在留カード「預かり証」の『善意の罠』と回避マニュアル

近年、多くの企業で外国人材の活用が進んでいます。特に、深刻な人手不足に直面する飲食業、建設業、製造業などにおいては、外国人労働者の存在が不可欠となりつつあります。しかし、外国人採用には特有の法務リスクが伴うことを忘れてはなりません。
安易な対応の一つとして散見されるのが、外国人の「在留カード」を企業が預かり、その代わりに「預かり証」を発行するという慣行です。一見、丁寧な対応のように思えるかもしれませんが、この行為には重大な法的リスクが潜んでいます。
本記事では、なぜ在留カードの「預かり証」対応が危険なのか、企業が負うべき不法就労リスクと法的責任、そしてそれを回避するための具体的な対策について、出入国在留管理庁などの公的情報を基に詳しく解説します。適切な知識を身につけ、コンプライアンスを遵守した外国人雇用を実現するための一助となれば幸いです。
目次 [非表示]
1. 在留カードと外国人雇用の基本ルール
外国人採用をおこなう上で、まず理解しておくべきは「在留カード」の重要性です。
在留カードとは何か
在留カードは、日本に中長期間在留する外国人に対し、上陸許可や在留資格の変更許可、在留期間の更新許可などの結果として交付されるものです。顔写真のほか、氏名、国籍・地域、生年月日、性別、在留資格、在留期間、就労の可否などが記載されており、「外国人の身分証明書」としての役割と、在留資格などを証明する「許可証」としての役割を併せ持っています(参照:出入国在留管理庁「在留カードとは?」)。 外国人は、日本に在留中、この在留カードを常に携帯する義務があります(出入国管理及び難民認定法 第23条第2項)。
企業に課せられた確認義務と不法就労助長罪
事業主が外国人を雇用する際には、その外国人が日本で就労する資格があるか(在留資格、在留期間、就労制限の有無など)を在留カード等で確認することが求められています。これは、不法就労を防止するための重要な責務です。 もし、企業が就労資格のない外国人を雇用したり、許可された範囲を超えて働かせたりした場合、「不法就労助長罪」に問われる可能性があります(出入国管理及び難民認定法 第73条の2)。この罪には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科される場合があります。 (参照:出入国在留管理庁「不法就労防止にご協力ください」)
2. 「預かり証」の法的有効性と限界
では、企業が在留カードを預かり、その代わりに「預かり証」を発行すれば、上記のようなリスクは回避できるのでしょうか。結論から申し上げますと、「預かり証」に法的な有効性はなく、企業の免責事由にはなりません。
在留カードの携帯義務は本人にある
前述の通り、在留カードは外国人が常に携帯しなければならないものです(出入国管理及び難民認定法 第23条第2項)。企業が在留カードを預かる行為は、外国人本人のこの法的義務の履行を妨げることになりかねません。入国警備官などから提示を求められた際に、本人が在留カードを携帯していなければ、本人が罰則の対象となる可能性があります(出入国管理及び難民認定法 第75条の3)。
「預かり証」は法的根拠のない書類
企業が発行する「預かり証」は、あくまで企業と外国人との間の私的な取り決めに過ぎず、出入国管理及び難民認定法上の効力を持つものではありません。したがって、万が一、不法就労が発覚した場合、「預かり証を発行していたから」という言い分は通用しません。企業は、不法就労助長罪の責任を問われるリスクを依然として負い続けることになります。
企業が良かれと思っておこなった在留カードの預かり行為が、結果として法令違反を助長し、企業自身を窮地に追い込む可能性があることを強く認識する必要があります。
3. 不法就労につながるNG行為と、企業が被る深刻なダメージ
在留カードの不適切な取り扱いは、意図せずとも不法就労に繋がる可能性があります。例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 在留カードを預かっている間に有効期限が切れてしまい、更新手続きが遅れる。
- 預かっていることで在留資格の変更や就労制限の確認がおろそかになる。
- 退職した外国人の在留カードを返却し忘れる、または資格外活動許可の範囲を超えた業務指示をする。
これらの結果、不法就労が発生した場合、企業は不法就労助長罪による罰金や懲役といった直接的な刑事罰だけでなく、以下のような深刻なダメージを被る可能性があります。
行政処分: 営業許可の取り消しや一定期間の事業停止など。
社会的信用の失墜: 報道などにより企業イメージが大きく損なわれ、顧客離れや取引停止につながる。
採用活動への影響: 外国人技能実習制度の利用停止や、今後の外国人材の採用が困難になる。
助成金の不支給・返還: 外国人雇用に関連する助成金が受けられなくなる、または過去に受け取った助成金の返還を求められる。
これらのダメージは、企業の存続そのものを揺るがしかねない重大なものです。
4. 不法就労リスクを回避するための具体的なチェック体制
不法就労リスクを回避し、法令を遵守した外国人雇用をおこなうためには、企業として厳格なチェック体制を構築・運用することが不可欠です。
採用選考時
- 必ず在留カードの原本を確認し、顔写真と本人が一致するか、記載事項(氏名、在留資格、在留期間、就労制限の有無など)に不審な点がないかを確認します。 (参照:出入国在留管理庁「『在留カード』及び『特別永住者証明書』の見方)
- 必要に応じて、出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」サイトを利用し、提示された在留カードが失効していないか確認します。 (参照:出入国在留管理庁ウェブサイト内「在留カード等番号失効情報照会」)
- 就労が認められる在留資格か、また、自社の業務内容が許可された活動範囲内であるかを確認します。「技術・人文知識・国際業務」や「技能」といった在留資格でも、単純労働は認められていない点に注意が必要です。
入社手続き時
- 確認した在留カードのコピー(表裏両面)を保管します。ただし、これはあくまで社内確認用であり、原本の携帯義務を免除するものではありません。
雇用期間中
- 在留期間の満了日を管理し、期限が近づいてきた従業員には更新手続きを促します。
- 在留資格の変更があった場合は、速やかに新たな在留カードの提示を受け、内容を確認します。
外国人雇用状況の届出
- 外国人の雇入れ時および離職時には、ハローワークへ「外国人雇用状況届出書」を提出する義務があります。これは全ての事業主の義務です。(参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/todokede/index.html)
まとめ:「預かり証」に頼らない、本質的な不法就労防止策を講じよう
外国人雇用における「在留カードの預かり」や「預かり証の発行」は、法的根拠がなく、企業を不法就労リスクから守るものではありません。むしろ、企業の法的責任を増大させる可能性すらあります。
最も重要なのは、在留カードの携帯義務は外国人本人にあることを理解し、企業としては採用時および雇用中に在留カードの原本により就労資格を適切に確認し、その記録を保管するという基本ルールを徹底することです。
外国人労働者は、日本経済にとってますます重要な存在となっています。企業が法令を遵守し、適切な労務管理をおこなうことが、外国人労働者が安心して能力を発揮できる環境づくりに繋がり、ひいては企業の持続的な成長にも貢献します。
本記事が、貴社の適法かつ円滑な外国人雇用の一助となれば幸いです。ご不明な点や個別の事案については、弁護士や行政書士などの専門家、または最寄りのハローワークや出入国在留管理局にご相談されることをお勧めします。
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