日本人の残業時間って本当に長いの? 世界との違いや、日本ならではの理由、政府の対策もわかりやすく解説

日本では、長時間働くことがあたり前のように考えられてきました。とくに、昔は「長く働く人ほどまじめ」という考えが強く、それが今の働き方にも影響を残しています。
ただ、今の社会では、仕事の効率や社員の働きやすさが重視されるようになり、残業が多いことに疑問を持つ人も増えてきました。
最近は外国から来て働く人も多くなっています。その中で、日本の「残業が多い文化」は海外からも注目されるようになりました。
この記事では、日本の残業時間がどれくらいなのか、どんな法律があるのか、そして他の国と比べてどんな違いがあるのかを詳しく紹介します。
また、残業が多いことで起きる問題や、それを減らすためにできることについても考えていきます。企業で働く人はもちろん、日本と海外の働き方を比べてみたい人にも役立つ内容です。
目次
日本の会社員は、どれくらい残業しているの?
働く人の生活に大きく関わる「残業」。実際に、どのくらいの時間働いているのかを見てみましょう。
データで見る残業時間
厚生労働省の調査によると、日本の全産業における1か月の平均残業時間は10.0時間となっています。これは、前年よりも約2.7%少なくなっています。
この平均値にはパートタイムの人も含まれており、彼らの残業が少ないことで全体の数字が低めに出る傾向があります。また、この調査は会社からの報告をもとにしているため「サービス残業」や「みなし残業」といった、実際には記録されない残業が反映されていない可能性もあります。
実はもっと働いているかも?
2024年に行われたdodaのアンケートによると、会社員へのアンケート調査での1か月の残業時間は平均21.0時間でした。前の年に比べると、0.9時間減っているようです。
調査結果をくわしく見ると、「残業は月5時間未満」という人が最も多く22.7%を占めていましたが、逆に「月に40時間以上残業している」という人も少なくありませんでした。
このアンケート結果と、会社からの報告に出てくる平均残業時間には、約11時間もの差があります。このことから、実際には働いているけれど記録されていない「隠れ残業」があると考えられるでしょう。
参考:doda 平均残業時間の実態調査 残業が少ない・多い仕事は?
年代や職業によっても違いがある
残業時間は、働いている業界や年齢によってもかなり差があります。
たとえば、一般労働者の運輸や郵便の仕事では、1か月の残業時間が24.7時間と、全体の平均よりもかなり長めです。そのほかにも、情報通信や電気・ガス、教育関係の仕事も16時間台と高めの数字が出ています。
反対に、医療や福祉、複合サービス事業は、平均の10時間を下回っていることが分かっています。
年代ごとの詳しい数字は公表されていませんが、40代の働く人は管理職などを任されることが多く、残業が増えやすい傾向があります。一方、20代や女性は働き方改革などの影響もあって、残業が少なめになっているようです。
また、同じ職種でも会社の規模やITの導入状況によって残業の量はかなり変わります。数字だけでなく、自分の職場や業界の実際の状況を知るには、現場の声にも目を向けることが大切です。
日本の残業時間は、世界と比べてどうなの?
日本の働き方はよく「残業が多い」と言われます。では実際、ほかの国と比べてどうなのでしょうか。
ここでは、労働時間や生産性、そして外国人から見た日本の残業文化について紹介します。
年間の労働時間は世界31位
OECD(経済協力開発機構)の調べによると、2023年の日本の年間平均労働時間は1,611時間でした。この数字は、加盟38か国の中で31位となっています。
もっとも長かったのはコロンビアの2,297時間、韓国は1,872時間、アメリカは1,799時間と、日本よりも長く働いている国が多くあります。
逆に、フランスは1,500時間、ドイツは1,343時間と、日本よりも短い時間で働いています。
こうして見ると、日本の労働時間はそれほど長くないように見えますが、その理由のひとつに「パートタイムで働く人の割合が高いこと」があります。実際に、日本のパート比率はOECDの中で4番目に高く、女性や高齢の方が多く働いていることも関係しています。
そのため、パートタイムの人も含めた「平均」では1,611時間となっていますが、フルタイムで働いている人だけを見れば、もっと長い時間働いていると考えられるでしょう。
生産性は世界で29位
2023年のデータによると、日本の1時間あたりの労働生産性(GDPベース)は56.80ドルでした。これは、OECD加盟38か国の中で29位という結果です。
たとえば、アイルランドは154.90ドル、アメリカは97.70ドルと、かなり高い水準にあります。それと比べると、日本はまだ低い方に入ります。
このように生産性が低い原因としては、長く働くことが普通になっていることや、仕事の進め方が非効率であること、さらにITの導入があまり進んでいないことなどが挙げられます。
また、サービス残業やみなし残業のように、実際の働いた時間がきちんと記録されていないことも、生産性の計算を難しくしているようです。
外国人から見た「日本の残業文化」
多くの国では、仕事とプライベートをしっかり分けることが大切にされています。そのため、日本のように残業が当たり前という考え方には、なかなか慣れない人も多いようです。
ヨーロッパの国々では、決められた時間に退社するのが普通で、無理に長く働くことはほとんどありません。そのため、日本のように「上司が帰らないから自分も帰れない」という空気に驚く人が多いようです。
アジアの国々でも、同じように日本の働き方に違和感を覚える声があります。
たとえば、フィリピンやベトナムでは、家族との時間をとても大切にする文化があります。そうした国の人にとっては、仕事のせいで家族との時間が少なくなる働き方はなじみにくいと感じるようです。
さらに、日本では仕事の後に飲み会に参加するのが当たり前という職場もあります。いわゆる「飲みニケーション」と呼ばれるものですが、これも外国の人からすると不思議に思われることが少なくありません。
「上司がいるから帰れない」「仕事のあとも職場の人と過ごす」といった文化は、海外とはかなり違ったものに見えるのでしょう。
日本の残業時間に関するルールってどうなっているの?
働く時間には法律による決まりがあります。ここでは、残業時間の上限や健康への影響について説明します。
月45時間・年360時間が原則の上限
2019年4月から、法律によって残業の上限がはっきりと定められました。原則として、1か月の残業時間は45時間以内、1年間では360時間までにおさえる必要があります。
この決まりを超えて働いてもらうには、「特別条項付き36協定(サブロクきょうてい)」という書面を、会社と労働者の代表(または労働組合)で結ぶ必要があります。ただし、それだけでは不十分で、労働基準監督署に提出しなければなりません。
また、実際に長時間の残業がある場合は、あらかじめ労働者代表と話し合いを行い、その内容を伝えることが求められています。こうした手続きが行われないまま長時間働かせた場合、会社には罰則が科される可能性もあるため注意が必要です。6か月以下の懲役や30万円以下の罰金が課されることもあります。
つまり、残業時間の管理は、会社が勝手に決めてよいものではありません。法律に沿った正しい手続きを踏むことが求められています。
特別条項付きの協定を結んでも、以下のような制限があります。
- 時間外労働は1年間で720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が、1か月で100時間未満
- 2〜6か月の平均が月80時間以内
- 月45時間を超えてよいのは年間6か月まで
「過労死ライン」とは? 面接を受ける義務もある
「過労死ライン」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、長時間働きすぎることで命に関わる病気につながる可能性が高くなるラインのことを指しています。
厚生労働省によると、月に80時間を超える時間外・休日労働があると、脳や心臓の病気になるリスクが高まるとされています。実際、このラインを超えると、仕事と病気の関係が強いと判断されやすくなります。
また、月45時間を超える残業が続くと、たとえ80時間に達していなくても、少しずつ体に負担がたまっていくと考えられています。
そのため、労働安全衛生法では、1か月に80時間以上の時間外・休日労働があった場合、会社には医師による面接指導を行う義務があると決められています。この決まりは、フレックスタイム制や変形労働時間制を使っている場合でも同じです。
過労死を防ぐには、単に時間を減らすだけでなく、ふだんの体調や仕事の大変さにも気をつけることが大切です。会社と働く人のどちらもが意識して行動していく必要があるでしょう。
残業が会社や働く人に与える影響とは?
長時間の残業は、ただ働く時間が長くなるだけではありません。会社にも、働く人にも大きな影響を与えています。
人が辞めやすくなり、採用にお金がかかる
残業が多い職場では、働く人のやる気が下がりやすくなります。その結果、会社を辞める人が増えてしまうのです。とくに、人手不足が問題になっている運送業や建設業では、月に20時間を超える残業が続くと、辞める人がさらに増えるというデータもあります。
人が辞めてしまうと、新しい人を採用するためにお金も時間もかかります。求人広告を出したり、人材紹介会社にお金を払ったり、面接や教育にも手間がかかります。
中途採用の人が辞めた場合、採用から一人前になるまでにかかる費用は約650万〜700万円にものぼると言われています。
体調不良になり、仕事の効率も落ちてしまう
長く働きすぎると、体にも心にも大きな負担がかかります。前述したように「月に100時間以上残業する」または「2〜6か月の平均で月80時間以上残業する」という働き方は、脳や心臓の病気につながるリスクが高いとされています。
さらに、疲れがたまることで仕事のパフォーマンスも落ちやすくなります。集中力が続かなかったり、判断ミスが増えたりすることで、仕事でのミスや事故が起こることもあります。こうなると、どれだけ長く働いても成果は出にくくなり、会社全体の効率も悪くなるでしょう。
会社の評判が悪くなり、人が集まらなくなる
残業が多い会社は、世間から「ブラック企業」と思われることがあります。最近ではSNSや口コミサイトで情報がすぐに広まるため、働きすぎているという評判が出回ると、会社のイメージが悪くなってしまいます。
イメージが悪くなると、優秀な人が応募してこなくなり、採用もうまくいかなくなるかもしれません。さらに、今いる社員の気持ちも冷めてしまい、やる気がなくなることもあるでしょう。その結果、また誰かが辞めてしまうという悪い流れにつながってしまいます。
福利厚生が意味を持たなくなり、満足度も下がる
働く時間が長いと、健康診断や有給休暇、研修などの制度があっても、実際には使う時間がなくなってしまいます。そうなると、せっかくの福利厚生があっても意味が薄れてしまい、社員の満足度も下がっていきます。
社員がしっかりと福利厚生を利用できる環境をつくることは、とても大切です。
そうすることで、会社の魅力も上がり、辞める人が減ったり、生産性が上がったりする可能性があります。そのためには、残業を減らしたり、仕事のやり方を工夫したりすることが必要です。
残業が増える6つの原因とは?
残業がなかなか減らない背景には、いくつかの共通した原因があります。ここでは、その主な6つを紹介します。
1. 紙でのやりとりや承認に時間がかかる
紙を使った申請や承認の仕組みは、仕事がスムーズに進まない原因のひとつです。
たとえば、ハンコをもらうために書類を回す必要があったり、担当者が席を外していると手続きが止まったりします。その結果、本来なら定時までに終わる仕事が後回しになり、残業につながってしまうことがあります。
最近はデジタル化が進んでいますが、いまだに紙の文化が根強く残っている会社もあります。そうした職場では、仕事の進め方を見直す必要があるでしょう。
2. 長く働くことをよしとする空気がある
日本の職場では、長く働くことがまじめさの証とされる場面がいまだにあります。たとえば、定時で帰ろうとすると「もう帰るの?」と言われることがあり、それが気になって帰りづらくなる人もいます。
また、上司や同僚が残っていると、自分だけ先に帰るのが悪いように感じてしまい、無理に残業することもあります。こうした空気は、本来必要のない残業を生み出す原因となっています。
3. 人手が足りなくて仕事が回らない
働く人が足りていないと、1人あたりの仕事の量が多くなります。とくに、少子高齢化や特定の仕事に人が集まりにくい状況が続く中、必要な人をなかなか集められない会社も増えています。
その結果、今いる社員の負担が大きくなり、仕事の効率が下がったり、体力的にもきつくなったりします。こうした状況が続くと、さらに人が辞めてしまい、新しい人も来ないという悪い流れに陥ることもあります。
4. 急な対応が必要になり、予定通りに進まない
お客さんからの依頼を最優先する会社では、急な変更や頼まれごとがよく起こります。とくに営業やカスタマーサポートのような職種では、そういった対応が日常的に発生します。
こうした突発的な仕事が入ると、もともと予定していた作業が後ろにずれてしまい、残業が増える原因になります。仕事の優先順位を決めたり、予定を調整したりする工夫が求められる場面です。
5. 特定の人だけがやり方を知っている
ある仕事が特定の人しかできない状態だと、その人が休んだときに仕事が進まなくなります。また、新しく入った人への教え方がしっかりしていないと、仕事を覚えるのに時間がかかってしまいます。
仕事の進め方がバラバラだったり、マニュアルが整っていなかったりする職場では、全体の効率が下がりやすくなります。定期的な研修や情報の共有が必要になるでしょう。
6. サービス残業が当たり前になっている
サービス残業とは、働いた時間に対してお金が出ない状態のことです。日本では「残業はして当たり前」「申請しにくい」という空気がまだ残っており、実際にサービス残業が見過ごされている職場も少なくありません。
こうした働き方では、働いた時間が正確に記録されず、体にかかる負担も大きくなります。また、本人が申告しない限り気づかれにくいため、「隠れ残業」として放置されがちです。
このような状態は、社員のやる気を下げたり、体調を崩す原因にもなります。会社にとっても法律的な問題になりかねず、長期的には社員の退職や仕事の効率の低下につながるおそれがあります。
残業を減らすには、どんな方法があるの?
「残業を減らしたい」と思っても、具体的に何をすればいいのか悩むこともあるでしょう。
ここでは、実際に効果があるとされている4つの取り組みを紹介します。
勤怠を見える化して「隠れ残業」をなくす
働いている人の労働時間を正しく知るために「勤怠可視化ツール」という仕組みを使うと便利です。
たとえば、パソコンのログオンやログオフの時間、どのアプリをどれくらい使ったかなどを自動で記録してくれるツールがあります。これによって、申告された労働時間とのズレがわかるようになります。
さらに、残業時間が多くなりすぎたときに、アラート(注意の通知)を出す機能もついているものがあります。こうした仕組みを活用すると、働く人も「今どれくらい残業しているか」を意識できるようになり、残業を減らすきっかけになります。
業務のムダをなくし、仕事を自動化する
仕事のやり方を見直したり、デジタル技術を取り入れたりすることで、残業を減らすことができます。これを「業務BPR(ビーピーアール)」や「DX(ディーエックス)」と呼ぶこともあります。
たとえば、建設業界では、書類のチェック作業を「RPA(ロボットによる自動処理)」で行うようにし、作業時間を大幅に短縮した事例があります。人が行っていた入力作業やコピー作業なども自動で行えるようになり、年間で1,600時間以上の仕事が減り、人件費も大きく節約できたそうです。
こうした取り組みは、仕事のムラをなくすことにもつながり、全員が本当にやるべき仕事に集中しやすくなります。
フレックス制度など柔軟な働き方を取り入れる
残業を減らすには、働き方そのものを見直すことも大切です。たとえば、フレックスタイム制度を使うと、始業や終業の時間を自分で調整できるようになります。朝の通勤ラッシュを避けられたり、夕方に家の用事を済ませたりと、生活に合わせた働き方ができます。
また「勤務間インターバル制度」という仕組みでは、仕事が終わってから次の出勤までにしっかり休む時間を取ることが決められています。これによって、働きすぎを防ぎ、体調を整えやすくなります。
こうした制度をうまく使うためには、勤怠管理の仕組みも整っていることが必要です。時間の管理がしっかりできれば、会社も働く人も安心して使うことができます。
外国人スタッフを活かしてシフトを最適化する
人手が足りないと、どうしても一人あたりの仕事量が多くなり、残業も増えがちです。そこで注目されているのが「外国人スタッフの力を借りる」という方法です。
たとえば「特定技能」や「技能実習」「留学生のアルバイト」など、さまざまな在留資格を持つ外国人を適切に配置することで、仕事を分け合うことができます。
飲食店や介護、物流、製造のような現場では、シフト制で柔軟に人を配置することで、繁忙期でもうまく対応している会社があります。
また、ITや翻訳など専門性が求められる仕事では、就労ビザを持つ外国人がすぐに活躍できることもあります。
外国人が長く安心して働くには、文化や言葉への配慮も欠かせません。たとえば、以下のような工夫が効果的です。
- 日常会話や悩みを相談できる窓口を作る
- 母国語で読めるマニュアルを用意する
- 宗教や生活スタイルに配慮した休憩スペースを設ける
- ランチ会や交流イベントで仲間意識を育てる
こうしたサポートがあれば、外国人スタッフも安心して働きやすくなります。その結果、人が定着しやすくなり、教育にかかる時間や費用も減っていきます。
最終的には残業が減るだけでなく、働きやすい職場づくりにもつながるでしょう。
さいごに
日本では、長く働くことがあたり前とされてきた文化や、仕事の進め方が非効率なこと、人手不足などが原因で、どうしても残業が増えてしまう傾向があります。ただ最近では、働き方改革やデジタル化が進み、少しずつ変化が見られるようになってきました。
それぞれの業界に合った工夫や対策を取り入れることで、仕事の効率を上げながら、残業を減らすことは十分に可能です。
これから先も、国や会社が協力しながら働く環境を整えていくことが大切になります。それによって、働く人の健康を守りながら、会社の成長にもつながる社会がきっとつくられていくはずです。