外国人の採用が決まったら、企業がつぎにおこなうのは「雇用契約書」の作成です。外国人労働者向けの雇用契約書は、文化の違い気にかけながら作成することでトラブルを防ぐことができます。

今回の記事では、外国人労働者向けの雇用契約書を作成するうえで、注意すべきポイントや発生しがちなトラブルについて解説いたします。

雇用契約書とは? 労働条件通知書とのちがい

本編に入るまえに「雇用契約書」についてご説明いたします。雇用契約書とは、労働基準法にもとづいて、雇用主が労働者に対して書面で労働条件を通知するものです。これは外国人労働者に対しても例外なく適用されます。

雇用契約書に書かれている内容

・雇用主と労働者おたがいの署名押印(または記名捺印)
・労働契約の期間、業務内容、賃金など(絶対的明示事項)
・雇用主と労働者、おたがいが労働条件に合意したことの証明 など

雇用するときに労働者に渡すものとしては「労働条件通知書」というものもあります。これは雇用者から労働者への通知をするだけなので、労使間の合意も不要です。外国人採用では、労働条件通知書では後々でトラブルが起こることもあるため、原則として雇用契約書を作成する方がいいでしょう。

とくに外国人を採用する場合には、文化や言語のちがいから認識の相違が起こりやすくなります。働き始めてからトラブルが起きないように、雇用契約書の作成は必須と考えておきましょう。

◉絶対的、相対的明示事項ってなに?

「絶対的明示事項」は労働基準法に基づき、雇用契約時にかならず労働者に明示しなければならない労働条件です。

「相対的明示事項」は労働基準法に基づき、条件によって明示がもとめられる労働条件です。

外国人向け雇用契約書の作成ポイント

外国人向けの雇用契約書を作るとき、気をつけるポイントはどこでしょうか。

外国人は在留資格の中でも就労ビザを申請するときに、雇用契約書(または労働条件通知書)の提出が必要になります。
申請後には入国審査官から外国人本人に連絡が入ることがあります。契約内容について、本人がしっかり理解できる雇用契約書を作りましょう。

◉こちらの記事もおすすめ

外国人の「就労ビザ」ってなに? 全16種類の内容や申請方法、雇用企業が知っておくこと

ポイント1:職務内容【絶対明示】

まずは雇用契約書のなかでも絶対的明示事項となっている「職務内容」を、雇う外国人の母国語で書きましょう。

各在留資格に記載されている職務内容以外の職務を任せることはできません。外国人が持っている在留資格をよく確認して、雇用契約書を作成しましょう。

ポイント2: 就業場所【絶対明示】

就業場所を記載します。在留資格の申請書では、記載していない場所では就業不可となります。

企業の所在地で就業する場合は問題ありませんが、そのほかの場所で就業する可能性がある場合はしっかり確認しましょう。
就業後に変更が発生する場合には、出入国在留管理庁(入管)への届出が必要です。

ポイント3:在留資格に適した勤務期間【絶対明示】

外国人が日本で就業するには、永住者でない限りは在留資格に期限が設けられています。最短は15日、最長で5年です。
取得する在留資格に適した雇用期間を設定してください。

ポイント4:職務上の地位【絶対明示】

「正社員」「契約社員」「アルバイト」など、どのような雇用形態なのか、職務上の地位も書いてください。

応募・面接時に確認されることが多い部分ですが、労働者との認識の齟齬がないか、いま一度確認しましょう。
認識が違っていたとしても、採用をあきらめる必要はありません。雇用しようとしている外国人と一度よく話し合うことをおすすめします。

ポイント5:賃金【絶対明示】

外国人の方からすると「稼げると考えていた給料より安い」となった場合、早期の離職にもつながります。こちらは日本人労働者、外国人労働者のどちらともトラブルの種になりやすい項目です。
しっかりと賃金も記載しましょう。

基本給はもちろんですが、諸手当や時間外労働に対する割増賃金、支払日などなるべく細かく記載しましょう。またこの金額は日本人労働者と同等以上の給与水準であることが前提です。

下記も絶対明示事項です。
あわせて雇用契約書にもれなく書きましょう。

  • 業務を開始する時間
  • 業務を終了する時間
  • 休憩の時間
  • 休日
  • 契約がいつまでなのか
  • 契約更新があるのか

ポイント6:賞与・最低賃金額

正社員としての採用の場合は、相対的明示事項になるため、会社に規定がある場合のみ記載でも法律的に問題はありません。
しかし
お金に関する内容は、なるべく明示したほうが後々のトラブル回避になります。ぜひ記載をおすすめいたします。

契約社員やアルバイトの場合は、パートタイム労働法により明示が必須です。注意してください。賞与は金額のほかに回数や時期を書いておくといいでしょう。
アメリカでは賞与は年1回であることが多く、ヨーロッパでも日本ほどは定期的に支給されません。

最低賃金額は、外国人労働者であることを理由として、日本人労働者よりも低く設定することはできません

ポイント7:退職金の有無・条件

こちらは正社員の場合は賞与と同様に「相対的明示事項」です。
しかしながら、契約社員やアルバイトの場合には明示が必須。

退職金が適用される職務上の地位はどういったものか、勤続年数の条件や退職金の計算方法も記載しましょう。

ポイント8:外国人労働者に負担させる食費など

労働者に負担させる、食費や寮の家賃なども書きましょう。
こちらは相対的明示事項ですが、昼食の手当が出るのか、会社の持っている食堂を使えるかなどを記載するといいでしょう。

また寮の完備があり、住み込みが可能な場合には、規約について記載しましょう。家賃や光熱費が会社負担かどうか、何割の負担なのかも書くと親切です。

ポイント9:安全・衛生に関すること

企業には「安全配慮義務」というものがあり、安全衛生に関する就業規則を定めています。

たとえば健康診断の定期実施、その費用が会社負担であることを書きましょう。
作業服の着用や機械の点検など、業種によって異なる規定がある場合も書いてください。

ポイント10:職業訓練に関すること

職業訓練がある企業は、外国人労働者からするとスキルを磨く絶好の機会。このような訓練があることは積極的に記載しましょう。

たとえば「働きながら取得を目指せる資格がある」などです。
ちなみに職業初期の訓練・サポートが必要な時期のみ、賃金が低くなる場合は細かく記載してください。
トラブルに発展しやすい項目のため注意が必要です。

ポイント11:表彰、制裁に関すること

表彰は社員のモチベーションを向上させ、離職防止に役立ちます。

一方で制裁は懲戒などを指しますが、罪刑法定主義の日本においてここは企業内でしっかり取り決めてあるはずです。そしてその内容を外国人雇用契約書に書きます。

外国人労働者は慣れていない日本での生活で、予期せぬトラブルに巻き込まれる可能性も多いです。気を引き締めてもらうためにも、懲戒についてもしっかりと書いておきましょう。

表彰・制裁についても、最低賃金額などと同様に日本人労働者と同等の条件にしてください。差別や区別されていないと感じることができれば、高いモチベーションで働いてくれます。

ポイント12. 休職に関する事項

こちらは労働者の権利です。海外と日本の制度は、大きく違う場合もあります。傷病休職や自己休職についても書きましょう。

労働者が休職制度を把握できていないと、大きな負担をかけることもあります。しっかりと伝えることが大切です。

外国人労働者向けの雇用契約書のポイントを抑えることができましたか?

外国人労働者向けの雇用契約書で、押さえておきたい12のポイントを解説しました。

雇用契約書は在留資格を申請する際に必要となります。もし不備があって申請が通らない場合には、採用できない結果になってしまいます。
外国人の採用が決まったら、雇用をスムーズに行うためにもポイントをおさえた雇用契約書を作成しましょう。