多くの留学生は、オーストラリアでの就職と永住を夢見てやってきます。しかし、グラタン研究所(オーストラリアの公共政策シンクタンクの最新調査)によれば、多くの外国人学生は卒業後に希望する職に就けていない現実が浮き彫りになっています。
オーストラリアの卒業生ビザは、日本、アメリカ、カナダ、イギリスなどと比較しても滞在期間が長いですが、現状では次の3つの事実が明らかになっています:

  • フルタイムの仕事に就けるのはわずか半数。
  • ほとんどが低技能職に従事している。
  • 留学生はオーストラリアの全卒業生の3分の1を占めているが、半数以上の留学生の年収は53,300豪ドル以下(約510万円)*1  *2

*1) これはオーストラリアの平均初任給である68,000豪ドル(約650万円)を下回っています。

*2) 本記事の日本円表記は全て1ドル95.8円で計算します。

今回の記事では、オーストラリアの大学を卒業した外国人が直面している問題に焦点を当て、さらに提案されている解決策と筆者の見解を紹介していきます。

留学生が直面している問題2つ

結びつかない努力と結果

卒業生ビザ保有者の半数以上は、高等教育資格ですら必要としない仕事に就いており、実際、卒業生ビザ保持者の収入は、ワーキングホリデーで来ている人の収入とほぼ同じです。

平均年収
卒業生ビザ保有者$53,300 (約510万円)
ワーキングホリデービザ保有者$50,700 (約485万円)
全ての20~29歳の学士号以上の保有者   $64,400 (約616万円)   

多くの雇用主は留学生を雇うことを躊躇しており、その理由としては、彼らの卒業生ビザが切れた後にオーストラリアに滞在して働き続けられるかどうか分からないという不透明さが挙げられます。
また、留学生の英語力の低さや永住権を所持していないこと、さらに外国人への偏見や差別も影響していると考えられています。

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留学生の永住権獲得数は毎年減っている

年々、留学生が永住権を取得するケースは減少しています。現在、約30%の留学生が永住権を取得しており、これは2014年の66%以上から大幅に減少していることが分かります。さらに、30%以上の留学生はビザが切れると、オーストラリアでの生活を続けるために、より安価な専門学校などに入学するといった負のスパイラルに陥っています。

これらの問題は、オーストラリアのニュースチャンネルであるABC Newsでも取り上げられ、深刻な課題として議論されています。実際、筆者自身も現在メルボルンに滞在しており、オーストラリアでの滞在を延長するために、タイ人の友人がビジネスを学べる教育機関に入学していました。しかし、滞在期間を延長する目的で入学したため、モチベーションが低く、学習の成果も限られていると述べていました。

ビザの負のスパイラル

提案されている解決策

グラタン研究所は、多くの外国人卒業生が「誤った希望」を抱いており、卒業後に与えられる卒業ビザは「寛大すぎる」と主張し、さまざまな解決策を提案しています。このセクションでは、提案された解決策の中から3つを紹介し、それぞれについて筆者の意見を述べていきます。

1.最低でも年間$70,000(約670万円)を稼いでいること

この提案は、年間で$70,000をフルタイムの仕事で稼いでいる留学生に対して、2年間のビザの延長を認めるというものです。これを満たしていれば、オーストラリアでの永住権獲得に向けて良い兆候となるとされています。

2.求める英語力の基準を引き上げる

この提案では、海外の大学で学ぶ留学生が提出する英語力の証明書(IELTS)において、必要な点数を6点から6.5点に引き上げるというものです。

3.留学生の就職活動を支援する施策を行う

政府は、留学生に対する雇用主の意識を変えるための施策を導入し、公的機関の新卒プログラムで外国人卒業生をより受け入れるべきだと述べています。

オーストラリアに留学中の大学生としての見解

このセクションでは、現地での経験を踏まえて、上記の提案に対する個人的な意見や見解を述べていきます。

最初に、「最低でも年間$70,000を稼いでいること」について、厳しい要件だと感じました。確かに国に貢献する外国人にはビザの延長や永住権を与えるのは妥当ですが、既に高収入を得ている人々は、仕事探しには困っておらず、既にオーストラリアで安定した生活を築けているように感じます。また、オーストラリアの20代の平均年収を上回る金額を求められることは、留学生である私にとって少し不安を感じます。

次に、「求める英語力を引き上げること」については、完全に同意します。私自身、IELTSの試験を渡豪前に受験し、7.5点を取得しましたが、現地の大学院の授業やインターンシップの面接では、速い英語についていくのが今でも難しいと感じています。

最後に、「留学生に対する雇用主の意識を変えるような施策を展開」ですが、これも同意です。私を含め多くの留学生は、オーストラリアでの就労と永住権の取得を希望しています。ですが、私が実際に現地でインターンシップをするために面接を受けた際、「留学生はいずれ母国へ帰国してしまうからその点はマイナス」と言われ、雇用主と留学生の間にギャップが存在している印象を受けました。

いかがでしたでしょうか、オーストラリアの卒業生ビザは比較的長く滞在することができますが、「留学生の約半数は卒業後フルタイムの仕事に就けない」や「滞在を伸ばしたい結果、ビザの負の連鎖に陥る」また「所有しているビザが原因で、雇用主から正当に扱われない」といった問題も存在しています。

執筆:鈴木 太一

現在メルボルン大学でマーケティングコミュニケーションの修士号を取得中です(2024年12月に卒業予定の修士1年目)。Guidableではインターン生として、Facebook広告、Emailマーケティング、コンテンツ作成に携わっています。趣味は小学5年生の時から続けているテニスです。歌うことも好きで、過去にNHKのど自慢に出場した経験があります。

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