現在、日本では少子高齢化による人材不足の深刻化を受け、多くの業種・業界で外国人が働いています。

日本で働く外国人といえば、以前はアメリカ人、中国人と韓国人が大半でしたが、最近ではブラジル人、ロシア人、インド人など様々な国の人々が働いており、経済のグローバル化で社内公用語を外国語にする会社が増加するなど、これからも日本における外国人雇用ニーズは高まっていくことでしょう。こうしたことから、日本で働く外国人の存在は身近になってきましたが、一方で、様々なトラブルが発生しているのもまた事実であり、なかでも、不法就労の外国人に関するトラブルは刑事事件になることもあるので要注意です。

こちらでは、身近な存在となった外国人労働者に係わる問題として、「不法就労助長罪」について解説してまいります。

不法就労助長罪とは?

外国人採用 法律

「不法就労助長罪」とはどんな罪なのでしょうか?

それは、外国人に不法就労をさせたり、業として外国人に不法就労をあっせんしたりする方法で、外国人の不法就労活動を助けた者に対して課される罪のことです。

そして、ここで言う「不法就労」とは、次の3つのケースに該当する就労になります。

・不法滞在者・被退去強制者が働くケース

密入国した人・在留資格が切れた人が働く

退去強制されることが既に決まっている人が働く

・入国管理局から働く許可を受けていないのに働くケース

観光等短期滞在目的で入国した人が働く

留学生や難民認定申請中の人が許可を受けずに働く

・入国管理局から認められた範囲を超えて働くケース

外国料理のコックや語学学校の先生として働くことが認められた人が工場・事業所で単純労働者として働く

留学生が許可された時間数を超えて働く

これら不法就労を助長する不法就労助長罪は、「出入国管理及び難民認定法(入管法)」に定められている罪であり、違反者には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または、その両方が処せられることがあります。

入管法とは?

ところで「入管法」とはどんな法律なのでしょうか?

これは、正式には「出入国管理及び難民認定法」と呼ばれる法令の略称であり、日本からの出国、日本への入国・帰国、外国人が日本に滞在するうえでの在留資格、期限、違反時の罰則、ならびに難民の認定やその取扱いについて定めたものです。今世紀に入ってから、人権保護や政治的目的から外国人の在留資格や上陸審査の緩和が進み、それに伴い入管法が改正されていますが、これらの制度改正に伴い日本上陸後の失踪者が増加するようになったとも指摘されています。

不法就労助長罪はこれ!

逮捕

不法就労助長罪に問われ、摘発の対象となるのは次の3つの行為をした者となります。

  • 外国人に不法就労活動をさせた者

例えば、不法就労に該当する外国人(不法就労者)を雇用した者・使用した者・派遣して労務に従事させた者が摘発の対象になります。

  • 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者

例えば、不法就労者に宿舎を提供した者、不法就労者のパスポート等を預かった者、入国費用の負担等により事実上支配下に置いた者が摘発の対象になります。

  • 外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関し斡旋した者

例えば、ブローカー等不法就労活動を斡旋した者、仲介等をした者が摘発の対象となります。

こんなケースも不法就労助長罪に

国内の外国人雇用ニーズの高まりを受け、これから本格的に外国人採用を検討している企業も多いと思いますが、安易に外国人採用を行うと不法就労助長罪に問われかねない事態を招きます。

こちらでは、実際に不法就労助長罪で逮捕・起訴された最近の事例をご紹介しましょう。

ケース①:不法残留の中国人派遣 入管法違反で3人逮捕 京都

2019年9月26日、京都府警は、人材派遣会社役員の男、同社社員で中国籍の男など男女3人を在留期間が過ぎた中国人4人を食品加工会社に派遣して労務に従事させた入管法違反(不法就労助長)の疑いで逮捕。

ケース②:検察「国際的非難に値」 不法就労助長の理事長 懲役2年求刑 群馬

2017年2月20日、日本語学校「東日本国際アカデミー(栃木県足利市)」において、ベトナム人留学生3人を不法就労させたとして入管法違反(不法就労助長)の疑いで起訴された同校理事長の前原卓哉被告、法人として起訴された人材派遣会社「東毛テクノサービス(前原被告経営)」の第二回公判が開かれ、検察側は被告個人に懲役2年と罰金200万円、同社に対して罰金200万円を求刑。

検察の陳述によると、被告は留学生を借上げアパートに住まわせ、逃走阻止の目的でパスポートを没収したうえで、労働力と賃金を搾取したとして厳しく批判し、「身勝手かつ私欲目的に動機に酌量の余地はない」と断罪。

ケース③:老舗串カツ店「だるま」不法就労助長の疑いで書類送検 大阪

2017年3月、大阪府警は、大阪の老舗串カツ店「だるま」の運営会社「一門会(大阪市浪速区)」の上山勝也社長や幹部の計6名及び法人としての同社を入管法違反(不法就労助長)の疑いで書類送検したと発表。

同社は2015年9月から2016年11月にかけて、大阪市内の5店舗でベトナムやミャンマー国籍の留学生等男女17人をアルバイトで雇い、週28時間の法定労働時間を超えて働かせるなどの疑いがあるとした。さらに、入管法違反(不法就労)の疑いで、これら留学生アルバイトのうち3人を逮捕、14人を書類送検。

これらの事例では、不法残留者を派遣して労働に従事させたこと、不法就労者に宿舎を提供し、また、パスポートを預かる等により外国人に不法就労させるために自己の支配下に置いたこと、入国管理局から認められた範囲を超えて働かせたことなどを理由として、企業及び責任者が不法就労助長罪に問われているのです。

不法就労助長罪になりたくない!

NOの文字

不法就労助長罪の逮捕事例を見ると、不法就労助長罪とは私たちの身近に起こりやすい問題であることがわかります。

在留期限が切れた外国人を知らずに雇った場合や、入国管理局から認められた労働時間数を超えて勤務させた場合でも、「不法就労」に該当し、これらの外国人を働かせていた企業そのものが不法就労助長罪に問われてしまうからです。

では、私たちが不法就労助長罪に問われることなく、適法かつ適切に外国人労働者を採用するにはどうすればよいでしょうか?

こちらでは、その防止策について説明してまいります。

防止策とは?

企業として、不法就労助長罪に問われないための防止策とは何でしょうか?

それは、対象となる外国人が「不法就労に該当しているか否かを事前に確認する」ということであり、具体的には、雇用し、使用し、または派遣しようとする外国人が、不法就労に該当していないかを事前にチェックすることです。そのためのポイントが、厚生労働省のリーフレット「外国人を雇用する事業主の皆様へ 不法就労防止にご協力ください」にて説明されています。

ポイント①:在留カード等の番号が失効していないか確認すること

入国管理局のホームページで在留カードの番号が失効していないか確認ができます。

ポイント②:在留カード表面の「就労制限の有無」欄を確認すること

就労不可の場合、原則雇用はできませんが、ポイント③により雇用可能な場合があります。

ポイント③:在留カード裏面の「資格外活動許可欄」を確認すること

資格外活動許可欄に「許可」と記載されている場合、記載された条件において雇用が可能になります。

ポイント④:仮放免許可は在留資格ではないこと

仮放免許可とは、何らかの理由で退去強制の対象となっている外国人でありながら、健康上の理由などで一時的に収容が説かれている状態のことであり、仮放免許可証に就労禁止の旨が記載されている場合は雇用できません。

これらのポイントを参考にして適法で適切な外国人雇用を実現しましょう。

不法就労助長罪について詳しくなりましたか?

警察

日本国内で働く外国人の方々は、母国語が堪能であるのは当然として、日本人には無い発想、思考、価値観を持っており、これらの能力を活かせれば事業の成長と発展につなげることができます。外国人労働者を、単なる労働力としてではなく、貴重なパートナーとしてリスペクトして付き合えば不法就労問題など発生することもなくなります。

つまり、外国人労働者へのリスペクトこそが、最大の防止策と言えるのではないでしょうか。