近年、日本社会における外国人労働者の存在感はますます高まっています。
しかし、外国人労働者にとって日本の社会保障制度は複雑で、分かりにくいと感じることが少なくありません。
とくに、年金制度は将来の生活に直結する重要な制度であるため、外国人本人と企業担当者の双方が理解しておくべきでしょう。

この記事では、外国人労働者の年金加入について、加入義務や将来受け取れる年金の額、おさえておきたいポイントなどを分かりやすく解説します。

外国人労働者と日本人労働者の年金の違いは?

結論から言えば「日本人と同条件での加入が必要」で「将来受け取れる年金の額は日本人と外国人労働者でおなじ」です。これは、国民年金と厚生年金という2つの年金制度が、加入期間と納付した保険料額にもとづいて年金の額を計算しているためです。

外国人労働者が加入する年金

ここからは、日本の年金制度の種類についておさらいします。基本的な内容ではありますが、理解を深めておきましょう。

国民年金

国民年金は、日本国内に住所がある20歳以上〜60歳未満のすべての人が加入する年金制度です。在留外国人も国民年金保険料を納付しなければなりません。
国民年金には「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」の3種類があり、それぞれ対象者や保険料の納めかたが違います。

第1号被保険者
  • 自営業者、農業者、学生、無職の方など
  • 第2号被保険者と第3号被保険者に該当しない方
  • 保険料は本人、または保険料連帯納付義務者(世帯主や配偶者)が直接おさめる
第2号被保険者
  • 70歳未満の会社員や公務員などの厚生年金加入者(厚生年金と国民年金の同時加入者)
  • 厚生年金の保険料を支払うだけで、国民年金の保険料もカバーされる
  • 保険料は会社が給与から天引きする
第3号被保険者
  • 第2号被保険者に扶養されている20歳以上〜60歳未満の配偶者(年収130万円未満かつ配偶者の年収の2分の1未満の方)
  • 保険料は第2号被保険者全体で負担するため、個別に納める必要はない

厚生年金

厚生年金は会社員、公務員、私立学校の教職員などが加入する年金制度です。在留外国人も厚生年金保険料を納付しなければなりません。

  • 納付額は人により異なる(月ごとの給与に対して定率)
  • 企業と従業員が半分ずつ負担する
  • 給与明細に記載されている保険料は実際の納付額の半額
  • 支給開始年齢は段階的に引き上げられている(2025年度には65歳)

外国人労働者に将来支払われる年金の額

年金の額は、加入期間や納付した保険料額によって決まります。具体的には、国民年金と厚生年金のそれぞれの加入期間と、それに対して支払った保険料が影響します。
そして、外国人労働者ももちろん日本人労働者と同じ条件で年金を受給することができます。
日本での勤務期間が短い場合や帰国する場合には「脱退一時金」を請求することで、一時金として支払った保険料の一部を受け取ることが可能です。こちらに関しては、次項で解説していきます。

外国人労働者の年金加入でおさえたいポイント

ポイント① 在留資格の更新・変更手続きへの影響

在留外国人が在留資格の更新や変更の際に年金の滞納がある場合、在留資格の取り消しや更新制限が課せられる可能性があります。
外国人労働者の受け入れが増加するなか、政府は在留資格の更新や変更審査を厳格化しています。税金や社会保障の適正な利用を推進するために、悪質な保険料未払いの情報共有が進められていることを覚えておきましょう。

また、納付義務を守らないと年金額が減額されるだけでなく、受給資格期間にも算入されないため、最悪の場合は納付期間が足りずに年金を受給できないリスクがあります。

ポイント② 脱退一時金制度の利用

「脱退一時金制度」とは、外国人労働者が6か月以上〜10年未満で日本から帰国する場合に、納めた国民年金保険料の一部を返金する制度です。
とくに技能実習生など長期的な在留を見込まない外国人労働者は、保険料が掛け捨てになると誤解し加入をためらうケースがあります。そのような場合はこの制度の存在を事前に説明しておきましょう。

厚生年金保険の脱退一時金の支給額は、以下の計算式をつかいます。

出典:日本年金機構

脱退一時金を受け取るには、帰国後2年以内に日本年金機構に申請する必要があります。退職や帰国の際には、手続きを確実に行うことが大切です。

参考:日本年金機構 脱退一時金の制度

ポイント③ 社会保障協定の締結状況

「社会保障協定」とは、日本と多国間で社会保障制度の適用範囲や保障内容に関する取り決めをする国際協定です。

日本は以下の国と社会保障協定を締結しており、二重課税にならないよう片方の国の年金が免除されたり、2か国の年金制度への加入期間に応じた年金がそれぞれの国から受給できることになります。

「社会保障協定」とは、日本と他国との間で社会保障制度の適用範囲や保障内容に関する取り決めをする国際協定です。

日本は以下の国々と社会保障協定を締結しており、片方の国の年金が免除されたり、両国の年金制度への加入期間に応じた年金をそれぞれの国から受給できるようになっています。

ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア

参考:日本年金機構 社会保障協定

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外国人労働者向けの年金マニュアルを作りましょう

日本の年金制度は外国人にとって複雑で理解しにくいことがあります。
企業としてできるのは、外国人労働者が年金制度を正しく理解し、適切に加入・利用できるようにサポートすることです。分かりやすいマニュアルを作成しておくと親切でしょう。

マニュアルには以下の内容を含めることをおすすめします。

加入義務について

日本に住所がある20歳以上〜60歳未満のすべての人は、国籍に関わらず国民年金に加入する義務があることを記載します。
どのように納付するのか(給与天引きなど)についても、わかりやすく説明します。

将来受け取れる年金の額

加入期間や支払った保険料額によって、将来受け取れる年金額がどのように決まるかを記載します。
加入期間が長いほど、支払った保険料が多いほど、より多くの年金を受給できる仕組みになっています。

おさえておきたいポイント

年金制度に関する重要な注意点や、外国人労働者が知っておくべき情報をまとめます。
前項で紹介したように、年金未納が在留資格の更新・変更に影響を与える可能性や、脱退一時金制度の利用方法などについてくわしく説明します。

また、マニュアルを英語やほかの言語に翻訳して、外国人労働者が理解しやすいように提供することも大切です。
定期的に説明会を開催したり、直接質問に答える機会を設けることで、情報の理解度を深めることもおすすめします。

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さいごに

企業担当者が外国人労働者の年金について理解しておくことで、正確な情報提供と適切なサポートが可能になります。
本記事を参考にして、外国人労働者が安心して日本の年金制度を利用できる環境を整えていきましょう。