グローバル化が進むなか、日本へ旅行に来る外国人(インバウンド)が増加しています。
インバウンドは日本経済に大きなプラスの効果をもたらしていますが、その裏側ではホテルや旅館などの宿泊施設で従業員不足が加速しています。
日本で働く外国人労働者が増えている現在、宿泊業界でも外国人スタッフの採用が注目されています。

本記事では、宿泊業界の現状から外国人の採用にいたるまでを解説します。

宿泊業界の現状と今後の動向

まずは、宿泊業の景気や人材における現状と今後の動きについて、データを用いて説明します。

宿泊業の景気は緩やかに回復中

出典:観光庁 宿泊旅行統計調査

ホテルや旅館への宿泊者数は、コロナウイルスが収束していくと同時に改善に転じました。国内の大型イベントの再開により人々の移動が活発になったことが大きな要因となっています。
2023年の日本人の国内旅行者は2019年(コロナ前)と比較して約9割まで回復しており、今後も増加が続くと予想されています。

一方で、インバウンド旅行者数は2019年の約7割まで回復しています。
日本政府は、インバウンドが2019年と同じ水準に戻るのは2024年10月頃と予測しています。

業界の課題は「従業員の不足」と「宿泊施設の不足」

出典:帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査

宿泊業界は慢性的に人手不足と言われています。
その理由として、少子高齢化による労働人口の減少や労働条件への不満、業務過多が従業員の負担となり離職に繋がるケースが多いことなどが挙げられます。
また、インバウンドなどの観光需要の増加により人手不足に拍車がかかり、2023年には宿泊業界の人手不足割合が最も高いと発表されるほどになりました。

同時に深刻化しているのがホテルなどの宿泊施設自体の不足です。
グローバルビジネスや訪日客の増加に伴い、宿泊施設は予約が困難になりつつあります。
とくにビジネスホテルなどの宿泊施設は都市部に集中していますが、土地の価格の高騰や莫大な建設コストがかかることから、ホテルの増設がなかなか見込めないことも原状回復のための課題となっています。

宿泊業に就く外国人労働者は増加している

出典:厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ
※紫色のドットが宿泊業(兼 飲食サービス)に該当します

宿泊業における就業者数は減少していますが、外国人労働者数に限っては年々増加しています。
これは、日本人労働者の減少による労働力不足を補うために、外国人労働者が重要な役割を果たしていることを意味しています。

日本政府は労働力不足を解消するために、外国人労働者の受け入れを促進する制度を整備しています。
今後はこの制度を活用して外国人労働者を受け入れる企業を増やすことで、宿泊業の人手不足を解消し、企業の存続をはかることが期待されます。

参考:厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ

宿泊業で雇用できる外国人の在留資格まとめ

宿泊業で外国人を雇用するには、以下のいずれかの在留資格を持っている人材を採用することが前提となります。

技術・人文知識・国際業務、技能、特定技能、技能実習、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者、特定活動、留学、家族滞在、文化活動

各在留資格で可能な業務範囲が異なるため、ここからはその内容について解説していきます。

就労系の在留資格

技術・人文知識・国際業務

略して「技人国(ぎじんこく)」と呼ばれるこの在留資格は「外国人労働者の専門性を活かすこと」を目的としています。
そのため、技術的な業務や知識を生かす業務に就くことができます。ベルボーイや配膳などの単純労働はできません。

【例】技術・人文知識・国際業務の業務

フロントスタッフ、通訳・翻訳、営業、マーケティングなど

外国人採用でよく聞く「技術・人文知識・国際業務(技人国)」ビザとは? 取得する条件、雇用する際のポイント、注意点を解説

技能

「技能」は「外国で考案された高度な技術を使って日本で働くこと」を目的とした在留資格です。
ホテル内に異国料理を提供するレストランがある場合などは、料理人として雇用することが可能です。
ビザを申請する際に業務内容を国に提出する必要があり、掃除や皿洗いなどの日本人でもできるような単純労働はできません。

参考:出入国在留管理庁 在留資格「技能」

特定技能1号・2号

「特定技能」は人手不足となっている特定産業分野において「即戦力となる外国人材を受け入れること」を目的としています。
特定産業分野には「宿泊」が指定されており、宿泊施設で働く場合はこの分野に該当します。※特定技能外国人の産業分野は、本人のパスポートに添付されている「指定書」で確認できます

特定技能外国人は分野に関するある程度の知識や技術を持っている人材のため、宿泊施設の運営に必要な業務であれば、どのような業務に従事することも可能です。単純労働をおこなうことも可能です。

在留資格「特定技能」についてぜんぶわかる|制度の概要・受け入れや支援の方法・関連機関の役割をまるっと解説

技能実習1号・2号(・3号)

「技能実習」は途上国などの「母国で活かせる技能の習得を目指し、日本で人材を育成(実習)すること」を目的としています。
可能な業務は作業ごとに細かく分類されており、現在は90職種165作業が対象作業とされています。宿泊業の場合は「接客」や「衛生管理」などが作業として認められています。
上記に関する技術を教えるための在留資格のため、食器洗いなど一つの作業だけを繰り返しおこなうといった単純労働は不可となっています。

また、ベッドメイキングがメインの作業となる場合は「宿泊業」ではなく「ビルクリーニング業」として採用することも可能です。
※「宿泊業」は技能実習2号(最長3年間)まで、「ビルクリーニング業」は技能実習3号(最長5年間)まで更新できます

技能実習生の受け入れが可能な90職種165作業を解説! 受け入れるメリット、特定技能への移行についても知りましょう

身分系の在留資格

永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者

身分系と呼ばれるこれら4つの在留資格は、就労制限がないため日本人と同じように雇用が可能です。つまり、単純労働を含めた宿泊業のすべての業務において就労ができます。

「身分系」の在留資格 全4種類|就労系との違い、採用するメリットについて詳しく解説

就労系、身分系以外の在留資格

特定活動46号

「特定活動46号」の告示により外国人留学生の就職先が拡大し、宿泊業や製造業でも就労が可能になりました。
留学を通して学んだ技術的な知識や語学力などを生かす業務に従事することを前提としており「外国人従業員への言語サポート」などが含まれていれば、外国人従業員と一緒に単純労働をおこなうことも可能です。

留学・家族滞在・文化活動

これら3つの在留資格は、就労により収入を得ることは原則認められていません。
ただし出入国在留管理局で「資格外活動許可証」を取得している場合は、条件付きでアルバイト雇用が可能になります。
たとえば「1週間の労働時間が28時間以下であること」という労働時間の制限がありますが、これを守れば掃除や皿洗いなどの単純労働にも就くことができます。

アルバイトで採用できる在留資格は? 資格外活動許可が必要な資格はある?

宿泊業で外国人を雇用するメリット

外国人雇用によって得られるメリットはさまざまあります。

メリット① 若い労働力が確保できる

最近では宿泊業でもDXが進み、ゲストアプリや宿泊管理システムをなどを活用する機会が増えています。
このような状況下で、新しい技術やその応用方法に対する理解がはやい若者を採用したいと考える企業は少なくありません。

日本では「少子高齢化」や「転職市場の活発化」が進み、若手社員の確保が次第に困難になっています。
しかしながら厚生労働省の発表によると、外国人労働者の数は「20〜29歳」の割合が最も多く、その数は年々増加していることがわかります(コロナ禍を除く)。
そのため若い外国人労働者を採用することで長期的に人材不足を解消でき、宿泊業の企業存続に良い影響を与えることが期待できます。

参考:厚生労働省 在留資格別×年齢別にみた外国人労働者数の推移

メリット② 労働意欲が高く、社内のモチベーションが向上する

就労目的で来日した外国人の中には「日本の技術を学びたい」「家族のためにもっと稼ぎたい」と考えていて働く熱意や意欲が高い人が多くいます。その意欲は業務に対する積極性や責任感としてあらわれます。

たとえば、外国人労働者が真剣に接客する姿や、効率的な働き方を学ぶ姿を見ることで、教える側の日本人労働者も自身の業務に対する意識を高めることができます。
その結果として、企業全体の生産性向上につながる企業も少なくありません。

メリット③ 多言語コミュニケーションが可能になる

外国人労働者を雇用することで、多言語対応の質向上が大幅に期待できます。
とくに宿泊業ではインバウンド需要が急拡大しているため、外国語を話せるスタッフは欠かせない存在です。

たとえば外国人旅行者への対応がスムーズになることで旅行者の「満足度が向上」し、「リピーターの増加」が期待できます。
また、文化の違いを理解したスタッフがいることで、細やかなサービスが提供できるようになり、口コミでの評価をあげることにも繋がります。
このように、外国人スタッフの存在は、施設のサービス品質の向上に大きく貢献することになります。

メリット④ 短期間で大量募集できる

日本で暮らす外国人の中には「働きたくても働き口が見つからない」という人が多くいます。
たとえば、外国人留学生の就職に関する調査によると、日本での就職を希望している人のうち2割が就職先を見つけられていません。
その理由として最も多かった回答が「外国人向けの求人が少ない」ということでした。

このような状況から、外国人向けの求人を出した企業には多くの応募者が集まる傾向があります。
限られた求人情報に対して応募者が集中している今のうちに、外国人採用を始めると大量採用のチャンスが広がります。

こういった短期間・大量採用の実績については、後項で紹介していきます。

参考:文部科学省 外国人留学生の就職促進について

メリット⑤ 政府の支援プログラムが利用できる

外国人労働者の雇用には、政府の助成金や補助金を活用することができます。これにより、雇用コストの削減や研修プログラムの充実が図られ、企業の経済的なメリットが生まれます。
また、政府との協力により、外国人労働者の雇用に関する法的な問題や手続きをスムーズに進めることもメリットとして挙げられます。

外国人雇用で使える助成金・補助金一覧|自社に合う助成金・補助金を見つけて賢く外国人を採用しよう

宿泊業での外国人労働者の採用事例を紹介

ここからは、在留外国人向け求人媒体である「Guidable Jobs(ガイダブル・ジョブス)」を利用して、外国人採用に成功した事例を紹介いたします。

【事例1】多くの応募者の中から最適な人材の採用に成功!

  • 掲載日数:180日
  • 採用者数:3名
  • 企業のサポート内容:社員寮あり、外部研修・社内研修あり、スタッフ同士の懇親会あり、多数の外国籍者が勤務している環境

こちらの求人では欲しい人材(ターゲット)にアプローチするために、SNS広告を活用して募集をおこないました。その結果、合計128名のなかからスキルの高い人材(技術・人文知識・国際業務)と身分系外国人の採用に成功しました。
また、スムーズに採用活動を進めるためにこちらの求人ではGuidableが一次面接を代行しました。

 

【事例3】人口の少ない地域も採用に成功!

  • 事業所所在地域(市区町村)の在留外国人数:約250人
  • 掲載日数:30日
  • 採用者数:1名
  • 企業のサポート内容:未経験者大歓迎、資格外活動可、研修あり、制服貸与、資格援助制度あり、スタッフ紹介手当あり、

日本語要件は「ローマ字での読み書きレベル」と低めに設定することで、日本語を勉強中の留学生や家族滞在外国人から応募がありました。
在留外国人の少ない地域ですが、外国人向けの求人数が少ないため近隣地域からの応募者も多く、最適な人材の採用に成功しました。

 

【事例3】身分系在留資格を持つ、若年層の外国人の採用に成功!

  • 掲載日数:30日
  • 採用者数:1名
  • 企業のサポート内容:未経験者大歓迎、研修あり、制服貸与、資格援助制度あり、スタッフ紹介手当あり

募集要項に「中国語 もしくは 英語を話せる方歓迎」と明確に記載、その代わりに日本語要件は「読み書きがひらがな・カタカナレベルも可」と低めに設定することで、多言語が話せるスタッフを効率的に採用できました。
また、1か月で50名の応募があり「若年層(20代)」かつ「身分系」という長期就労を見込める外国人採用に成功しました。

さいごに

企業が外国人労働者を受け入れるメリットは大きく、彼らは宿泊業の未来を支える大きな力になります。
雇用後に長期的に働いてもらうためにも、文化の違いやコミュニケーション方法を理解してより良い関係を築いていきましょう。