外国人を雇用するとき「そもそも社会保険に加入する必要があるのか」「外国人向けの社会保険は存在するのか」「手続きの注意点を知りたい」といった疑問を持つ方は少なくありません。

この記事では、外国人労働者を雇用する際の社会保険について、基本的な内容から注意点まで解説します。

そもそも社会保険とは?

社会保険とは、病気やケガ、障害、出産、死亡、失業などにより働けない状態になった場合に公的な支援(給付金など)が受けられるよう、人々の生活を安定させるための保険制度です。

この記事で言う「社会保険」とは広義のことであり、その種類は5つに分類されます。これらは「医療保険」「年金保険」「介護保険」「労災保険」「雇用保険」です。

 

ここからは、日本の社会保険の種類についておさらいします。基本的な内容ではありますが、理解を深めておきましょう。

医療保険(健康保険)

病気やケガの治療にかかる医療費の一部を負担してくれる公的な保険制度です。
労働者と事業主が折半負担し、毎月の給与から天引きする形で納付されます。
おもな保証内容は以下のとおりです。

  • 医療費給付:病気やケガの治療にかかる医療費の一部が負担される(自己負担額は原則3割、年齢や所得に応じて異なる場合がある)
  • 出産給付:出産に際して必要な費用が給付される
  • 傷病手当金:病気やケガで一定期間以上働けなくなった場合に、給与の一部が支払われる
  • 高額療養費制度:一定額以上の医療費を支払った場合、自己負担額が大幅に軽減される

参考:厚生労働省 我が国の医療保険について

年金保険(厚生年金保険)

将来の老後生活や、障害により働けなくなった場合の生活を支えるために加入する公的年金制度です。
労働者と事業主が折半負担し、毎月の給与から天引きする形で納付されます。
おもな保証内容は以下のとおりです。

  • 老齢年金:将来65歳を超えると給付される
  • 障害年金:病気やケガで一定期間以上労働能力が著しく低下した場合に給付される
  • 遺族年金:被保険者が死亡した場合に遺族へ給付される

参考:日本年金機構 厚生年金保険・健康保険制度のご案内

外国人労働者は年金加入するの?

介護保険

40歳以上の介護が必要になった方にかかる医療費の一部を負担してくれる公的な保険制度です。
40歳から64歳までの労働者は、事業主が折半負担し毎月の給与から天引きする形で納付されます。原則として、65歳を超えると年金からの天引きに変わります。
おもな保証内容は以下のとおりです。

  • 介護サービス費用給付:訪問介護、通所介護、施設介護などの介護サービスにかかる費用の一部が給付される(自己負担額は原則1割〜3割、年齢や所得に応じて異なる場合がある)
  • 介護予防サービス費用給付:介護予防体操や介護相談などのサービスにかかる費用の一部が給付される

参考:厚生労働省 介護保険制度について(40歳になられた方へ)

労災保険

労働者が仕事中にケガをしたり業務が原因で病気になった場合や、通勤中に事故にあった場合に必要な保険給付を行う制度です。労災保険料率は業種によって決められており、保険料は事業所が全額を負担します。
おもな補償内容は以下のとおりです。

  • 休業給付:病気やケガによる治療費や休業手当が給付される
  • 障害給付:病気やケガで一定の障害が残った場合に給付される
  • 遺族補償一時金:労働者が死亡した場合に、遺族に給付される
  • 葬祭給付:労働者が死亡した場合に、葬祭費用が給付される

参考:厚生労働省 労災保険とは

雇用保険

労働者が失業した場合や雇用継続が困難な状況になった場合に、生活を安定させ再就職を支援するための制度です。
従業員よりも事業者の負担額が多く、毎月の給与から天引きする形で納付されます。
おもな補償内容は以下のとおりです。

  • 失業給付:失業した場合に生活費の一部が給付される
  • 育児休業給付:育児休業中に給与の一部が給付される
  • 介護休業給付:介護休業中に給与の一部が給付される
  • 教育訓練給付:再就職に必要な知識や技能を習得するための費用の一部が給付される

参考:厚生労働省 雇用保険制度

外国人労働者は社会保険に入る必要がある?

結論から言うと、外国人が日本で働く場合は社会保険への加入が必要です。
外国人労働者も社会保険への加入義務があるため、日本人と同様の手続きをおこなわなければなりません。

労働関係の法令や社会保険関係の法令は、「日本で働く労働者」に適用されます。「日本で働く」という点が重要で、そこに国籍の違いはありません。加入条件についても、以下のとおり日本人労働者と同じです。

  • 従業員数101人以上の企業で働く、以下のすべてを満たす人(2024年10月以降は従業員数51人以上)
    • 週の所定労働時間が20時間以上
    • 月額賃金が8.8万円以上
    • 2か月を超える雇用の見込みがある
    • 学生ではない

参考:厚生労働省 社会保険適用拡大 対象となる事業所・従業員について

外国人労働者向けの社会保険制度の特徴

前項で説明した社会保険の保険料や補償内容は、全てにおいて外国人労働者と日本人労働者に違いはありません。

ただし、外国人労働者には特有の社会保険制度に関連するポイントがありますので、それについても確認しておきましょう。

ポイント① 短期滞在者(観光目的など)は加入できない

観光や保養、短期出張を目的とする「短期滞在」の在留資格を取得している場合、日本で報酬を受け取ったり、収入を伴う事業を運営することは禁止されています。
そのため社会保険の加入手続き以前に、雇用や斡旋をおこなうこともできません。

ポイント② 在留期間が3か月未満でも加入できる場合がある

在留期間が3か月以下の在留資格であっても「興行」「技能実習」「家族滞在」「特定活動」などの在留資格を取得している場合は、社会保険に加入できる可能性があります。
ただし、加入を認められるには「在職証明書」や「在学証明書」などを用いて、3か月目以降も日本に滞在する見込みがあることを証明する必要があります。

ポイント③ 在留資格更新・変更の際に加入有無を確認される

出入国在留管理庁がまとめた「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」によると、在留資格の変更や在留期間の更新を申請する際には、保険証の提示がもとめられています。
一般的に、社会保険の加入は「外国人が日本に在留するための要件のひとつ」と捉えられています。

在留資格が得られなければ、日本で働くことができなくなりますので注意しておきましょう。

※提示する目的は「社会保険への加入の促進を図るため」と記載されており、保険証が提示できないと在留資格の変更・更新ができないわけではありません。

参考:出入国在留管理庁 在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン

ポイント④ 帰国する場合は、年金保険料の一部が返金される

外国人の社会保険加入でよく問題となるのが「健康保険には入りたいけれど、年金保険には入りたくない」というケースです。
年金保険は一定の掛け金を納めることで、将来給付金を受け取ることができるというものです。そのため、帰国を前提として日本に滞在している外国人は「実質的にはかけ捨てになってしまうのではないか」という心配が背景にあるようです。

このようなケースに対応できるのが「脱退一時金」という制度です。
これは、外国人労働者が6か月以上〜10年未満で日本から帰国する場合に、納めた国民年金(厚生年金)保険料の一部が返金されます。
外国人労働者が加入をためらっている場合は、この制度の存在を事前に説明することが大切です。

参考:日本年金機構 脱退一時金の制度

ポイント⑤ 労災保険は不法就労の外国人にも適用される

雇用形態に関係なく、労働者を1人でも雇っている場合は労災保険に加入しなければならず、その保険料は事業主が全額負担します。
労災保険で注意すべきポイントは「不法就労の外国人にも適用される」という点です。

業務上の事故でケガを負った外国人労働者には、休業給付や障害給付が支払われます。また、遺族がいる場合は遺族補償一時金や遺族補償の対象になります。その補償内容についても、日本人や正当な在留資格を持つ外国人労働者と同じ内容です。

不法就労者には労災保険が適用されないと思い込んでいる事業者も多いですが、それは間違った認識です。そもそも不法就労させること自体が違法ですので、絶対に雇用しないでください。

不法就労助長罪ってなに? 在留資格ごとの在留期間早見表も掲載! 外国人雇用前に知っておきたいこと 

ポイント⑥ 雇用保険の対象外となる在留資格がある

失業した際に再就職を支援するための雇用保険ですが、注意すべきポイントは「社会保険の条件を満たしていても、雇用保険は適用されない場合がある」という点です。
雇用保険が適用されないのは、おもに身分系・就労系以外の在留資格を持つ一部の外国人です。

留学生は「資格外活動許可」を得ている場合、週に28時間までのアルバイトが可能です。
しかし、昼間の学校に通う留学生は雇用保険の対象にはなりません。これは、学業が本業であるため失業しても損害が発生しないと考えられているからです。

また、ワーキングホリデーで滞在している外国人も、「休暇」を目的とした在留であるため、雇用保険の対象にはなりません。

ポイント⑦ 出身国によっては社会保険が一部免除される

日本と他国間で、社会保障制度の適用範囲や内容に関する取り決めをする国際協定として「社会保障協定」というものがあります。
日本は以下の国と社会保障協定を締結していて、二重課税を防ぐために片方の国の年金が免除されたり、2か国の年金制度への加入期間に応じた年金をそれぞれの国から受給できるように調整されています。

【社会保障協定の締結国】
ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア

参考:日本年金機構 社会保障協定

外国人労働者は厚生年金を納めないといけないの? 二重払いを防ぐための社会保障協定とは?

 

さいごに

今回は「外国人が日本で働く場合は社会保険への加入が必要」「加入条件や保障内容は日本人と同じ」ということを説明しました。

社会保険は労働者を守るための保険です。そのため、雇用する側の企業も、しっかりとルールを理解した上で加入手続きを進めることが大切です。
外国人労働者本人にも制度の概要や注意点をしっかりと理解してもらい、安心して働ける職場づくりを進めていきましょう。