングホリデーとして海外で働く若者も増加しており、日本の人手不足に拍車をかけています。

外国人労働者の採用が有効な理由

このような状況の中、外国人労働者の採用が解決策として注目されています。外国人労働者の採用には以下のようなメリットがあります。

労働力の確保

外国人労働者は、少子高齢化によって労働力が減少している日本にとって貴重な労働力源となります。

厚生労働省が行った2024年の調査では外国人労働者は200万人以上にのぼっており、制限なく働くことのできる「永住権」「定住権」「配偶者」ビザを所有している人は約100万人以上に上ります。

特に、建設業や製造業、介護業界などの労働集約型産業では、外国人労働者が重要な役割を果たしています。

多文化共生の推進

多文化共生とは「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」です。(多文化共生の推進に関する研究会報告書~地域における多文化共生の推進に向けて  総務省 2006 年 3 月参照)

外国人労働者の存在は、多文化共生社会の実現にも寄与します。多様な価値観や文化を持つ労働者が企業内に存在することで、イノベーションや新しい視点が生まれ、企業の競争力を高めることができます。

また、自国から離れて海外に行くということは「かならず成果を上げなければならない」という大きなプレッシャーを背負っています。意識レベルがとても高い方も多くいらっしゃいます。

言語の利点

外国人労働者の中には、2か国語は当然のこと、3か国語以上話せる人もいます。

特に観光業やサービス業においては、外国語を話せる労働者がいることで、外国人観光客とのコミュニケーションがスムーズになり、顧客満足度の向上につながることでしょう。

近年ではインバウンドの数も増えており、外国人労働者の活躍の場が広がっています。

外国人労働者の受け入れに対する懸念とその解消

外国人労働者の採用にはメリットが多い一方で、言語や文化の違いからくるコミュニケーションの難しさなど、課題も存在します。

しかし、多くの企業が外国人労働者の受け入れ体制を整え、適切なトレーニングやサポートを提供することで、これらの課題は解決可能です。

特に、優しい日本語を使った研修プログラムや、外国人労働者同士のネットワーク構築が有効です。

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外国人労働者の採用を成功させるために

外国人労働者の採用を成功させるためには、企業側の体制も重要です。まず、外国人労働者が働きやすい環境を整えることが求められます。具体的には、以下のような取り組みが効果的です。

職場環境の改善

外国人労働者が馴染みやすいよう、文化や宗教の違いを尊重する職場環境を作ることが重要です。例えば、礼拝スペースの設置や、食事の選択肢を提供することが考えられます。

また、あらかじめ日本特有のルールを教えておく、わからないことを聞けるような環境を作るなど、外国人労働者の心に寄り添った職場づくりが必要です。

キャリアパスの提供

外国人労働者が長期的に働くためには、明確なキャリアパスを提供することが有効です。

母国から離れて日本に来ているため、中には「一時帰国したい」という方もいらっしゃいます。そういった場合に対応できるようなキャリアパスを用意しておくことも求められるでしょう。

また、昇進やスキルアップの機会を示すことで、労働者のモチベーションを高めることができます。

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おわりに

日本の最低賃金が引き上げられたものの、人手不足は依然として深刻な課題です。この問題を解決するためには、外国人労働者の採用が一つの有効な手段となります。多様な文化や言語を持つ労働者を受け入れることで、企業は新たな視点を得るだけでなく、競争力を強化することができます。

労働力不足に悩む企業は、積極的に外国人労働者の採用を検討することで、未来に向けた持続可能な成長を目指していくべきです。