介護業界では人手不足が加速しています。 
対策として「外国人採用」が行われていますが、どのように外国人介護士を雇用するのでしょうか。

本記事では外国人介護士を雇用する条件や注意点をまとめています。

介護業界の現状

深刻な人手不足

厚生労働省は、2023年度に約233万人の介護職員が必要だと発表しました。
しかし、同年度の介護職員数は約214.9万人にとどまり、必要数を大幅に下まわる結果となりました。

さらに2025年度には約243万人の介護職員が必要とされ、高齢化が進んでいることから今後も人手不足が深刻化すると考えられています。

参考:厚生労働省 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

外国人の受け入れ数

人手不足への対応として、介護業界では外国人の受け入れが積極的に進められています。
2023年には介護分野で働く在日外国人の数が約4万人を記録しました。

在留資格受入実績
EPA介護福祉士・候補者3,257人(うち資格取得者635人)
※2023年1月1日時点
在留資格「介護」5,339人
※2022年6月末時点
技能実習15,011人
※2022年6月末時点
特定技能17,066人
※2023年1月末時点

なかでも下記の表のように、介護分野の特定技能外国人は年々増えています。

参考:厚生労働省 介護分野における外国人の受入実績等

政府は今後も生活や日本語学習などの支援を施しながら、介護職で外国人の受け入れを推進していく方針だと示しています。

外国人介護士の在留資格

外国人が介護士として働くことのできる在留資格は4つあります。
それぞれのおさえておきたい条件や違いを表にまとめました。

EPA(経済連携協定)在留資格「介護」技能実習特定技能
目的・人材確保
・経済連携
・人材確保・国際貢献
・人材育成
・人材確保
在留期間4年上限なし5年5年
取得条件・看護学校卒業
・介護士認定
・日本語試験
・介護福祉士資格
・介護福祉士養成校卒業
・独自の試験
・実習
・独自の試験
・日本語試験
業務範囲制限なし制限なし1人での夜勤
服薬介助不可
訪問介護不可
転籍原則不可原則不可

なお、「技能実習」は廃止されることが2024年3月に閣議決定されています。
廃止にともない「育成就労制度」が新たな在留資格として導入される予定です。

育成就労制度の詳細は、以下の記事で紹介しています。

【最新情報】新制度「育成就労」について|技能実習制度との違い、何が変わるのか、今後の動きを詳しく解説

【目的】の違いについて

EPA(経済連携協定)の目的

日本と経済連携協定を結んでいるインドネシア・ベトナム・フィリピンの3カ国から介護福祉士を取得することが目的です。

在留資格「介護」の目的

資格を取得しても母国で介護業務につけない外国人をサポートするのと、即戦力の人材確保が目的です。

技能実習の目的

途上国などの母国で活かせる技能の習得を目指し、日本で人材を育成(実習)します。帰国することを前提とした国際貢献活動です。

特定技能の目的

人手不足の産業分野で、即戦力として働ける外国人材を確保することが目的です。

【在留期間】の違いについて

EPA(経済連携協定)の在留期間

最長で4年です。
入国4年目に、介護福祉士の国家試験に合格すれば永続的に働くことができます。

在留資格「介護」の在留期間

上限はありません。

技能実習の在留期間

技能実習1号が1年、技能実習2号が2年、技能実習3号が2年です。
通算で最長5年となっています。

特定技能の在留期間

特定技能1号の在留期間は最長で5年です。
在留期間に制限のない2号に「介護」分野はありません。

【取得条件】の違いについて

EPA(経済連携協定)の取得条件

EPAの取得条件は国によって異なり、以下のようになっています。

国名取得条件
インドネシア・高等教育機関(3年以上)卒業+インドネシア政府による介護士認定
・またはインドネシアの看護学校(3年以上)卒業
・日本語能力試験N4以上
フィリピン・4年制大学卒業+フィリピン政府による介護士認定
・またはフィリピンの看護学校(学士・4年)卒業
・日本語能力試験N5以上
ベトナム・3年制または4年制の看護過程修了
・日本語能力試験N3以上

これらに加えて日本入国後に日本語研修を受けなければなりません。

在留資格「介護」の取得条件

在留資格「介護」の取得条件は、以下になります。

  • 介護福祉士の資格を有している
  • 日本の企業(介護事務所)と雇用契約を結んでいること
  • 業務内容が介護もしくは介護の指導であること
  • 日本人と同等以上の報酬を受けること
  • 日本語能力試験N2以上

また介護施設で技能実習生として3年間就労した後に介護福祉士試験に受かる、もしくはEPA・特定技能として就労中に介護福祉士試験に受かることで移行することも可能です。

技能実習の取得条件

技能実習「介護」の取得には、介護経験もしくは介護に関する一定時間の講習の受講経験が必要です。
日本語能力試験はN4以上、さらに2年目にはN3以上が求められます。2年目にN3以上の日本語能力が示せなかった場合には、事業所で日本語の勉強を学ばせることを条件に、3年目まで在留が可能です。

特定技能の取得条件

介護業務に関する「介護技能評価試験」「日本語能力試験N4以上」もしくは「国際交流基金日本語テスト」に合格する必要があります。
なお、介護福祉士養成課程を修了している場合やEPAとして4年間問題なく従事した場合には試験が免除されます。

特定技能の詳細は、以下の記事で紹介しています。

在留資格「特定技能」についてぜんぶわかる|制度の概要・受け入れや支援の方法・関連機関の役割をまるっと解説

【業務範囲】の違いについて

EPA(経済連携協定)の業務範囲

訪問系のサービスには従事できません。
なお、夜勤は雇用して6ヶ月以上経過しているもしくは、日本語能力試験N2以上に合格している場合のみ任せることが可能となっています。

在留資格「介護」の業務範囲

従事できる業務に制限はありません。

技能実習の業務範囲

1人での夜勤と服薬介助が不可能となっています。
2年目以降の技能実習生は、ほかの介護士を同時に配置すれば夜勤が可能です。

特定技能の業務範囲

訪問系のサービスには従事できません。

転籍可否

EPA(経済連携協定)

原則、認められていません。
ただし、介護福祉士の国家試験に合格すれば可能となります。

在留資格「介護」

本人意向の転籍が可能です。

技能実習

原則、取得後3年間の転籍は認められていません。
ただし、受入れ企業が倒産した場合、もしくは技能実習2号から3号に移行するタイミング(4年目)でのみ転職が可能となっています。

特定技能

以下を要件に本人意向の転籍が可能です。

  • 転籍後に従事する分野に適した技能試験に合格している※同業種での転籍の場合は、再試験の必要はありません
  • 転籍先が受入れ機関の要件を満たしている

雇用にあたっての注意点

保険や年金の手続き

外国人を雇用する際に、日本人と同様に保険・年金への加入が必須となります。
外国人にも住民票やマイナンバー、年金手帳が発行されるので手続きを怠らないよう注意が必要です。

外国人の社会保険加入は必要なの? アルバイトのときにも必要になる条件とは? 社会保障協定についても解説

ハローワークへの届出

在留資格に関わらず、外国人の雇用はハローワークへ「外国人雇用状況の届出」を提出することが義務付けられています。具体的には、雇用保険被保険者資格取得届を提出する際に、国籍や在留資格名を記入します。

入職時と離職時に届出が必要となります。

定着・離職率について

離職率

介護労働安定センターによると、令和4年度の介護職の離職率は14.4%となっています。
2005年度には20.2%を記録しており、離職率はそこから年々回復している現状があります。

年度離職率
2005年20.2%
2010年17.8%
2015年16.5%
2020年14.9%
2022年14.4%

しかし、労働者の条件・仕事に対する悩みでは「人手が足りない」が52.1%で最多となっており、現場は引きつづき人手不足を感じていることが分かります。

参考:介護労働安定センター 「令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について」

離職理由

全体の離職理由は「職場の人間関係に問題があったため」が27.5%で最多です。
性別に分けて見ると、女性は全体と同じく「人間関係」が最多で、男性は「施設の運営のあり方に対する不満」が最多となっています。

特に、外国人介護士の場合は人間関係やコミュニケーションが問題として挙がるでしょう。
実際に「外国人労働者の活用に対する評価」では、従事できる仕事の制限を除いて「利用者の意思疎通における不安」が40.3%、「コミュニケーションがとりにくい」が38%で上位となっています。

このことから、雇用側と外国人の両者にとって意思疎通の難しさが人材確保や定着の隔たりとなっている考えられます。外国人介護士を受け入れ、早期の離職を防ぐためには、政府による支援に加えて社内での言語サポートを充実させることが求められるといえます。

参考:介護労働安定センター 「令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について」

まとめ

介護業界の現状と、外国人の受け入れについてまとめました。
人手不足が著しい介護職では今後さらに外国人材の雇用が進み、大きな力となると予測されます。

ぜひ最新の情報を追いながら、外国人採用に動き出しましょう。