日本で年々増加している外国人採用ですが、雇用形態は非正規雇用(アルバイト/派遣/契約社員)が多くを占めています。正社員として雇用されている外国人はまだまだ少ないのが現状です。

本記事では企業が外国人を正社員として雇用していない現状と、その解決策を解説します。

いまだに外国人の正社員が少ない3つの要因

厚生労働省が発表した「外国人雇用状況」の届出によると、2024年の外国人労働者は204万人を超えています。これは過去最高記録となっており、10年連続で更新し続けています。

しかし、正社員雇用の数は増加しにくい傾向が続いています。
なぜそのような現状があるのでしょうか。

大きな要因となっているのが「入管法の影響」「日本企業の需要との関係」「受け入れ体制の整備不足」の3つです。

以下で詳しく見ていきます。

参考:厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況表一覧

①入管法の影響で「就労目的の在留資格」の取得が難しい

入管法(出入国管理及び難民認定法)とは「日本に入国、又は日本から出国するすべての人の出入国の公正な管理を図るとともに、難民の認定手続きを整備すること」を目的とした法律です。
日本国内での外国人の滞在と労働が規制されているため、外国人を雇用する際は入管法に則った在留資格や労働許可の取得が必要となります。

2019年の改正で「特定技能」という新たな在留資格が創設され、今まで対象外とされていた業界でも外国人を正社員雇用できるようになりました。
しかし、特定技能も含め正社員雇用を見込める在留資格には「技能」や「日本語能力」を確認する試験があるため、誰でも簡単に取得できるものではありません。

入管法の改正で受け入れ可能な外国人の母数は増えた一方、就労ビザの取得自体のハードルが高く正社員雇用が難しいのが現状です。

▽入管法について解説した記事

【2024年版】入管法改正の変更点|外国人雇用に与える影響とは? 最新の改正内容・特定技能について解説

②「日本企業の需要」と「在留期間制限」のバランスが取りにくい

永住権を取得し、就労の制限なく日本で働くことを望んでいる外国人がいる反面「出稼ぎ」として一定期間日本で働き、在留期間が終了するとともに帰国する外国人が多いのも実情です。

実際に外国人を雇用する場合の雇用形態は以下の4つに分類されます。

 パターン1. 【直接雇用】日本人正社員と同等の立場「正社員」

  • IT・製造・建設・教育・医療などの業種に多い
  • 安定した給与や福利厚生が受けられる
  • 採用プロセスが比較的厳格で、高い日本語能力が求められる

パターン2. 【直接雇用】日本人の嘱託、アルバイト・パート等と同等の立場「非正社員」

  • 飲食・小売などの業種に多い
  • 契約内容が柔軟に対応可能で、短期雇用が可能
  • 低賃金・社会保険がなく安定性が低い
  • 留学生が資格外活動として就くことが多い

パターン3. 【間接雇用】請負会社から企業に派遣された「請負社員」

  • 建設・製造・工場などの業種に多い
  • 専門的な技能を提供するため、安定した収入が得られる
  • 雇用主からの指示と制御が限定的
  • 契約期間に制約がある

パターン4. 【間接雇用】派遣会社から企業に派遣された「派遣社員」

  • 製造・物流などの業種に多い
  • 契約内容が柔軟に対応可能で、短期雇用が可能
  • 契約期間に制約がある
  • 給与水準が一般的に低く安定性が低い

就労ビザを取得した外国人が実際に日本で働く場合、多くが「間接雇用」を選ぶ傾向があります。
これは「永住者」や「特定の条件が必要な在留資格」を持っていない限り、1度の審査で許可される在留期間は最長5年であることも関係しています。

長期雇用を重視する日本企業にとって、正社員として雇用期間を定めずに外国人を採用することは「需要が限定的」ととらえられる場合もあります。
そのため正社員の採用プロセスは、5年間で発揮できるスキルがあるかどうかを見極める比較的厳格なものになっています。

また、外国人としても正社員としての契約のために厳格な採用プロセスへ挑むより「契約内容が柔軟に対応可能」で「採用プロセスが簡素化されスムーズに働き始められる」間接雇用や非正社員を選ぶことが多いのが実情です。

引用:(独)労働政策研究・研修機構 日本における外国人労働者雇用の現状と課題

③受け入れ体制の整備に課題がある

外国人労働者を正社員として採用する際には、企業側も受け入れ体制を整えなければなりません。
事務的な準備としては、英文の就業規則や雇用契約書などの作成があります。非正規社員と異なる法的要件の説明や定期的な面談、カルチャーサポートなども必要です。

職場の環境としては外国人労働者の雇用労務責任者を選出したり、日本国語教育を推進することも望ましいです。そして、日本人社員の異文化理解を深めることも重要です。

ここでは、外国人を正社員として無期限雇用することに成功した企業事例をご紹介します。

事例1. 日揮株式会社

  • ビジネス日本語検定J1以上で奨励金を支給
  • 社内の部活動・クラブ活動などを通して人間同士のつながりを深めて定着を促進
  • 社内ファシリティ案内を英語で表記
  • イスラム教徒向けのお祈り部屋の設置

事例2.カシオ計算機株式会社

  • キャリアプランをイメージしやすくするために職種別採用を実施
  • ビジネス日本語能力テストの受験料を補助
  • 「母国帰国休暇」を制度化し、有給を申請しやすくした
  • イスラム教徒向けのお祈り部屋の設置

事例3.パナソニック ホールディングス株式会社

  • レベル別にビジネス日本語研修を実施
  • 仕事の進め方に対する違いをワークショップ形式で学ぶ
  • 異文化研修の実施
  • 経営理念研修を個別に実施

外国人労働者の正社員採用が初めての場合は、何に重点を置けばいいのか分からず手間取ってしまうこともあります。

上記のような企業例を参考に、自社ではどのような受け入れ体制の整備ができるかを考えましょう。

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外国人の正社員を雇うために企業が対応するべきこと

外国人を採用できても、前述した要因により正社員雇用が少なく、短期的な労働力となってしまっているのが現状です。

以下では外国人を正社員として長期雇用するために、企業ができることを紹介します。

サポート体制を充実させる

外国人向けに、多方面でのサポートを充実させることは長期的な雇用につながります。

たとえば在留資格の取得や更新に苦戦する外国人は多く、それが原因で日本での就職をあきらめてしまうケースもあるようです。近年外国人採用に力を入れている企業では、複雑な手続きをサポートするだけでなく、特定技能試験や日本語能力試験の受験に関する支援も行なっています。

また、外国人社員が生活に関する課題や困難に対処できるよう、住宅支援、医療・福祉情報提供、法的サポートを提供するのも望ましいです。

採用プロセスの最適化

外国人正社員の受け入れを促進するには、採用プロセス・条件を見直す必要があります。

現在多くの日本企業は、外国人の採用を日本語が上手かどうかで決める傾向があります。応募の要件として日本語能力試験のN1〜N2を求めるところがほとんどでしょう。しかし、この日本語能力が外国人にとって日本で就職する上で一番の壁となっています。突出した仕事スキルを持っていても日本語の問題だけで就職をあきらめ、帰国してしまう外国人留学生が多くいる現状があります。

採用の条件として求める日本レベルを緩和にし、人柄やスキルをより重視することで企業にマッチした外国人社員に出会いやすくなるでしょう。

多文化教育とトレーニング

日本に住む外国人の多くは日本語学習に意欲的です。特に留学生によると大学で学べる日本語は基礎的なレベルまでであり、就職後も日本語を学べる環境をのぞむ方が多いようです。

また、日本文化やビジネス習慣に関する教育プログラムを提供することで、日本人社員との相互理解や円滑なコミュニケーションを促進することにつながります。

社内のグローバル化

社内をグローバル化させることで、外国人社員を積極的に受け入れる姿勢を見せることができます。

外国人が日本の職場に対して一番もとめるのが、社内での英語の利用です。日本語だけでなく、簡単な英語を交えたコミュニケーションのできる職場が魅力的であるそうです。観光客が急増し、グローバルな市場が当たり前な中、こうした取り組みは企業の成長にもつながるでしょう。

▽外国人に聞いた 魅力的な日本企業の条件

グローバル企業の条件とは? 外国人の働きやすい日本の職場|メリット・おすすめ人材について解説

外国人を正社員として雇用するメリット

外国人の正社員雇用で得られるメリットはたくさんあり、採用を検討している企業は多いです。
以下では、外国人を正社員として雇用するメリットを3つに絞ってご紹介します。

①若い人材の確保

日本では若い労働者が減少しています。
農業、水産業、ドライバー業、建設業だけでなく、今後はどの業界でも若い労働力が減っていきます。

2010年では75歳以上の人は1400万人程度でしたが、2025年では2180万人程度になることが予想されています。

対して、厚生労働省の調査によると、日本で働く外国人労働者は平均年齢20〜29歳が一番多いことがわかっています。
体力がいる仕事など、高齢化が著しい業界では外国人採用のメリットは非常に大きいです。

参考:厚生労働省 在留資格別×男女別にみた外国人労働者数の推移

②グローバルな視野の拡大

海外進出を考えている企業にとって、外国人労働者は大きな戦力です。
複数の言語を話せる外国人を雇用することができれば、観光客だけでなく海外の顧客や企業とのコミュニケーションがスムーズに行えます。

売上を伸ばしたい国出身の外国人を雇用することで、その土地に住むひとのニーズ、習慣をより深く理解できるでしょう。

また、インスタグラムのような世界中で使われているSNSだけでなく、それぞれの国で中心的に使われているローカルなSNSを利用できるようになるのも強みです。そのようなSNSは競合が少なく、特定の顧客をターゲティングしやすい傾向があります。

③価値観の多様化

社内の構成メンバーが多様化することで、ひとつのものごとを多面的に見ることができるようになります。外国人が職場に入ったことで、新しい発見があった企業様からの声もあります。

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外国人の正社員雇用について詳しくなりましたか?

外国人労働者が過去最高を記録する一方、実際の内訳は留学生のアルバイトや技能実習の割合が多く、正社員はほんの一握りに過ぎません。
しかし、外国人の正社員雇用はメリットがとても多く、実際受け入れに成功している企業も増えつつあります。

在留資格や複雑な受け入れ体制など、企業側が理解しなければならないこともありますが、ポイントをおさえて効率的な正社員雇用を実現しましょう。