近年、日本の多くの業界で慢性的な人手不足が問題となっており、多くの企業が外国人労働者の雇用を視野に入れはじめています。特に、飲食業、製造業、介護業など、従来の日本人労働者だけでは人手が足りない分野では、外国人を社員やアルバイトとして採用することが有効な対策となっています。しかし、外国人を雇用するためには、ビザやパスポートなどの書類に関する正しい知識を持つことがとても重要です。これらの書類について理解が不十分だと、労働者の就労資格に関する問題が発生する可能性があります。

外国人を適切に雇用し、法的なトラブルの発生を回避するためには、ビザとパスポートの違いを理解することが不可欠です。本記事では、ビザとパスポートの違いを詳しく説明し、外国人労働者の雇用手続きをスムーズに進めるための基本的な情報を紹介します。

ビザとは何か?

ビザ(査証)は、外国人がある国に入国し、その国で一定期間滞在することや特定の活動を行うことを許可する書類です。ビザは、渡航先国の政府や領事館によって発行され、ビザの種類に応じてその国で何ができるかが決まります。たとえば、日本で働くためには就労ビザが必要ですし、観光目的での滞在には観光ビザが必要です。

ビザは、滞在目的に応じてさまざまな種類があります。特に、外国人労働者を雇用する際に関わるビザには以下のような種類があります。

就労ビザ:外国人が日本で合法的に働くためのビザ。これには、技術・人文知識・国際業務ビザや技能ビザなどがあります。
留学ビザ:留学生がアルバイトをするためのビザ。週28時間以内の就労が許可されています。
家族滞在ビザ:就労者の家族が日本で生活するためのビザで、場合によってはアルバイトが可能です。

ビザには有効期限や滞在目的に関する条件が設けられており、その条件に違反すると、不法滞在や不法就労となるリスクがあります。そのため、企業は雇用する外国人が適切なビザを持っているかどうかを確認することが重要です。

パスポートとは何か?

パスポートは、自国の政府が発行する国際的な身分証明書であり、海外渡航の際に必要な書類です。パスポートには、持ち主の氏名、写真、生年月日、国籍、発行国などの個人情報が記載されています。外国人が日本に入国する際にも、まずはパスポートが必要です。

ただし、パスポートは単に「身分証明書」の役割を果たすものであり、それ自体は就労や滞在許可を示すものではありません。渡航先の国で活動するためには、パスポートに加えてビザが必要となります。

ビザとパスポートの共通点

どちらも海外渡航に関する重要な書類

ビザとパスポートはいずれも、外国に渡航し、滞在するために必要な書類です。これらの書類が揃わなければ、合法的に他国に入国し、活動を行うことはできません。特に企業が外国人を雇用する際には、どちらの書類も確認する必要があります。

発行元が政府機関

パスポートは自国の政府によって発行され、ビザは渡航先国の政府が発行します。どちらもその国の法律に基づいて発行される公式な書類であり、法的な意味を持ちます。企業が外国人を雇用する際には、これらの書類が正式に発行されたものであることを確認することが大切です。

ビザとパスポートの違い

目的の違い

パスポートは自国民であることを証明するための書類であり、他国への渡航時やその国での身分証明として使用されます。一方、ビザは渡航先の国に入国し、滞在するための許可を示す書類です。ビザは、滞在期間や活動内容が制限されており、渡航先国の入国管理法に基づいて発行されます。

有効範囲の違い

パスポートは基本的に全世界で使用できる「身分証明書」としての役割を果たしますが、ビザは特定の国でのみ有効です。たとえば、日本で働くためには、日本政府が発行したビザが必要です。外国人がパスポートを持っていても、日本で働くためには必ずビザを取得する必要があります。

 

ビザの就労制限

外国人が日本で働くためには、特定の就労ビザを持っている必要があります。就労ビザには「技術・人文知識・国際業務ビザ」などがあり、それぞれのビザには従事できる職種や業務の範囲が決まっています。

ビザの種類

技術・人文知識・国際業務ビザ:技術職やホワイトカラーの職業(ITエンジニア、通訳、デザイナーなど)に従事するためのビザ。
技能ビザ:料理人や職人、特定の技術や技能を必要とする職業に従事するためのビザ。
高度専門職ビザ:専門性の高い業務に従事する高スキルの外国人労働者向けのビザ。

各ビザは対応する職種でのみ働くことが許可されており、許可されていない職種での就労はできません。例えば、「技術・人文知識・国際業務ビザ」を持っている場合、飲食店での接客や単純労働は基本的に許可されていません。

就労場所の制限

外国人労働者は、ビザ申請時に提出した雇用先で働くことが前提となっています。もし、別の会社や異なる職場で働きたい場合、就労先を変更する際に、入国管理局に対して手続きを行う必要があります。無断で転職したり、ビザの範囲外の業務に従事したりすると、ビザ違反となる可能性があります。

労働時間の制限

一部のビザには労働時間に関する制限があります。例えば、留学ビザや家族滞在ビザでは、週28時間までのアルバイトが許可されていますが、それを超えて働くことはできません。しかし、就労ビザ(例えば「技術・人文知識・国際業務ビザ」)を持っている場合は、通常の正社員としてフルタイムで働くことができます。

在留期間の制限

就労ビザには有効期限があります。通常、1年、3年、または5年の期間が与えられ、期限が切れる前に更新手続きを行う必要があります。期限が切れてしまった場合は、日本国内での滞在や就労が不法となり、強制退去や法的な処罰の対象となる可能性があります。

副業やアルバイトの制限

就労ビザを持っている外国人が、副業やアルバイトをする際にも制限があります。ビザの範囲内で許可された業務に従事することはできますが、それ以外の職種や業務を行うためには、追加の許可が必要です。たとえば、アルバイトをする場合は、入国管理局から「資格外活動許可」を取得する必要があります。

家族の就労制限

外国人就労者の家族が日本に滞在する場合、家族滞在ビザが発行されます。しかし、このビザでの就労は原則として許可されておらず、就労を希望する場合は、別途許可を取得しなければなりません。通常はアルバイト程度の就労が許可されることが多いです。

企業が外国人を雇う際には、どのビザでどのような仕事が許可されているのかを確認する必要があります。また、留学生の場合、留学ビザで週28時間までのアルバイトが認められているため、労働時間を超えないように管理することが求められます。

在留カードと外国人雇用における注意点

日本で中長期的に滞在する外国人には、在留カードが発行されます。在留カードには、外国人の在留資格(ビザの種類)、滞在期間、就労制限の有無が記載されています。企業は、ビザだけでなく在留カードも確認し、雇用契約を結ぶ前に、その外国人が合法的に日本で働く資格を持っているかどうかを確認する必要があります。

また、在留カードには有効期限があり、これを超えて滞在する場合には更新手続きを行わなければなりません。更新手続きを怠ると不法滞在となり、企業側も罰則を受ける可能性があるため、定期的な確認が求められます。

雇用企業の責任と外国人労働者の管理

外国人を雇用する企業には、外国人労働者の就労状況を適切に管理する責任があります。ビザや在留カードの確認はもちろんのこと、就労条件が守られているか、適切な労働環境が提供されているかを確認する必要があります。

また、雇用契約書を作成する際には、外国人労働者が理解しやすい言語で契約内容を説明し、誤解やトラブルを未然に防ぐことが大切です。特に、日本語が不自由な外国人に対しては、英語や母国語での説明を用意することが推奨されます。

おわりに

外国人を社員やアルバイトとして雇用する際には、ビザとパスポートの違いを正しく理解することが重要です。パスポートは外国人の国籍を証明する国際的な身分証明書であり、ビザは日本での滞在や就労を許可する書類です。企業が外国人を雇用する際には、これらの書類を適切に確認し、就労資格や在留資格に基づいた管理を行うことが求められます。

特に、日本での労働はビザの種類や条件に大きく依存しています。そのため、企業は外国人労働者に適切な労働環境を提供し、法的な手続きをしっかりと守ることが必要です。ビザとパスポートの違いを理解し、スムーズな外国人雇用を実現するために、正確な情報を持ち、必要な手続きをおこたらないようにしましょう。