外国人社員から「身元保証人になって」と言われたらどうする? 会社が知っておきたいポイントを解説
「ビザの更新で身元保証人が必要らしいのですが、社長にお願いできますか?」
外国人社員からこんな相談を受けて、どう対応すればよいか迷っている方もいるのではないでしょうか。
はじめて外国人を採用した会社では、こうした質問に不安を感じやすいものです。
たとえば「保証人」と聞くと、借金の肩代わりや、トラブルが起きたときの大きな責任を想像してしまう社長も少なくありません。
ただ、ここで過度に心配する必要はありません。
入管手続きの場面で求められる「身元保証人」は、日本で一般的に使われる「連帯保証人」とは役割がまったく異なるためです。責任の重さも違っており、性質を分けて考える必要があります。
さらに結論を先に伝えると、多くの就労ビザでは会社が身元保証人になる必要はないとされています。この点を知っておくだけでも、気持ちがかなり軽くなるはずです。
この記事では、自社の場合に身元保証人が本当に必要か判断する方法や、引き受けるときの注意点、そして無理なときの断り方を順番に整理していきます。
目次
【結論】外国人の就労ビザでは、会社が身元保証人になる必要は「原則なし」
外国人をエンジニアや通訳、事務職などで雇う場合(いわゆる「就労ビザ」)には、会社や社長が身元保証人になる場面はほぼありません。
これは、雇用契約を結んでいる会社(所属機関)が、その人の身元をすでに保証していると見なされるためです。
そのため「採用するなら社長個人の実印が必要なのでは?」と心配する必要はありません。
ただ、入管法における身元保証人の仕組みを知らないと、社員から相談されたときに戸惑ってしまう可能性があります。そこで、まずは基本から説明していきます。
入管法上の「外国人の身元保証人」とは?

「身元保証人」という言葉は、意味の違う3種類があり、多くの人がここで混乱しがちです。
まずは次の表で整理してみましょう。今回のテーマは「①入管法上の身元保証人」です。
| 種類 | ①入管法上の身元保証人 | ②賃貸契約の連帯保証人 | ③入社時の身元保証人 |
| 目的 | ビザ(在留資格)の申請・更新 | アパートやマンションの契約 | 入社時の雇用契約 |
| 保証内容 | 生活のサポート・帰国費用・法令遵守の声かけ | 家賃滞納分の支払いなど | 会社への損害賠償など |
| 法的責任 | なし(道義的責任) | あり(支払い義務) | あり(損害賠償義務) |
| 誰がなる? | 日本人、永住者など | 日本人または保証会社 | 親族など |
ご覧のとおり、①入管法上の身元保証人には金銭的な責任はなく、法的義務も伴いません。
あくまで「この外国人が日本で安心して生活できるよう、見守ります」と法務大臣に伝える、保護者のような立場だと考えて大丈夫です。
一方で、会社として注意したいのは③の「入社時の身元保証人」です。
こちらは日本人の採用時と同じく、万が一のトラブルで会社に損害が出た場合に関わるため、①とは切り分けて考えたほうがよいでしょう。
どの在留資格で必要になるの?
「では、どんな場面で身元保証人が必要になるのか」と気になりますよね。
おおまかに言うと、エンジニアや通訳などが取得する一般的な就労ビザでは原則不要です。
その一方で、「永住者」などの身分系のビザや、「短期滞在(商用)」など一部の申請では身元保証人が求められます。
もし、外国人社員が「技術・人文知識・国際業務」のビザで働く予定なら、会社が身元保証書を書く必要はありません。「永住権を取りたいです」と相談されたときは、身元保証人が必要になる仕組みです。
身元保証人が必要になるのはどんなとき?
「うちの社員の場合はどうなんだろう?」と迷ったときは、まず次の表を参考にしてみてください。
基本的には、就労ビザの申請や更新で会社が動く必要はありません。けれど、社員本人のライフイベント(永住申請や家族を日本へ呼ぶ手続き)では、相談が来る場面も考えられます。
| 在留資格の例 | 身元保証人の要否 | 一般的な身元保証人 | 会社の対応 |
| 技術・人文知識・国際業務 | 原則不要 | ー | とくに対応なし |
| 特定技能 | 原則不要 | ー | とくに対応なし (支援計画に沿って生活をサポート) |
| 永住者 | 必要 | 友人・知人・会社の上司や社長 | 相談が来る可能性あり |
| 日本人の配偶者等 | 必要 | 日本在住の配偶者(日本人) | 基本は配偶者に任せる |
| 短期滞在(商用・親族訪問 | 必要 | 日本側の招へい人 | 取引先の来日なら会社が対応 |
外国人社員の身元保証人になれるのはだれ?

身元保証人になれる人の条件は、意外なほどシンプルです。
「日本に住んでいて、安定した収入があり、税金をきちんと納めている日本人(または永住者)」であれば、だれでもなることができます。
永住申請の場合
少し前までは「会社の社長にお願いするのが一般的」とされていました。
しかし今はルールが緩和され、日本人の友人や、同じ職場の日本人スタッフでも問題ありません。必ずしも社長に頼む必要はないため、社員が相談してきてもあせらずに対応しましょう。
短期滞在(商用)の場合
海外の取引先を会議などのために日本へ呼ぶ場合、日本側の会社(代表者など)が招へい人として身元保証人になることがあります。ビジネス上の来日であれば、会社として対応するケースも多いでしょう。
まとめると、会社や社長に依頼が来やすいのは
「社員が永住権を取りたいとき」 または 「海外の取引先を短期間だけ日本に招くとき」 が中心です。この2つを覚えておきましょう。
外国人社員から頼まれたとき、会社としての判断軸とリスクはある?

身元保証人になってほしい、と頼まれたときに「力になりたいけれど、何かリスクがあるのでは…」と迷うのは自然なことです。
ここでは、判断の目安になるポイントをお伝えします。
引き受ける前にチェックしたい4つのポイント
即答する前に、まず次の4点を落ち着いて確認してみてください。
この条件をおおむね満たしているなら、身元保証人を引き受けても大きなリスクにはなりにくいと考えられています。
① 何の申請ですか?
「永住申請」であれば、会社にとっても「長く働いてくれる」というメリットにつながります。
一方で、ほかの身分系ビザであれば、配偶者や親族にお願いする方が自然な流れです。
② 本人の勤務態度やふだんの様子はどうですか?
遅刻や欠勤が少ない、ルールを守って行動しているなど、真面目に働く姿勢が前提になります。
③ 経済的な基盤は安定していますか?
会社が継続して給与を支払えているなら、ここは心配する必要はありません。
④ 関係性は良好ですか?
退職後も連絡が取れるかどうかが大切です。
何かあったときに連絡が途切れてしまう関係だと、不安が残ってしまいます。
「道義的責任」とは何を意味するの?
ここが一番気になるところだと思います。先ほど触れたように、入管法上の身元保証人には借金の肩代わりのような法的責任はありません。
求められるのは、あくまで「道義的責任(どうぎてきせきにん)」という、申し訳程度のサポートです。
具体的に約束するのは次の3つです。
- 滞在費(生活に困らないよう様子を見守る)
- 帰国旅費(強制送還になり、本人にお金がない場合だけ負担する可能性がある)
- 法令の遵守(日本のルールを守るよう助言する)
もし保証した外国人が犯罪を起こしたり、行方がわからなくなったりしても、社長が罰金を払う・逮捕されるといった事態にはなりません。
ただし、約束を守れなかったと判断されると、入管からの信頼を失い、今後ほかの外国人の保証人を引き受けられなくなるおそれがあります。
これが実質的に、会社にとって最も大きなリスクだと言えるでしょう。
会社や社長が身元保証人を引き受けるメリット・デメリット
身元保証人になることには、良い面と気をつけたい面の両方があります。
メリット
- 永住権を取得した社員が、長く働いてくれる可能性が高まる
- 「応援してもらえた」と感じて社員のエンゲージメントが上がる
- 永住権取得後はビザ更新が不要になり、事務作業の負担が減る
- 外国人採用に前向きな会社として、社内外から良い印象を持たれることもある
デメリット
- 社長や担当者にとって、心理的な負担が大きくなることがある
- 一度引き受けると、「自分もお願いしたい」と別の社員から依頼が来やすい
- 退職後の連絡窓口として対応が必要になる場合がある
- 何らかのトラブルがあったとき、入管から確認や説明を求められる可能性がある
身元保証人を引き受けるかどうかは、個別の社員との関係だけで決めるのではなく、「会社としてどういう方針を持ちたいか」も踏まえて考える必要があります。
あらかじめ方針を決めておくと、社員から相談されたときにも落ち着いて対応できるでしょう。
どうしても引き受けられない時の「断り方」と「代わりの案」

ここからは、「しっかり考えた結果、やはり身元保証人にはなれない」という場合の対応をまとめています。
リスクが高いと感じるなら、無理に引き受けて心に負担をためるより、誠実に断ることも大切です。
身元保証人を断ったほうがいいケース
つぎのような状況では、きっぱりと断る方が安心です。
- 入社してまだ日が浅く、勤務態度や人柄がよく分からない
- 遅刻や無断欠勤が多い、またはルール違反が見られる
- 申請の目的や在留資格を本人がよく理解できていない
- 退職予定がある、もしくは近いうちに別の国へ移る可能性が高い
このような場合、会社として十分に状況を見守ることが難しくなります。無理に引き受けても、会社にとっても本人にとっても良い結果にならないでしょう。
角を立てずに断る伝え方はある?
断るときは、個人の気持ちではなく「会社としてのルール」を理由にすると、相手も受け止めやすくなります。
たとえば、次のような言い回しが使いやすいでしょう。
- 「会社として、日本人・外国人にかかわらず、社員の身元保証人にはならない決まりにしています。」
- 「以前から、身元保証人は家族や長く付き合いのある友人にお願いしてもらう方針なんです。」
- 「力になりたい気持ちはあるのですが、保証人として十分な責任を果たせないため、今回は難しいです。」
こうした伝え方をすると、相手の人格を否定しているわけではないことが伝わりやすくなります。
ただ断るだけでなく「代替案」を添えると親切
断るときに、次のような代わりの選択肢を提示すると、社員が次の一歩を踏み出しやすくなります。
- 日本に住んでいる家族や親族に相談してもらう
- 日本で長く付き合いのある友人・恩師にお願いしてみる
- 身元保証代行サービスの利用を検討してもらう
このように、相手の状況を気遣いながら案内すると、関係が悪くならずに済むでしょう。
引き受ける場合の「身元保証書」の書き方と提出までの流れ
ここまでの内容をふまえて「この社員なら身元保証人になっても問題ない」と判断したあと、気になってくるのが書き方や必要書類です。
ここからは、実際の記入ポイントと提出までのステップをまとめていきます。
【記入例あり】身元保証書の書き方と最新フォーマット

身元保証書は、A4用紙1枚だけのシンプルな書類です。
入管のホームページからダウンロードでき、記入にかかる時間も5分ほどで終わります。
身元保証書の記入ポイント
- 日付:西暦・元号のどちらでもかまいません。
- 本人の国籍・氏名:国籍は「中華人民共和国」「フィリピン共和国」のように正式名称で書きます。氏名はパスポートと同じ表記にしてください。
- 身元保証人の氏名:自筆で署名します。
- 住所:身元保証人の現住所を書きます。
- 電話番号:自宅・携帯のどちらでも問題ありません。
- 職業・勤務先:「会社員」「自営業」など。勤務先名と電話番号も書けると丁寧です。
- 国籍・在留資格:日本人なら「日本」と記入。それ以外の場合は「アメリカ合衆国(永住者)」のように在留資格も添えます。
- 本人との関係:「雇用主」「職場の上司」「夫」「友人」など、分かりやすい表現で書きます。
必要書類と提出までの流れ
身元保証書を記入したあとにすることは、
「1. 必要書類を準備する」→「2. 本人へ渡す」→「3. 本人が入管へ提出する」の3ステップだけです。
1. 必要書類を準備する
身元保証人になった場合、基本的に次の2点を用意します。
- 身元保証書
- 身元保証人の本人確認書類のコピー(運転免許証など、現住所が分かるもの)
以前は「住民票」や「課税証明書(年収証明)」が必要でしたが、永住申請をふくむ多くのケースで不要になりました。
ただし、短期滞在(商用)の場合は「招へい理由書」「滞在予定表」など、別の書類が追加されます。
2. 本人に渡す
準備した書類は、そのまま申請人である外国人社員に渡します。
封筒に入れて渡すと丁寧ですが、「親展」のような厳格な扱いにする必要はありません。
3. 本人が入管へ提出する
社員本人が、ほかの申請書類とあわせて出入国在留管理庁の窓口に提出します。
社長や担当者が同行する必要はなく、本人だけで手続きが完結します。
【FAQ】外国人の身元保証人についてよくある質問
Q. アルバイトの留学生を採用します。会社が保証人になる必要はありますか?
A. 原則ありません。
留学生の場合、学校が所属機関として在留管理を行っています。
そのため、アルバイト(資格外活動)のために会社が身元保証人になる必要はありません。
Q. 保証人になっていた外国人社員が退職したら、会社はどうすればいいですか?
A. 自動的に解除されるわけではありませんが、実際のリスクはとても低いです。
退職後も身元保証書の効力は残ります。ただし、元社員に対して会社が指導や監督を行えない状態であれば、道義的責任を問われるケースはほぼありません。
とはいえ、不安が残る場合もあると思います。そのときは、退職のタイミングで本人と話し合い、配偶者や親族・友人へ身元保証人を変更するよう促すとよいでしょう。
Q. 会社に損害を与えられた場合、入管用の身元保証書で賠償請求できますか?
A. 入管法上の身元保証書では請求できません。
損害賠償が必要になった場合は、入社時に取り交わした「雇用契約書」や「誓約書・身元保証書」が判断の根拠になります。
今回説明しているビザ用の身元保証書とは目的が異なるため、ここはしっかり分けて考えましょう。
さいごに
ここまで解説してきたとおり、外国人の身元保証人に関する手続きは、内容を整理して見ていくと必要以上に構えるものではありません。
- 就労ビザなら、会社が身元保証人になる必要は原則ない
- 依頼が来るとしたら「永住申請」や「短期滞在(商用)」などのケースが中心
- 責任はあくまで「道義的責任」で、借金の肩代わりなどの法的責任はない
- 提出書類はシンプル(多くの場合、保証書と免許証のコピーのみ)
- 不安が大きいときは断っても大丈夫。代行サービスという選択肢もある
社内で「どんな条件なら引き受けるのか」「原則として会社では対応しないのか」といった方針を決めておくと、現場の担当者も迷いにくくなります。
それでも、「やっぱり自社だけで進めるのは不安…」という企業の方もいると思います。
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