【外国人採用】雇用契約書の作り方|必要項目やトラブル防止策を解説
外国人を採用しようと思っても、「契約書に何を書けばいいのか分からない」と迷い、手続きを止めてしまうことがあるかもしれません。
とくに在留資格と契約内容をきちんとそろえる必要があるため、むずかしいと感じる方も多いはずです。
この記事では、雇用契約書に必ず入れるべき項目や、在留資格と結びついた条件の考え方、作成から交付までの流れをわかりやすく紹介します。
外国人採用でつまずきやすい場面や、トラブルを避ける工夫を確認する手がかりとして役立ててください。
外国人の雇用契約書は日本人と同じで良い?
雇用契約書は、会社が仕事の条件を伝え、働く人と合意した内容を残すための大切な書類です。
基本的な形は日本人と同じですが、外国人の場合は「在留資格と内容が合っているか」や「理解できる言語で説明されているか」といった点に、より注意が必要になります。
また、労働条件通知書(労働条件を書いて渡す書面)と重なる部分もありますが、雇用契約書は会社と本人のサインによって合意をはっきり示せる点で大きな意味があります。
まずは両者の違いと、契約書に必ず入れておくべき項目を押さえていきましょう。
雇用契約書には会社と労働者のサインが必要

雇用契約書は、条件を提示しただけでは効力を持ちません。働く人が内容に納得し、会社と本人の両方が署名や押印をして、はじめて正式な合意となります。
とくに外国人の場合は、母国語や理解できる言語で内容を説明し、「きちんと理解したうえで署名した」と確認することが欠かせません。
たとえば面談で条文の要点を口頭で伝え、質問を受け付け、同席者がメモを残すだけでも、後の誤解を防ぐことにつながります。
署名が終わったら本人に控えを渡し、会社は原本を就業規則や賃金規程とあわせて保管しましょう。電子契約を使う場合も同じで、説明と同意の手続きを省かないことが大切です。
「雇用契約書」と「労働条件通知書」どちらを交付するべき?
労働条件通知書は、労働時間や賃金などを紙に書いて示すためのものです。一方、雇用契約書は、その条件について双方が合意した事実を残す役割を持っています。
実務では「雇用契約書の本文に必要な条件をすべて書いて本人に渡す」か、「雇用契約書と労働条件通知書をあわせて交付する」方法が多く使われています。
とくに外国人の場合は、署名を通して合意をしっかり残すことが大切なので、雇用契約書の形を選んだ方が安心です。
ながれとしては、条件を提示して説明し、理解を確認したあとに署名し、最後に控えを渡すという順番を守ることがポイントです。
また、外国人を雇うときは、在留資格の申請や更新で契約書の提出を求められることもあります。
契約内容と申請書類の内容がそろっていれば、審査もスムーズに進み、余計な手戻りを防ぐことができます。
明示必須の労働条件(必須事項)と任意事項

雇用契約書には、法律で必ず明示しなければならない項目と、会社が制度を用意しているときに書くべき項目があります。
外国人労働者にも、日本人と同じルールがそのまま適用されます。とくに必須事項(絶対的明示事項)が抜けてしまうと、契約が無効になるおそれがあるため注意が必要です。
| 区分 | 主な内容 |
| 必須(絶対的明示事項) | ① 労働契約の期間 ② 就業の場所・従事する業務の内容 ③ 始業・終業時刻、休憩、休日、所定外労働の有無、交替制勤務の有無 ④ 賃金の決定・計算・支払方法、賃金締切日・支払時期 ⑤ 退職に関する事項(解雇事由を含む) ⑥ 昇給に関する事項 |
| 制度を設ける場合に明示 | ⑦ 退職金(対象範囲や計算方法など) ⑧ 賞与・臨時の手当 ⑨ 食費や作業用品など労働者が負担する費用 ⑩ 安全衛生 ⑪ 職業訓練 ⑫ 災害補償や業務外のけがや病気への補助 ⑬ 表彰・制裁 ⑭ 休職に関する事項 など |
外国人採用で必須となる追加事項
法律では義務とされていませんが、外国人を雇うときには必ず入れておくべき項目があります。
これを欠くと、在留資格が認められなかったり、契約トラブルにつながったりする可能性があるため、実務上は「必須」と考えるべきでしょう。
- 在留資格の停止条件
資格が取れなかった場合や更新できなかった場合は契約を終了する、という一文を入れておく。 - 言語対応と理解の確認
本人が理解できる言語(母国語の併記ややさしい日本語など)で説明し、同意を確認する。 - 費用負担の明確化
寮費・食費・渡航費などの費用負担をはっきり決め、控除がある場合は金額や計算方法も書いておく。
外国人向け雇用契約書の必須項目7選

ここからは、法律上「必ず書かなければならない6つの項目」に、外国人採用でとくに気をつけたいポイントを加えて整理します。
まずは法律で決まっている内容をきちんと押さえ、そのうえで在留資格や言語対応など実務で役立つ工夫を取り入れていきましょう。
① 労働契約の期間
契約期間は、無期か有期かをはっきり書きます。有期の場合は、開始日や終了日、更新の有無や基準まで示しておくと安心です。
外国人雇用では在留期間と契約期間をそろえることがとても大切です。無期雇用でも「在留資格が有効であること」を前提にしておくと、更新時の手続きがスムーズになります。
試用期間を設ける場合は、期間・評価基準・不採用のときの扱いを一文で示すのが良いでしょう。
条件に変更があったときは合意書を交わし、在留資格の更新タイミングで再確認するとトラブルを避けやすくなります。
ポイント
- 有期契約は更新の基準も書いておく
- 無期契約でも「在留資格の有効性」に触れる
- 試用期間の評価基準と不採用時の扱いを明示する
② 就業の場所・従事する業務の内容
業務内容は在留資格と直結するため、できるだけ具体的に書くことが必須です。
たとえば「機械設計(CADでの図面作成、部品選定、試作評価)」のように、仕事内容がイメージできる表現にすると伝わりやすくなります。
勤務地はおもな就業場所を示し、転勤や配置転換、出向の可能性があるなら条項で幅を持たせましょう。
リモート勤務を導入する場合は「会社が指定する場所」としておき、事前通知のルールを添えておくと変更にも対応しやすくなります。
ポイント
- 在留資格と仕事内容が一致しているかを確認する
- 業務は具体的に書く
- 将来の転勤や配置転換の可能性もセットで示す
③ 始業・終業、休憩・休日、残業・交替制
始業・終業時刻や休憩時間、所定労働時間、休日、残業の有無は「数値」で示すと誤解を防げます。
シフト制や交替勤務がある場合は、代表的なパターンや作成・変更のルールも書いておくと安心です。
外国人のパートやアルバイトでは、在留資格や資格外活動許可によって働ける時間に上限があります。勤怠システムにアラートを設定したり、人事と現場で二重チェックする仕組みを決めたりしておくと安全です。
残業の依頼手順や深夜・休日の割増賃金についても触れておけば、給与の説明がしやすくなります。
ポイント
- 時間は明確な数値で示す
- シフトの作成・変更ルールを明記する
- 留学生などの上限時間を把握する
④ 賃金の決定・計算・支払方法、締切日・支払日

金額だけでなく、決定方法や計算方法、支払方法も明記しましょう。支払う通貨は原則として日本円です。
また、税金や社会保険料、寮費などの控除項目を具体的に書き、総支給と手取りの差をあらかじめ説明しておくとトラブルを防げます。
支払日は「毎月◯日」、締切日は「当月末」といったように日付で明示します。
同じ職務や能力で働く場合、日本人と同等以上の待遇であることを添えると、会社内での説明もしやすくなるでしょう。
固定残業を採用する場合は、時間数や算定方法、超過分の精算についても忘れずに書きます。
ポイント
- 通貨は円、控除は具体的に書く
- 締切日と支払日は日付で示す
- 固定残業は時間数と超過精算方法を明記する
⑤ 退職(解雇を含む)
自己都合退職は申出方法や期日を決めておきます。会社都合の解雇は理由と手続きを簡潔に示しましょう。
試用期間中の取り扱いや解雇予告、休職制度との関係も整理しておくことが必要です。
外国人の場合、退職は在留資格や住居、銀行口座など生活全体に影響するため、退職前に必要な手続きをまとめたチェックリストを渡すと親切です。
社会保険や税金、最終出勤日、貸与品の返却、住民票の転出などを含めて案内するとよいでしょう。
やむを得ない事情で退職するケース(帰国や留学継続など)も想定し、相談できる窓口を示すと安心感が高まります。
ポイント
- 申出方法や期日を決めておく
- 解雇の条件をシンプルに示す
- 退職前のチェックリストで行き違いを防ぐ
⑥ 昇給

昇給は有無と判断基準を示します。評価制度と連動させる場合は、細かい内容を就業規則や人事制度で管理し、契約書には基本的な部分だけを残すと運用が楽になります。
金額や時期を固定で書いてしまうと、その都度契約を更新する必要が出てしまいます。
そこで「会社の定める制度に基づいて実施することがある」と表現しておくと柔軟に対応できます。
賞与や退職金は必須ではありませんが、制度を設ける場合は有無や基準を就業規則にまとめ、契約書から参照する形にしておくと扱いやすいでしょう。
ポイント
- 骨子は契約書に書き、詳細は就業規則に任せる
- 改定が多い内容は就業規則で管理する
- 昇給や賞与は就業規則を参照する形にする
⑦ 外国人向けの追加事項
法定の6項目に加え、外国人を雇うときには次の内容も契約書に入れておくと安心です。
これらが抜けると在留資格が下りなかったり、契約トラブルに発展するおそれがあります。実務上は「必須」と考えて対応しましょう。
【重要】在留資格が取れないときの扱い(停止条件)
在留資格が取れない、あるいは更新できない場合は契約を終了することを必ず記載します。あわせて、更新に必要な書類を本人が提出する義務や、会社が協力する内容を整理しておくとより安心です。
言語対応と理解の確認
母国語の併記ややさしい日本語でまとめた資料を用意し、面談で丁寧に説明しましょう。理解を確認し、控えを渡すことで後日の行き違いを防げます。
費用の分担(寮費・光熱費・食費・渡航費など)
寮費や食費、渡航費などについて、会社と本人のどちらが負担するかを明確にします。
給与から天引きする場合は金額や計算方法まで記載しておくと安心です。
研修の位置づけ
OJTやOff-JTといった研修の目的・期間・評価方法・費用負担を明記します。研修に単純作業が含まれる場合は、本来業務を覚えるための付随作業であることを契約書に書いておきましょう。
在留資格の中には単純労働が認められていないものもあるため、研修の位置づけをきちんと示しておくことが大切です。
健康診断や労災のルール
危険な作業の禁止事項や報告のルートを、やさしい日本語や図を使って説明します。
健康診断や労災対応の流れを契約に盛り込み、多言語の手順書を活用すると理解が深まります。
表彰・懲戒・勤務態度
遅刻や欠勤の連絡方法、SNSや情報の扱い、服装のルールなどを具体的に示しましょう。
懲戒や表彰のルールも簡潔に書き、文化の違いから起こる誤解を防ぐことが大切です。
雇用契約書の作成〜交付までの流れ
ここでは、契約書を作ってから保管するまでの一連の流れを整理します。
実務の基本ステップ
契約手続きは、次の順番で進めるとスムーズです。
- 下書きを作成する(業務内容や在留資格との整合を確認)
- 社内で確認する(人事・現場・法務など)
- 本人に提示し、面談で説明する
- 署名をして控えを交付する
- 原本を会社で保管する
この流れをチェックリストにして掲示しておけば、抜け漏れを防げます。誰が担当しても一定の水準で対応できる点も安心です。
母国語で対応できないときはどうする?
外国語に自信がなくても、契約手続きを止める必要はありません。大切なのは、誤解をできるだけ減らす工夫をすることです。
たとえば専門用語を避け、やさしい日本語で説明したり、重要な部分を短くまとめた資料を渡したりすると理解が深まります。
面談では一つずつ確認しながら説明し、本人に自分の言葉で答えてもらうことで理解度を確かめられるでしょう。最後に控えを渡せば、後から見直せる安心材料にもなります。
また、厚生労働省では多言語に対応した労働条件通知書のモデル書式を公開しています。母国語で説明できない場合は、こうした公的なひな形を活用するのも一つの方法です。
外国人雇用で注意したいケース

外国人を雇用する際には、契約内容や働き方に関して特有の注意点があります。これらをあらかじめ理解しておくことで、予期せぬトラブルを未然に防ぐことができます。
アルバイトできる時間の制限
在留資格の中には、働ける時間に上限があるものがあります。
たとえば「留学生」や「家族滞在」でアルバイトをする場合、資格外活動許可を前提とした就労には、週あたり原則28時間の上限が決められています。
そのため、資格外活動をしている外国人との契約書には「所定労働時間」だけでなく、法令や在留資格の範囲内で働くことを明記しておくと安全です。
シフト管理は人事と現場の両方でチェックするとよいでしょう。とくに繁忙期は時間超過が起こりやすいため、勤怠システムにアラートを設定しておくことをおすすめします。
退職や解雇のルール
雇用関係の終わり方を最初に取り決めておくと、後々のトラブルを防ぎやすくなります。
自己都合退職の申し出方法や期日、会社都合での解雇事由や手続きに加え、試用期間中の扱い、解雇予告、休職などは就業規則と整合をとって明記しておきましょう。
また、外国人の場合は退職がビザや住居、銀行口座に直結することがあります。そのため、退職前に必要な案内事項(社会保険、税、最終出勤日、貸与品の返却など)をリストにまとめて渡しておくと、本人にとっても安心です。
社内ルールと契約内容をそろえる
雇用契約書だけが独立してしまうと、就業規則や給与規程とのあいだで矛盾が生じるおそれがあります。
そのため、契約書に使う言葉は規程や評価制度とそろえて統一することが大切です。
細かい内容は規程に任せ、契約書では方針や個別の条件に絞るのが望ましい形です。
規程を改定した際には関連する契約条項を一括で更新できるようにしておけば、管理がぐっと楽になり、運用面でも安定します。
さいごに
外国人の雇用契約書は、日本人と大きく異なる特別な形式は必要ありません。ただし、在留資格との整合やわかりやすい説明など、外国人ならではの配慮は必要です。
今回紹介した10項目を基準に、社内の規程と照らして雛形を整えてみましょう。
面談での説明や母国語での補足を加えるだけでも、入社後の行き違いを大きく減らせます。
外国人の採用が決まった際には、スムーズに受け入れができるよう本記事を参考にしてみてください。
重要なポイントを押さえた契約書を準備しておけば、安心して新しい仲間を迎えられるはずです。
今すぐ役立つ在留資格の知識をまとめてみませんか?
外国人採用を考えるとき、「特定技能」制度や「外国人留学生」の働き方、就労ビザの種類や不法就労に関するリスクと罰則など、気になる点は多いものです。
ガイダブルジョブスでは、こうした内容を一冊に整理した『在留資格ガイド』をご用意しています。
外国人採用に不安や悩みを抱える方にこそおすすめできる資料です。最新情報を踏まえた気づきも得られるので、ぜひチェックしてみてください。


