特定技能外国人の受け入れ準備で、多くの採用担当者様が迷われるのが「健康診断」です。いつ、どのような内容を、誰の負担で実施すべきか、そのルールは複雑に感じるかもしれません。本記事では、特定技能外国人の健康診断に関する一連の手続きを「タイミング」「内容」「費用負担」の観点から整理し、採用担当者が実務で迷わず対応できるよう、最新情報に基づき分かりやすく解説します。

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なぜ必要?特定技能制度における健康診断の重要性

特定技能外国人の健康診断は、単に従業員の健康状態を把握するためだけではありません。主に以下の2つの法律に基づく重要な手続きです。

出入国管理及び難民認定法(入管法)上の要件: 特定技能の在留資格申請(新規の認定申請、または国内での変更申請)において、申請者本人が健康であることを証明する書類として、健康診断書の提出が求められます。これは、日本で安定的に就労・生活するための健康状態を確認する目的があります。

労働安全衛生法上の事業者の義務: 日本人従業員と同様に、事業主は常時使用する労働者に対して、雇入れ時および年1回の定期的な健康診断を実施する義務があります。これは、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進するための企業の責任です。

このように、特定技能外国人の健康診断は、入管法と労働安全衛生法の両方の観点から適切に実施する必要があります。

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【タイミング別】健康診断の実施フロー

特定技能外国人に対して健康診断を受けさせるタイミングは、大きく分けて3つあります。それぞれの目的と対象者を正しく理解しましょう。

Flow 1:在留資格申請前(入国前)の健康診断

  • 目的: 出入国在留管理庁へ在留資格の申請をおこなうため。本人が特定技能の活動を安定的かつ継続的におこなえる健康状態であることを証明します。
  • 実施時期: 在留資格認定証明書交付申請(海外から呼び寄せる場合)または在留資格変更許可申請(国内で切り替える場合)の前。診断日から3ヶ月以内のものが有効です。
  • 対象者: これから特定技能1号の在留資格を取得しようとする全ての外国人。

Flow 2:雇入れ時(入社時)の健康診断

  • 目的: 労働安全衛生法に基づき、労働者の適正配置や入社後の健康管理に役立てるため。
  • 実施時期: 雇入れの直前または直後。
  • 対象者: 新たに常時使用する労働者として雇用する特定技能外国人。 (根拠:労働安全衛生規則 第43条)
  • 【実務ポイント】 Flow 1の申請前健康診断が、この雇入れ時健康診断の法定項目を満たしている場合、その結果をもって雇入れ時健康診断に代えることが可能です。ただし、診断日から3ヶ月を超えている場合は、再度実施する必要があります。

Flow 3:入社後の定期健康診断

  • 目的: 労働安全衛生法に基づき、従業員の健康状態を定期的に確認するため。
  • 実施時期: 1年以内ごとに1回。
  • 対象者: 常時使用する特定技能外国人(日本人従業員と同様)。

(参照:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」

受診すべき必須項目と診断書の様式について

それぞれの健康診断で求められる検査項目や、使用すべき診断書の様式には違いがあります。

在留資格申請時に必要な健康診断の項目と様式

出入国在留管理庁への申請には、特定の診断項目を満たした健康診断書が必要です。診断書の様式は任意とされていますが、必要な検査項目が全て記載されている必要があるため、以下の公式参考様式を利用するのが最も確実です。

使用する様式: 参考様式第1号の5「健康診断個人票」

主な必須項目: 身長、体重、視力、聴力、胸部エックス線検査、血圧、医師による診断(診察所見)など。

この様式は、出入国在留管理庁のウェブサイトからダウンロードできます。医療機関にこの様式を持ち込み、作成を依頼してください。 (参照:出入国在留管理庁「(参考様式第1号の5)健康診断個人票」

労働安全衛生法に基づく健康診断の項目

雇入れ時健康診断および定期健康診断では、労働安全衛生規則第43条および第44条で定められた検査項目を実施する必要があります。

主な必須項目(雇入れ時):

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査 5. 血圧の測定
  5. 貧血検査(赤血球数、血色素量) 7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  6. 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)
  7. 血糖検査
  8. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無)
  9. 心電図検査

(参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000032 ※第四十三条、第四十四条をご確認ください)

【実務ポイント】 労働安全衛生法に基づく健康診断の項目は、入管法で求められる項目を包含しています。そのため、雇入れ時健康診断の結果(診断書)を、在留資格変更申請時の健康診断書として提出することも可能です(申請時に診断日から3ヶ月以内であること)

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入管法と労安衛法で求める検査項目の違いと実務対応

特定技能外国人の健康診断で最も重要な実務上のポイントは、「労働安全衛生法に基づく雇入れ時健康診断の項目が入管法の項目をほぼ包含している」という点です。

検査の目的主な根拠法主な必須項目(概要)実務上の違いとポイント
在留資格申請時入管法身長、体重、視力、聴力、胸部X線、血圧、医師の診断など。項目が比較的少ない。特定技能の活動を安定的に行う健康状態かを確認する。専用の参考様式(第1号の5)の使用が推奨される。
雇入れ時労安衛法入管法の項目に加え、貧血、肝機能、血中脂質、血糖、尿検査、心電図など全11項目(労働安全衛生規則第43条)。項目がより詳細かつ網羅的。日本の労働者と同じ内容が義務付けられている。

【実務上の結論】

入管法に基づく在留資格申請時に、労働安全衛生法で定める「雇入れ時健康診断」の全項目を実施した結果(診断書)を提出すれば、その診断日が3ヶ月以内であれば、入管法上の健康診断書の要件も満たします。

  • 海外から呼び寄せる場合: 申請に必要な入管法の様式(参考様式第1号の5)で実施し、入国後に労安衛法の項目が不足していれば補完的に実施する方法もありますが、入管法に必要な項目を含んだ労安衛法項目で一度に実施すれば二重の手間を防げます。
  • 国内で在留資格を変更する場合: 雇入れ時健康診断の法定項目を全て含んだ診断書を取得し、それを入管へ提出すれば、二つの法律の要件を同時に満たせます。

この違いを理解し、「労安衛法の雇入れ時健康診断」を基準として実施することが、最も効率的かつ法令遵守に確実な方法です。

健康診断の費用は誰が払う?企業の負担範囲

健康診断の費用負担については、法律で明確に定められています。

  • 労働安全衛生法に基づく健康診断(雇入れ時・定期): 法律によって事業者に実施が義務付けられている健康診断の費用は、当然に事業者が負担すべきものであるとされています。これは、特定技能外国人にも等しく適用されます。
  • 在留資格申請前の健康診断: こちらは直接的に労働安全衛生法に基づくものではありませんが、特定技能外国人を受け入れるための手続きの一環であることから、受け入れ企業が負担することが望ましいとされています。円滑な受け入れと良好な関係構築のためにも、企業が費用を負担することを推奨します。

費用相場は医療機関や検査項目によって異なりますが、一般的に5,000円~15,000円程度です。複数人をまとめて受診させる、あるいは企業の提携医療機関を利用するなどの工夫で、コストを抑えることも可能です。

健康診断後のフォローアップ:再検査と結果通知の注意点

健康診断の実施はゴールではありません。診断結果を受けて、労働者である特定技能外国人に対する適切なフォローアップを行うことは、労働安全衛生法上の事業者の義務です。特に再検査や結果の取り扱いについては、細心の注意を払う必要があります。

1. 診断結果の通知と記録の保存(義務)

  • 通知の義務: 事業者は、健康診断の結果を遅滞なく当該労働者に通知しなければなりません(労働安全衛生法第66条の6)。特定技能外国人に対しても、結果を本人が理解できる言語で伝えるよう配慮することが望まれます。
  • 記録の保存: 健康診断の結果は、「健康診断個人票」を作成し、5年間保存する義務があります。これは、入管法上の在留資格更新時など、将来の確認にも必要となる重要な記録です。

2. 再検査・精密検査の指示と費用負担

  • 再検査の指示: 医師や保健師から、診断の結果「異常あり」と診断され、再検査や精密検査が必要とされた場合、事業者は労働者に対し、その検査を受けるように指導・勧奨する責任があります。
  • 費用負担: 再検査や精密検査の費用については、労働安全衛生法上の企業の義務として実施されるものではないため、原則として労働者本人(特定技能外国人)の自己負担となります。

3. 医師等からの意見聴取(就業上の措置)

  • 意見聴取の義務: 健康診断の結果、異常の所見があった特定技能外国人について、事業者は、医師または歯科医師の意見を聴取しなければなりません(労働安全衛生法第66条の4)。
  • 就業上の措置: 聴取した意見に基づき、必要に応じて「就業場所の変更」「作業の転換」「労働時間の短縮」「深夜業の回数の減少」などの措置を講じる義務があります。これは、特定技能外国人の健康を維持し、安定的な就労を継続させるための、企業側の最も重要な責務です。

4. 定期健康診断の適切な案内

  • 定期実施の管理: 雇入れ時健康診断後は、1年以内ごとに1回、定期健康診断を実施する義務があります。特定技能外国人が多忙などを理由に受診漏れとならないよう、企業側がスケジュールを厳格に管理し、事前に受診を促す丁寧な案内が必要です。

まとめ

特定技能外国人の健康診断は、入管法と労働安全衛生法という2つの法律に基づき、適切なタイミングで実施することが企業の義務です。

費用は原則として企業負担であると理解し、計画的に実施しましょう。必要な手続きを確実に実行することが、法令遵守はもちろん、従業員の健康を守り、安心して働ける職場環境の第一歩となります。

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