永住権と帰化は、どちらも日本にずっと住み続けられる点では共通しています。しかし、国籍が変わるかどうかなど、中身には大きな違いがあります。
選び方を間違えると、将来の進路や家族の選択肢に影響が出るかもしれません。だからこそ、それぞれの制度について正しく知ってから考えることが大切です。

この記事では、永住権と帰化の「共通点」と「大きな違い」、それぞれどんな人に向いているかを紹介していきます。

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永住権と帰化、そもそも何が同じで何が違うの?

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永住権と帰化は、どちらも在留期限の更新がいらず、職業や活動内容に制限なく日本で生活できる点が共通しています。ただ、大きな違いは「国籍が変わるかどうか」というところです。

永住権(在留資格「永住者」)を持つと、国籍はそのまま母国のものになります。このため、母国へ帰るときに特別なビザ手続きは必要ありません。
ただし日本では選挙権が得られず、7年ごとの在留カード更新や再入国許可などの手続きが求められます。

一方、帰化が認められると日本国籍を取得し、新たに戸籍が作られます。その結果、日本人と同じように選挙権を持ち、公務員になる資格も得られます。
ただし、母国の国籍やパスポート、母国での選挙権を失うことになるため、注意が必要です。

具体的な15項目の相違点を表でチェック!

永住権と帰化のどちらを選んだらいいか迷っている人は、まず下の比較表で主な違いを確認してみましょう。

 

永住権

帰化

補足

管轄官庁

出入国在留管理庁

法務局

どちらも法務省の下にあり、審査を行う場所が異なります

国籍

母国籍のまま

日本国籍に変更

原則として二重国籍は認められていません

戸籍

なし(在留カード)

編製される

漢字やひらがなで名前を定め、ミドルネームなどの届出も可能です

参政権

なし

あり

地方選挙も国政選挙も参加できるようになります

公務員就任

一部地方のみ可

制限なし

国家公務員上級職にも挑戦可能です

パスポート

母国旅券

日本旅券

在留カード更新

7年ごと

不要

再入国許可

必要

不要

「みなし再入国許可」は1年以内なら特別な申請はいりません

取消しリスク

あり

なし

永住権はルール違反などで取り消されることがあります

手数料

8,000円

0円

書類取得や翻訳には別途費用がかかります

審査期間

6〜12か月

8〜15か月

地域や個人の事情によって前後します

必要書類枚数

約50枚

100枚以上

翻訳や公証が必要なケースもあります

母国帰国時のビザ手続き要否

不要

必要な場合あり

家族の扱い

子や孫に優遇在留資格

子や孫も日本国籍

退去強制

該当する

該当しない

永住権と帰化、それぞれの取得条件はどれくらい厳しい?

永住権も帰化も、日本で長く生活するための制度です。ただ、それぞれに求められる条件は違っていて、決して簡単に取れるものではありません。
ここでは、永住権と帰化、それぞれの取得条件について詳しく説明していきます。

永住権の取得条件とは?

永住審査の許可を受けたコンセプト画像

永住権を取るためには、主に次の3つの条件をクリアする必要があります。

1. 素行が善良であること

日本のルールやマナーを守り、大きな犯罪歴がないことが求められます。たとえば、交通違反がたくさんあったり、税金を払っていなかったりすると、審査に悪い影響が出るおそれがあります。

2. 独立の生計を営むに足りる資産または技能を有すること

安定した収入があり、自分や家族が日本で困らず暮らせることが必要です。目安としては、ひとり暮らしなら年収300万円くらい、家族がいる場合は一人あたりプラス70万円ほどの収入が求められます。

3. その者の永住が日本国の利益に合すると認められること

きちんと税金を払っていたり、社会保険に加入していたりすることが大切です。日本社会にきちんと貢献できるかどうかがポイントになります。

これらの条件に加えて、原則として10年以上日本に住み続けていることが求められます。この期間のうち、就労可能な在留資格(技術・人文知識・国際業務など)または、身分系の在留資格(日本人の配偶者等)で、5年以上滞在していることも必要です。

ただし、次のような場合には、在留期間が短くても永住権を申請できる特例があります。

  • 日本人や永住者と結婚している人:結婚して3年以上、かつ日本に1年以上住んでいれば申請可能
  • 「高度人材ポイント制」で70点以上取った人:1年または3年で申請可能
  • 難民認定を受けた人:「定住者」になってから5年経つと申請可能

また、永住権の審査では税金や年金、健康保険料などの支払い状況がとても重視されます。滞納や未加入があると、ほかの条件を満たしていても不許可になる可能性が高くなるので注意しましょう。

参考:出入国在留管理庁 永住許可に関するガイドライン

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帰化申請の条件とは?

帰化が許可されて日本のパスポートを取得した女性の画像

帰化申請には、永住権よりさらにたくさんの条件があります。主なポイントは次の通りです。

1. 住所条件

原則として、続けて5年以上日本に住んでいる必要があります。この間、正しい在留資格で日本にいなければなりません。

2. 能力条件

大人(18歳以上)であり、母国の法律でも成年と認められていることが求められます。ただし、親と一緒に帰化する場合など、特例もあります。

3. 素行条件

永住権と同じように、社会のルールを守る態度が求められます。犯罪歴だけでなく、税金をきちんと払っているか、社会的信用があるかも見られます。

4. 生計条件

本人または一緒に住んでいる家族に、安定した収入や資産があり、生活に困っていないことが条件です。

5. 重国籍防止条件

日本国籍を取るためには、原則として母国の国籍を手放す意思が必要です。日本では二重国籍を認めていないため、注意しなければなりません。

6. 憲法遵守条件

日本の憲法や法律を大切にする考え方が必要です。暴力団など反社会的な団体に関わった経験があると、許可されない可能性があります。

7. 日本語能力条件

日本で生活するためには、ある程度日本語を使えることが求められます。目安として、小学3年生くらいの読み書きや会話ができれば大丈夫でしょう。

このほか、帰化申請では用意する書類がとても多く、100枚を超えることもあります。また、申請のときには担当官との面接があり、日ごろの生活の様子や、日本社会にどれくらいなじんでいるかも細かく確認されます。

帰化には手数料はかかりませんが、戸籍謄本や住民票、納税証明書、在職証明書など、たくさんの書類を集める必要があります。さらに、公証役場での認証や、母国から無犯罪証明書を取り寄せる手間と費用もかかるので、準備には時間と労力が必要です。

参考:法務省 帰化許可申請

申請から許可までの流れはどう違うの?

外国人の男性と女性のビジネス会話

永住権や帰化を目指すときは、ただ条件を満たすだけでは足りません。必要な書類を用意し、正式に申請してから、審査を受けて許可されるまでの手続きがあります。

ここでは、永住権申請と帰化申請がどのように進んでいくのか、それぞれの流れを紹介します。

永住権申請の手続きの流れ

永住権を取るには、次のようなステップで手続きを行います。

1. 事前準備

まずは必要な書類を集めます。主なものは次の通りです。

  • 永住許可申請書
  • 写真(縦4cm×横3cm)
  • パスポートと在留カードのコピー
  • 住民税課税証明書と納税証明書
  • 所得課税証明書
  • 在職証明書
  • 預金残高証明書
  • 賃貸契約書または不動産登記事項証明書
  • 身元保証書(保証人の住民票や所得証明も必要)
  • 申請理由書

そのほかにも、個人の状況によって追加の書類を求められることがあります。

2. 申請

書類がそろったら、住んでいる地域を担当する出入国在留管理局に出向いて申請を行います。パスポートや在留カードの原本も持参し、提示しなければなりません。

3. 審査

審査には半年から1年ほどかかるのが一般的です。その間に、追加の書類提出を求められるとさらに期間がのびることもあります。入管から連絡が来たときにすぐ対応できるよう、注意しておきましょう。

4. 結果通知

許可されると、ハガキで通知が届きます。指定された日に入管へ行き、収入印紙8,000円分を提出して、新しい在留カードを受け取ります。不許可の場合、理由は説明されません。

また、永住権を取得した後も、在留カードは7年ごとに更新が必要です。

帰化申請の手続きの流れ

帰化申請の流れは永住権とは異なり、法務局で行います。次のような手順で進めます。

1. 事前相談・事前審査

まずは、住んでいる地域を管轄する法務局に電話かインターネットで予約を取り、相談に行きます。この時点で、担当官から書類の内容や今後の流れについて詳しい説明を受けることになります。

2. 必要書類の収集・作成

帰化申請では、提出する書類の数がとても多くなります。代表的な書類は次の通りです。

  • 帰化許可申請書
  • 親族関係図
  • 履歴書
  • 動機書
  • 住民票や戸籍謄本(家族全員分)
  • 納税証明書(市区町村と税務署の両方)
  • 在職証明書や給与明細
  • 預金通帳のコピーと残高証明
  • パスポートの出入国記録
  • 出生証明書や国籍証明書(母国のもの)
  • 無犯罪証明書(必要な場合のみ)

書類は100点を超えることもあり、母国で発行されたものには日本語の訳文も必要になります。

3. 申請

書類をすべてそろえたら、法務局に持っていきます。担当官が内容を確認し、問題がなければ正式に受け付けてもらえます。

4. 面接・追加資料の提出

受付が終わってしばらくすると、法務局で面接が行われます。面接では、家族のことや日本での暮らし、帰化を希望する理由、日本の文化についてなど、いろいろなことを聞かれます。
必要に応じて、あとから追加資料の提出を求められることもあるため、その場合はすぐに対応しましょう。

5. 審査

審査には長い時間がかかり、8か月から15か月ほど見ておく必要があります。申請した本人だけでなく、家族の状況もふくめて総合的に判断されるためです。

6. 結果通知・官報告示

帰化が認められると、本人に通知が届きます。そのあと、名前が「官報」という国の広報に載ります。この段階で、日本国籍を取得したことになります。

7. 戸籍の編製・日本旅券の取得

帰化が許可されたあとは、市区町村の役所で戸籍を作ってもらいます。そのあと、日本のパスポートを申請することができるようになります。

結局、向いているのはどっち? 永住権と帰化の選び方ガイド

天秤 永住と帰化のどちらを選ぶか

永住権にするか帰化にするか迷ったときは、自分の将来や生活スタイルに合った方を選ぶようにしましょう。
ここでは、それぞれに向いている人の特徴をわかりやすく整理しました。自分の希望や考え方にあてはまるかどうか、ぜひ比べてみてください。

永住権はこんな人に向いています

永住権(在留資格「永住者」)は、長く日本に住みたいけれど、今の国籍は変えたくない人に合っています。母国の国籍を保ったまま、日本でも自由に暮らせるのが大きなメリットです。

たとえば、次のような人には永住権がおすすめです。

  • これからも母国と日本の両方を行き来したい
  • パスポートは自国のものを持ち続けたい
  • 選挙や公務員の仕事には特に関心がない
  • 日本人の配偶者がいる、または高度人材ポイント制度で条件を満たしている
  • 海外出張や国際的な仕事をしながら、日本にも拠点を持っていたい

永住権を取ると、在留期限の更新がいらなくなり、働く場所や住む地域の制限もなくなります。ただし、法律を破った場合などには永住権を取り消されることもあるため、注意が必要です。
申請をスムーズに進めたい人は、行政書士など専門家に相談するのも一つの方法でしょう。

帰化はこんな人に向いています

帰化は、日本国籍を取り、日本人として生きていきたい人に合った制度です。国籍が変わることで大きな変化がありますが、そのぶん社会的な信頼や自由度も大きくなります。

たとえば、次のような人は帰化を考えてみるとよいでしょう。

  • 日本で子どもを育て、日本の学校で学ばせたい
  • 選挙に参加したい、将来は政治や公務の仕事をしてみたい
  • 住宅ローンを組んだり、事業を始めたりするときに信用力を高めたい
  • 母国にあまり行くことがなく、国籍を変えることに抵抗がない
  • 自分だけでなく、家族や子どもにも日本で安定した生活をさせたい

帰化すれば、日本人と同じように選挙権や立候補の権利が持てるようになります。また、住宅ローンや就職のときにも信用されやすくなるため、将来の選択肢が広がるでしょう。
ただし、帰化によってもとの国籍を失い、日本の戸籍が新たに作られるなど、生活面でも大きな変化が起こります。
自分の家族や今後の人生のこともふまえて、よく考えて選ぶことが大切です。

さいごに

永住権と帰化は、どちらも日本で安心して暮らしていくために大切な選択です。
今の国籍をそのままにして自由に生活したい人には永住権が向いています。一方で、日本人として新しい人生を始めたい人には帰化という選択肢があります。

それぞれの良いところと注意点をしっかり理解して、自分の将来や家族の思いに合った道を選んでください。
手続きには時間も労力もかかりますが、きちんと準備をすれば、その分だけ目標に近づけるはずです。

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