特定技能 事前ガイダンス:法的義務から実践まで完全網羅

特定技能制度を活用して外国人材の採用を進めるにあたり、「事前ガイダンス」は省令で義務付けられた非常に重要なプロセスです。
このガイダンスを適切に実施することは、外国人材が安心して日本で就労・生活をスタートできるだけでなく、受け入れ企業にとっても円滑な雇用関係の構築や早期離職の防止に繋がります。
本記事では、外国人採用をご担当される皆様が、特定技能の事前ガイダンスについて正確に理解し、適切に実施できるよう、その基礎知識から具体的な実施方法、注意点までを網羅的に解説します。
目次 [非表示]
特定技能「事前ガイダンス」とは?なぜ必要なのか?
特定技能「事前ガイダンス」とは、特定技能1号の在留資格で日本で就労しようとする外国人に対し、雇用契約締結後、在留資格に関連する申請を行う前に、労働条件、活動内容、入国・在留に関する手続き、日本での生活一般、そして受け入れ企業からの支援内容などについて説明を行うことを指します。
法的根拠と実施義務
事前ガイダンスの実施は、出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令や、特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令に基づき、受け入れ企業(または登録支援機関に委託している場合は登録支援機関)に義務付けられています。
- 参照:
事前ガイダンスの重要性と怠るリスク
このガイダンスは、外国人材が日本での就労や生活について正確な情報を得て、納得した上で来日・就労するためのものです。口頭での説明に加え、本人が十分に理解できる言語で記載された書面を交付して行う必要があります。
事前ガイダンスを適正に実施しない場合、支援計画の不備とみなされ、在留資格の認定・変更が不許可になる、または登録支援機関の登録取消しの対象となる可能性があります。
適切に事前ガイダンスを実施することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 外国人材の不安を軽減し、日本での生活や仕事への適応をスムーズにする
- 労働条件や業務内容に関する誤解を防ぎ、労務トラブルを未然に防止する
- 企業と外国人材との間の信頼関係を構築し、定着率の向上に繋げる
事前ガイダンスは「いつ」「誰に」行う?
事前ガイダンスの実施対象者とタイミングは明確に定められています。
対象となる外国人材
- 特定技能1号の在留資格で日本において就労することを希望する外国人
実施のタイミング
事前ガイダンスは、特定技能雇用契約を締結した後、以下のいずれかの申請を行う前までに行う必要があります。
- 海外に在住する外国人の場合: 在留資格認定証明書交付申請を行う前
- 日本国内に在住する外国人の場合: 在留資格変更許可申請を行う前
事前ガイダンスで「何を」伝えるべき?必須項目をチェック!
事前ガイダンスで提供すべき情報項目は、出入国在留管理庁により具体的に定められています。
外国人材が日本での仕事や生活を具体的にイメージでき、安心して準備を進められるよう、丁寧かつ正確な情報提供が求められます。
以下に主要な情報提供項目を挙げます。詳細は必ず出入国在留管理庁の最新資料をご確認ください。
主な情報提供項目
1) 従事する業務内容、労働条件に関する事項
- 具体的な業務内容、責任の範囲
- 所定労働時間、始業・終業時刻、休憩時間、時間外労働の有無・見込み
- 休日、休暇(年次有給休暇の付与日数・取得ルール含む)
- 賃金の額、構成(基本給、手当等)、計算方法、支払方法、支払日、昇給に関する事項
- 退職に関する事項(自己都合退職の手続き、解雇の条件・手続きなど)
2) 日本で行うことができる活動の内容
- 特定技能の在留資格で認められる活動の範囲
3) 入国・在留に関する手続き、準備に関する事項
- 本人が行うべき在留資格認定証明書交付申請または在留資格変更許可申請の手続き(必要書類、申請先、標準処理期間など)
- 入国前の準備(査証申請、航空券手配など)
- 入国後の手続き(住民登録、マイナンバー取得など)
- 在留期間の更新手続きについて
4) 保証金の徴収、違約金の定めその他の不当な金銭等の負担に関する事項
- 保証金や違約金を定める契約は禁止されていること
- 本人やその家族等が、上記のような契約を締結している(または締結させられている)場合は、その旨を申し出ること
5) 外国人本人が負担する費用(該当する場合)
- 食費、居住費など、日本での生活において本人が負担する費用の項目と金額の目安
- 渡航費用、入国・在留手続きに関する費用について、本人負担となる場合の範囲と金額
6) 受け入れ企業(特定技能所属機関)から受ける支援の内容
- 職業生活上、日常生活上、社会生活上の支援内容(生活オリエンテーションの実施、住居確保の支援、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応体制、日本人との交流促進など)
- 支援担当者や連絡窓口の情報
7) 相談・苦情の申出先
- 業務上の困りごとや生活上の問題について相談できる社内の窓口
- 行政機関(労働基準監督署、ハローワーク、出入国在留管理庁など)の相談窓口情報
8) 特定技能の在留資格で雇用される外国人が有する権利
- 労働関係法令(労働基準法、最低賃金法など)により保護される権利
- 差別のない待遇を受ける権利
9) その他、日本での生活や就労に関し必要な事項
- 日本の社会保険制度(年金、医療保険、雇用保険、労災保険)への加入と給付内容
- 税金(所得税、住民税)の種類と納税義務
- 交通ルール、ゴミ出しのルール、防災・防犯に関する知識
- 医療機関の利用方法
- 送出し機関を利用している場合、当該送出し機関に支払った費用の額・内訳、支払年月日などを確認し、記録すること
参照:
これらの情報を、外国人が十分に理解できる言語で、かつ書面を交付して説明する必要があります。
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事前ガイダンスは「どのように」実施する?方法と注意点
事前ガイダンスは、その方法や実施にあたっての注意点が定められています。
実施方法
- 対面での実施: 説明者と外国人材が直接顔を合わせて行います。
- 情報通信機器を利用した実施: テレビ電話やウェブ会議システムなど、映像と音声で双方向のやり取りが可能な方法で行います。
いずれの方法においても、外国人材が説明内容を十分に理解できる環境を確保することが重要です。
使用言語
- 外国人材が十分に理解できる言語(原則として母国語)で実施する必要があります。
- 必要に応じて、適切な通訳人を介して行うことができます。
理解度の確認
- 説明後には質疑応答の時間を十分に設け、外国人材が疑問点を解消できるようにします。
- 説明した内容について、外国人材が正しく理解したことを確認する必要があります(例:口頭での確認、確認テストの実施、理解した旨の署名を得るなど)。
- 「事前ガイダンスの確認書」(参考様式あり)などを活用し、説明内容と理解度について記録を残すことが望ましいです。
所要時間の目安
法令で具体的な所要時間が規定されているわけではありませんが、提供すべき情報量が多岐にわたるため、外国人材が内容を十分に理解し、質疑応答を行う時間を考慮すると、少なくとも3時間程度の時間を確保することが推奨されています(あくまで目安であり、個々の状況に応じて調整が必要です)。出入国在留管理庁の運用要領では、「少なくとも、外国人が十分に理解できるまで行う必要がある」とされています。
記録の保管
事前ガイダンスを行った際には、以下の項目を記録し、特定技能雇用契約の終了日から1年以上保存する義務があります。
- 実施年月日
- 実施場所(情報通信機器を利用した場合はその旨)
- 実施方法
- 説明者の氏名・職名
- 通訳人が介在した場合はその氏名
- ガイダンスを受けた外国人の氏名
- 提供した情報の内容
- 外国人材の理解度を確認した方法及び結果
【業種別】特に注意したいポイント(飲食・建設業など)
前述の必須項目に加え、特定技能外国人が就労する業種特有の労働環境や安全衛生、専門用語、業界慣習などについて、事前ガイダンスで補足的に説明しておくことは、円滑な就労開始とトラブル防止に繋がります。
以下はあくまで一般的な例であり、各企業の状況や業務内容に応じて、具体的に伝えるべき内容は異なります。
飲食業の例
- 衛生管理の重要性: 食中毒予防のための手洗いや食材の取り扱いルール、清掃の徹底など。
- 接客に関する基本: お客様への挨拶や言葉遣い、アレルギー対応の重要性と手順。
- 業界特有の用語: 厨房機器の名称や食材の専門用語など、業務上必要な言葉の簡単な説明。
建設業の例
- 現場での安全管理: ヘルメット・安全帯の正しい着用、危険予知活動(KY活動)の重要性、立ち入り禁止区域の厳守など。
- 特有の工具や機械の名称・安全な使用方法: 主要な工具や重機の名称、基本的な操作方法、使用時の注意点。
- 天候による作業変更の可能性: 雨天や強風など、天候によって作業が中止または変更になる場合があること。
- 現場特有のコミュニケーション: 朝礼・終礼の慣習、指示系統、報告・連絡・相談の重要性。
これらの情報は、外国人材が職場で戸惑うことなく、安全かつスムーズに業務を開始するために役立ちます。
まとめ:適切な事前ガイダンスでスムーズな外国人材受け入れを
特定技能「事前ガイダンス」は、単に法律で定められた義務を果たすだけでなく、外国人材が日本で安心して働き、生活するための第一歩となる重要なプロセスです。
受け入れ企業には、提供すべき情報を正確かつ丁寧に、外国人材が十分に理解できる方法で伝える責任があります。このガイダンスを通じて、企業と外国人材との間に良好な信頼関係を築き、互いにとって実りある雇用関係を育んでいくことが期待されます。
本記事で解説した内容を参考に、自社の事前ガイダンス体制を見直し、より質の高い受け入れ準備を進めていただく一助となれば幸いです。
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