グレートバリアリーフやウルル、シドニーのオペラハウスなど、世界的に有名な自然・文化遺産を誇るオーストラリア。また、その広大な土地にはカンガルーやコアラなどの多様な野生動物が生息しており、これらの魅力は年々、世界中から多くの観光客を惹きつけています。

観光客にとって人気なオーストラリアですが、実は出稼ぎ労働者にとっても魅力的な国として知られています。その理由の1つは、高額な賃金水準です。
実際、オーストラリアの最低時給は23.23ドル(日本円で約2,230円)となっており、これは世界中の労働者を惹きつけています。

この記事では、オーストラリアの人口動態や経済に加えて、世界中からどのようにして労働者を集めているのか、また現地で実際に起きている問題も紹介します。

オーストラリアの基礎知識

オーストラリアの人口動態

オーストラリアは南半球最大の大陸国家であり、グレートバリアリーフやウルルなど数多くの世界自然遺産を保有しています。国土面積は日本の約22倍に相当しますが、オーストラリアの総人口は約2,550万人で、これは日本の約1/5に過ぎません。

オーストラリアは200以上の異なる民族的背景を持つ人々が共存しており、2021年の国勢調査によれば、移民の割合が総人口の51.5%に達し、両親がオーストラリア出身かつオーストラリアで生まれた者(48.5%)の割合を上まわっています。
この多様性は人種的にも文化的にもオーストラリアを特徴づけています。

またオーストラリアの人口動態は日本と比較して若年層が多く、特に30歳代が最も多い年齢層となっています。

オーストラリアと日本の人口動態比較

オーストラリア   日本  
平均年齢37.2歳48.7歳
最も多い年齢層30~34歳70~74歳
2番目に多い年齢層25~29歳45~49歳

出典:https://www.franklintempleton.co.jp/fund_special/story1.html

オーストラリア経済

オーストラリアの2021年のGDPは、212か国中で第12位であり、1992年から2019年までの28年間にわたり、連続してプラス成長を達成してきました。
2020年にはコロナショックの影響により景気後退が発生しましたが、2021年以降は経済が正常化し、プラス成長に回復し、今後も着実な成長が期待されています。

オーストラリア経済において重要な影響を与えているのは、GDPの70%以上を占める第3次産業(サービス業)です。
金融、公益事業、消費関連などの内需関連セクターが、オーストラリア経済の主要な柱となっています。

オーストラリア政府の外国人労働者支援策

オーストラリア政府は、新型コロナウイルスの影響で外国人労働者が減少したことから、労働者確保に向けて近年さまざまな対策を講じています。

外国人労働者に対して

2020年には医療、福祉、サービス業でコロナ以前から働いていた外国人労働者の滞在期間を1年間延長しました。
さらに、永住ビザ獲得の要件も緩和し、以前は就労ビザを持つ者(特に短期的な職種の労働者)が永住ビザを申請することが難しかったのですが、2023年7月1日からは、どの職業でも就労ビザで2年間働いた後、永住ビザを申請できるようになりました。
これらの政策は、急激に減少した労働力を確保するためのものであり、オーストラリア政府は外国人労働者の確保に力を入れています。

留学生に対して

2023年7月1日から、オーストラリアの大学で指定のコースを修了した留学生に対して発行される卒業ビザの滞在期間が2年間延長されました。
指定のコースは、オーストラリア国内で不足している職業に関連するもので、IT、医療、工学などが対象です。

オーストラリア   日本  
学士号4年6ヶ月~1年
修士号5年6ヶ月~1年
博士号6年6ヶ月~1年

*オーストラリアで卒業ビザを取得すると、ビザの期間内は自由に現地で滞在・就労・就学が可能で、自由度の高いビザとなっている。上記の期間は、特定のコースを修了した後に発行されるビザのみに適用される。

*日本の場合は、就職活動を行うための在留資格(特定活動ビザ)が発行されるが、期間は最大でも1年となっている。

ワーキングホリデーでの労働者に対して

オーストラリア政府は、ワーキングホリデーで来ている人達に最長で3年間滞在できるビザを発行し、人手不足の業界をサポートしています。ワーキングホリデービザで3年間滞在するためには、政府指定地域で一定の日数以上の季節労働に従事する必要があり、観光業、接客業、農業などが該当する業界です。

オーストラリアの高い賃金

最低時給
日本1,023円
オーストラリア23.23ドル
 (約2,230円) 

*1豪ドル=約96円 

オーストラリアの最低賃金は日本円で約2,230円となり、この給与水準は日本のみならず他の国と比較しても高いです。

たとえば週に38時間のアルバイトをした場合、一週間の最低収入は約882.74豪ドル(約83,860円)になります。

また農園労働などでは収穫した量に応じた歩合制が採用されているところもあり、これにより一部の労働者はに20万円以上を稼ぐことも可能で、労働者のモチベーション向上につながっています。

このオーストラリアの高い賃金水準は、日本、韓国、マレーシア、インドネシアなど、さまざまな国からの出稼ぎ労働者を引き寄せており、外国人労働者の確保に成功しています。

このように、オーストラリア政府は国内で長期間の労働を希望する外国人を支援するために、新政策の導入や要件の緩和を実施し、労働環境を整備していることがわかります。

外国人労働者の権利と不平等: オーストラリアでの挑戦と課題

オーストラリアでは、外国人労働者の労働環境を整えようとする取り組みが進められる一方で、実際にはさまざまな問題に直面しています。

イギリスの大手一般新聞、ガーディアン(オーストラリアニュース)によると、オーストラリアで働く移民労働者の半数が職場での差別やいじめ、暴言などを経験し、さらに半数以上は労働の対価(賃金など)を支払われていないことが新たな調査で明らかになりました。

移民労働者センターが行った調査では、1,000人以上の労働者を対象に雇用市場や移民制度における経験を調査しました。
その結果、多くの労働者が就労ビザを持っているにもかかわらず、ビザのステータスによって求職プロセスで差別を経験し、それが外国人労働者を不安定な仕事や搾取的な雇用主へと追いやっていることが判明しました。
雇用の不安定さは職場での不安と強い相関関係があり、不安定雇用の労働者の59%が職場でかなりの頻度で不安を感じています。

移民労働者センター最高経営責任者のマット・クンケルによれば、これらの問題は短期滞在ビザが原因であり、オーストラリアでは永住権は就職の法的要件ではないにも関わらず、多くの企業が永住権を必要としていると指摘しています。

オーストラリアで起きた実際のケース

実際のケースとして、アントニオ・ミッシェルさん(36歳)の例が挙げられます。
彼はチリの病院で専門理学療法士として8年間働いており、2017年に妻と当時生後11ヶ月だった娘とともにオーストラリアに移住しました。
しかし、移住後、彼は自分の専門分野での仕事を見つけられず、建設業、接客業、配管工事、清掃業など、単発の非正規雇用の仕事に就きました。

ミッシェルさんは、これらの仕事で常に不安を感じ、賃金が正当に支払われなかったことを経験し次のように語っています。
「時には、本来私がやるべきでないことをやっていたこともあり、建設業では、専門的な仕事である解体工事を私に依頼することもあった。専門的な仕事であるため、それ相応の報酬が支払われるはずなのに、私ではない誰かがその報酬を得ていた。」

このように、オーストラリアでも外国人労働者に関する問題が根深く存在していることが明らかになっています。

最後に

上記でご紹介したように、オーストラリアは自然の美しさ、安定した経済状況、多様な文化を持つ魅力的な国です。
しかし、その一方で外国人労働者にとっては、労働環境に関する課題が存在します。

確かに高額な賃金が魅力的ですが、時には正当な報酬が支払われず、また、所持するビザの種類により適切な仕事を見つけることが難しく、結果として不安定な雇用に追いやられてしまうこともあります。
オーストラリアの労働力は様々な国からの人で構成されており、外国人労働者にも公正で安定した労働環境を提供できるよう、今後一層の改善が求められています。

 

執筆:鈴木 太一

現在メルボルン大学でマーケティングコミュニケーションの修士号を取得中です(2024年12月に卒業予定の修士1年目)。Guidableではインターン生として、Facebook広告、Emailマーケティング、コンテンツ作成に携わっています。趣味は小学5年生の時から続けているテニスです。歌うことも好きで、過去にNHKのど自慢に出場した経験があります。

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