近頃は日本の企業でも外国人採用が盛んに行われています。注意点やメリットも理解したし、ぜひ自社でも採用したい! と思われている企業の担当者さまも多いでしょう。
そんなとき「外国人の厚生年金ってどうなっているの?」「そもそも払う必要ってあるんだっけ?」という疑問を持つ方も少なくありません。

今回は外国人の厚生年金についてそもそも払う必要があるのか、押さえるべきポイントは何かを解説いたします。

外国人でも厚生年金に加入する義務があるの?

厚生年金を払う条件を満たしていれば、外国人であっても厚生年金に加入して保険料を支払わなければなりません。日本の社会保障制度は国籍に関係なく、日本に住んでいれば原則として日本人と同じように適用されます。
外国人の厚生年金加入に関して気をつける点は、自国の年金との二重払い、年金加入期間の通算、帰国するときの手続きです。

そもそも日本の年金はどうなってる?

日本の年金は「厚生年金」と「国民年金」の2種類があり、かならずどちらかに加入しないとなりません。それぞれの加入条件はつぎのようになっています。

厚生年金

法人登記された会社は、一部の業種以外は厚生年金が強制適用されます。適用事業所で常時雇用されている場合には、自動的に厚生年金に加入することになります。

非正規雇用の場合でも、つぎの条件を満たすと加入対象になります。

① 勤務時間:週の所定労働時間が20時間以上であること

② 勤務期間:雇用契約の期間が1年以上見込まれること

③ 賃金:月額賃金が88,000円以上(年収換算で約106万円以上)であること

④ 年齢:年齢が適用される範囲内であること(通常は70歳未満)

⑤ 勤務先の規模:勤務先が従業員501人以上の企業であること。ただし従業員500人以下の企業でも、労使合意がある場合や、企業の自主的な対応により加入することも可能。

これらの条件を満たす場合、非正規雇用者であっても厚生年金に加入することが義務付けられます。
特にパートタイムやアルバイトなどの短時間労働者でも、上記の条件を満たしていれば厚生年金の対象となります。

国民年金

国民年金の加入対象は日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満のすべてのひとです。
具体的には以下の3つの区分に分けられます。

第1号被保険者:

  • 自営業者やフリーランス
  • 農業、漁業従事者
  • 学生
  • 無職の人(専業主婦・主夫など)
  • これに該当する20歳以上60歳未満の人

第2号被保険者:

  • 厚生年金保険の被保険者(一般的に会社員や公務員)
  • 船員保険の被保険者
  • これに該当する20歳以上60歳未満の人

第3号被保険者:

  • 第2号被保険者に扶養されている配偶者
  • これに該当する20歳以上60歳未満の人

国民年金は日本の公的年金制度の基礎部分を構成しており、すべての対象者が加入しなければなりません。第1号被保険者はみずから保険料を支払い、第2号被保険者は給与から厚生年金保険料として自動的に控除され、第3号被保険者は保険料の支払い義務がなく、扶養者の加入する年金制度により保険料がまかなわれます。

外国人は何に気を付けるべき? 帰国したら?

日本で年金を受給するためには、「保険料を合計で10年以上支払う必要」があります。
ですから外国人が日本で年金に加入しても、10年未満で帰国してしまう場合には原則として年金を受け取ることができません。

また自国の年金も支払う必要があるので、年金を二重に払うことになります。

ただし条件を満たすと「脱退一時金」が受給できたり、自国と日本が社会保障協定を結んでいる場合は、二重払いの防止や年金加入期間の合算ができます。

外国人社員が厚生年金に加入したがらない、そんなときは?

10年未満で帰国する場合は、基本的には年金を受け取ることができず、年金保険料も二重に払うことになるため、外国人が厚生年金に加入したがらないケースも考えられます。
ただし上述していますが、条件を満たせば脱退一時金が受給できますし、社会保障協定を結んでいる国の国籍であれば、保険料の納付期間が10年未満でも年金を受け取ることができます。

条件を満たす場合には、完全な掛け捨てにはならないことをしっかりと説明して、厚生年金加入に同意してもらいましょう。

脱退一時金とその計算方法とは?

日本国籍を持っていない外国人が、厚生年金の資格を喪失して日本を出国したとき、日本に住所がなくなった日から2年以内であれば、脱退一時金を申請できます。
2017年以降は転出届を提出すれば、転出予定日以降に日本国内で請求することが可能になっています。

脱退一時金の金額は?

脱退一時金の金額は、加入期間に応じて計算されます。

  1. 加入期間の確認
    • 脱退一時金は厚生年金保険の被保険者期間に基づいて計算されます。加入期間が6ヶ月以上であることが条件です。
  2. 脱退一時金の計算式
    • 支給される金額は、被保険者期間の月数に基づき、標準報酬月額の平均額に一定の支給率をかけた金額となります。標準報酬月額は、給与額に基づいて算定されます。

脱退一時金の制度は非常に複雑です。詳しくは日本年金機構のホームページをご覧ください。

二重払いを防ぐ! 社会保障協定とは?

社会保障協定は、異なる国における社会保障制度の適用に関するルールを定める二国間協定です。これにより、国際的な労働者が各国の社会保障制度に適切に参加し、保護を受けることができます。具体的なポイントは以下の通りです。

社会保障協定の目的

二重加入の防止

一定期間(通常は5年以内)海外で働く場合、どちらか一方の国の社会保障制度にのみ加入することで二重加入を防ぎます。

受給資格期間の通算

両国での加入期間を合算して、年金受給資格を得られるようにします。
これによってどちらか一方の国で必要な加入期間を満たせない場合でも、通算することで受給資格を得ることが可能です。

社会保障協定の内容

適用範囲の決定

労働者がどちらの国の社会保障制度に加入するかを決定します。通常、労働者が一時的に海外派遣される場合、派遣元の国の社会保障制度に引き続き加入します。

年金の受給資格

各国での加入期間を合算して受給資格を確認します。たとえば、日本とドイツの協定では、両国の年金制度での加入期間を合算して、どちらか一方の国での受給資格を満たすことができます。

保険料の調整

社会保障協定により、二重に保険料を支払うことなく、一方の国の制度にのみ保険料を納めることで負担を軽減します。

日本が締結している主な社会保障協定国

日本は、多くの国と社会保障協定を締結しています。主な協定国には以下の国々があります。

  • アメリカ
  • ドイツ
  • フランス
  • イギリス
  • 韓国
  • カナダ
  • オーストラリア
  • ベルギー
  • スペイン
  • オランダ
  • イタリア

社会保障協定を結んでいる国は欧米諸国が多いです。
現在、日本で働く外国人労働者は、基本的にはアジア諸国の出身者が多くなっており、今後ますます増えることが予想されています。しかしいまだに締結国は少なく、今後はより多くの東南アジア諸国との協定の発効が必要でしょう。

実際の利用方法

派遣前の手続き

海外派遣前に社会保障協定の適用証明書を取得し、勤務国での社会保障制度加入を免除する手続きを行います。

帰国後の手続き

帰国後、日本の社会保障制度に再加入するための手続きを行います。また加入期間の通算を希望する場合、必要な申請を行います。

年金受給手続き

年金を受給する際、加入期間通算を利用して受給資格を確認して必要な手続きを行います。

外国人の厚生年金はここを押さえて!

外国人であっても、厚生年金の加入条件は日本人と同じです。ちがう点は帰国した場合に脱退一時金を受け取れるケースがあること、社会保障協定が有効なケースがあるということです。
日本で払った年金がまったくムダにはならないように、さまざまな制度が整えられています。外国人社員の国籍や働く期間に合わせて、事前に使用できる制度の説明をきちんとしておきましょう!