事業の拡大や市場の変動によって一時的に業務が増加したとき、必要な労働力をすぐに確保しなければならないことがあります。
こういった場合に活躍するのが「派遣社員」です。なかでも近年は「外国人の派遣社員」が注目されています。

今回の記事では派遣社員として外国人を雇用するメリットや、その際に必要となる在留資格(ビザ)・手続きについてくわしく解説します。

日本における外国人派遣社員の雇用状況

そもそも「派遣社員」とは

「派遣(ハケン)」とは、労働者が派遣元である派遣会社と雇用契約をむすんで、派遣元から紹介される企業である、派遣先で働くという働き方です。

派遣のシステムは、「派遣元」「派遣先」「労働者」の関係で構成されています。派遣元と労働者のあいだでは「雇用契約」がむすばれ、派遣元と派遣先のあいだでは「労働者派遣契約」が取りかわされます。

労働者は派遣先で働きますが、派遣元から賃金を受け取ります。

派遣社員として働く外国人の統計

データ出典・抽出:厚生労働省 外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和4年10月末現在)労働者派遣事業の令和4年6月1日現在の状況

厚生労働省の発表によると、日本における外国人労働者(約182万人)のうち、19%(約35万人)は人材派遣企業と雇用契約をむすんで働いています。
またこの人数は、日本全体の派遣労働者数の18%(日本人を含めて約186万人)におよぶことを考えると、非常に大きな数値であるといえるでしょう。

つまり現在においては、外国人の派遣労働者はすでに日本の派遣市場において、かなり大きな割合を占めています。そのため、労働力を確保しようと思うなら派遣社員として外国人を雇うことはよりポピュラーな選択肢になりそうです。

外国人派遣会社の役割は?

おおくの外国人が日本で派遣として働いているということがわかったとおもいます。では、派遣労働者を派遣先におくりこむ派遣会社はどんな役割を行っているのでしょうか。ここでは、外国人派遣会社がおこなっている役割についてご紹介します。


外国人派遣会社がおこなっている業務は、

  • 在留資格・ビザの確認
  • 労務関係のサポート
  • 研修サポート
  • 言語・コミュニケーションサポート
  • 法律についてのサポート

おもにはこれらの業務をおこなっています。外国人労働者が派遣先で実際に働き始める前に、在留資格の確認や仕事に必要な語学力などをチェックします。外国人派遣会社がしっかりとチェックをするため、派遣先の受け入れ企業はスムーズに外国人労働者の受け入れから、業務開始に移行できます。

在留資格(ビザ)ごとに異なる派遣労働の制約

弊社では派遣企業さまの求人も多くあつかっていますが、実際にこれらの案件で働いている方の約8割が「身分系の在留資格」です。残りの2割も多くを占めるのが「技術・人文知識・国際業務の在留資格」の方です。
(※2023年12月時点での、弊社サービス登録者を対象に調査)

日本の在留資格は29種類あります。しかしその中には「派遣労働が可能な在留資格は少ない」ため、上記のふたつの在留資格が大半になります。

就労制限のない「身分系」の在留資格・ビザ

前述もしていますが、日本で派遣形態で働いている方の多くが「身分系」といわれている方々です。

身分系ビザとは「永住者」「定住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」の4つの在留資格を総称した用語です。これらは就労に対する制限がなく、単純労働から専門職までさまざまな業務ではたらくことができます。

そのため、契約社員にもとめる業務内容が「複数の職種にあたる場合」や、「単純労働のみの場合」には、身分系ビザを持つ外国人がマッチします。
(ただし日本人と同様、派遣契約内容は事後変更できないことが前提です。)

「身分系」の在留資格 全4種類|就労系との違い、採用するメリットについて詳しく解説

「技術・人文知識・国際業務(技人国)」の在留資格(ビザ)

就労系ビザをもつ外国人が派遣社員として働いている場合、その多くを占めるのは「技術・人文知識・国際業務(略称:技人国)」の在留資格です。

就労系ビザは、業界の人手不足を解消するために創設されたものが多いです。しかしながら「技人国」に関しては、「海外の文化に基づく知識や高レベルのスキルを、日本で即戦力として生かしてもらう」ことを目的にしています。
そのため日本企業の成長を促進できる人材として、一定期間ごとにさまざまな企業で派遣社員として働くことが認められています。

技術分野:「システムエンジニア」「プログラマー」「設計士」など
人文知識分野:「営業」「マーケティング」「コンサルティング」など
国際業務分野:「語学学校の教師」「通訳者」「海外取引担当者」など

例をあげると、上記の職種は技人国の在留資格で派遣登録ができます。

最近ではインバウンド需要の増加によって、ホテルや観光地などで、通訳者として活躍する外国人の派遣労働者が増えています

ただし任せられる業務としては、ビザ取得時・派遣元企業との契約時に本人が申請している内容のみです。資格外の活動や、単純労働としての派遣は認められていません。そのため現段階では、技人国ビザは特定の分野において需要が高くなっています。

技術・人文知識・国際業務(技人国)ビザってなに? 取得する条件、雇用する際のポイント、注意点について

「特定技能」の在留資格(ビザ)

特定技能の在留資格による、外国人の受け入れ分野は12種類です。

この12種類のうち「農業」「漁業」の2分野でのみ、派遣での雇用が認められています

 

業界

直接・派遣どちらも可能

「農業」「漁業」

直接雇用のみ可能

「介護」「ビルクリーニング」「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」「建設」「造船・舶用工業」「自動車整備」「航空」「宿泊」「飲食料品製造業」「外食業」

なぜ農業と漁業でのみ認められているかというと、季節・天候・取り扱うものの種類や数によって、閑散期と繁忙期が変わるためです。収穫や出荷の時期になると、短期間で大量の労働力が必要なため、派遣制度を活用することで労働者を柔軟かつ迅速に確保できるというわけです。

特定技能1号と2号は何がちがう? 就業できる業種や取得要件の違い、1号から2号への移行について

外国人の派遣社員を選ぶメリット

「日本人の派遣社員」や「外国人の正社員・契約社員」とくらべて、外国人の派遣社員にはどんな特徴があるかをご紹介いたします。

【ポイント1:異文化の理解と多言語の対応が可能】

日本で暮らしている外国人は、異文化に対して柔軟に対応する力を持っています。国際的なプロジェクトへの参加やインバウンド施策など、「外国人から見た日本」という視点を生かしてくれるケースも多いでしょう。

また母国語・日本語のほかにも、第3言語以上を習得している外国人も多いです。観光業など、外国人旅行客と関わる業務で活躍が期待できそうです。

【ポイント2:直接雇用よりも企業にかかる負担が少ない】

企業が直接外国人を雇用する場合には、雇う方が身分系ではない場合には、雇用手続きや在留資格の更新時に必要な資料をそろえたり、手続きに同行するなどのサポートが必要となる場合も多いです。
派遣形態の場合には、上記のようなサポートをすべて派遣元の企業がおこなってくれます。派遣先の企業にかかる負担を大幅に減らしながら外国人人材を確保できます。

【ポイント3:ミスマッチが起こるリスクを回避】

直接雇用の場合には、履歴書や面接でスキルや経験・実態を正確に把握しきれないことがあります。その結果として「想定していた業務がまかせられない」ということもあります。

もし最初が派遣での雇用の場合には、派遣元が外国人の持つスキルや経験を事前に評価して、適切なスタッフを派遣先に提供してくれます。
そうすることで、雇用する側とのミスマッチを最小限にできます。

外国人派遣を長く会社に定着させるためのポイント

せっかく外国人派遣人材を採用したなら、長く定着して会社に貢献してもらいたいですよね。ここでは外国人派遣人材を会社に長く定着させるためのポイントをご紹介します。

コミュニケーションをこころがける

外国人人材派遣を会社にながく定着させるには、しっかりコミュニケーションをとる必要があります。日本にながく在住している外国人人材の方なら日本のコミュニケーションスタイルや仕事環境になれているかもしません。しかし、日本での就労経験があまりない人材の場合、よりコミュニケーションをしっかり取って仕事をしていく必要があります。

なれていない環境では誰しもストレスを感じますよね。それにくわえて、異国での就労というのはよりストレスフルです。そのような中、あまりコミュニケーションを取らない環境だと環境になれるのも大変。仕事中の何気ないコミュニケーションでも環境になれる1つの手助けになります。そのため、ちょっとしたコミュケーションを大事にし、心がけましょう。

相談できる環境をととのえる

コミュニケーションをこころがけることの延長線上になりますが、相談できる環境をととのえるのも外国人派遣労働者をながく定着させるポイントです。

業務ベースでの疑問はもちろんのこと、人間関係での悩み、外国人人材がいだいているさまざまな疑問や悩みを解消する環境をととのえておくと、企業側も人材理解につながりマネジメントしやすいですし、人材側もはたらきやすい環境が構築可能です。そのため、相談できる環境、外国人人材向けのメンター制度などを取り入れると人材の定着に期待できます。

外国人の派遣社員を受け入れる際の注意点・問題を事前に回避

◉注意点1:詳細な業務内容を派遣元と共有

身分系以外の在留資格には、それぞれ異なる就労制限があります。
派遣先となる企業は、まかせる業務内容を明確に派遣元へつたえて、業務が可能な在留資格をもつ外国人を派遣してもらう必要があります。
就労制限を超えてしまった場合、派遣元・派遣先・労働者の3者とも不法就労の罰則を受けてしまう可能性があるため適切な配慮が必要です。

◉注意点2:派遣元企業の安全性を確認する

外国人労働者にも労働基準法が適用されます。「日本人と同等かそれ以上の給与を支払うこと」「社会保険についても必要があれば加入」など、雇用関係にある外国人との労働条件を適切に設定している企業と派遣契約をむすんでください。

そのほかにも「在留資格に関する情報」「経歴・学位」や「素行」の把握がしっかりおこなわれている信頼性のある派遣会社を選ぶようにしましょう。

◉注意点3:派遣先企業も労働者をサポートする

外国人労働者が円滑に業務をすすめるには、派遣元企業だけでなく派遣先企業もサポートが欠かせません。
就労条件や契約に関する事項は派遣元が担当することが一般的です。しかし派遣先も業務マニュアルの作成や言語のサポート、人間関係のフォローをおこない、外国人労働者が安心して働ける環境を整備することが大切です。

◉注意点4:外国人派遣の期間には上限がある

外国人労働者の派遣には派遣期間の上限があることに注意しておきましょう。外国人派遣だけでなく日本人の派遣労働者も同様ですが、同一の派遣先事業所においての派遣可能期間は3年を限度となっています。

派遣可能期間は労働者派遣法という法律で決まっています。そのため、外国人の派遣労働者を雇用しようと検討しているため、派遣期間には上限があるということを理解したうえで検討するよう注意してください。

◉注意点5:外国人派遣人材を受け入れられない業種・職種

外国人派遣人材を受け入れられない業種・職種もあります。外国人の派遣人材だけではなく、日本人の派遣人材も受け入れられないと法律で決まっている職種を把握しておきましょう。

  • 港湾運送業務
  • 建設業務
  • 警備業法

上記の業種・職種は派遣人材の受け入れができません。港湾運送業を運営している事業主の方は、厚生労働大臣の許可をうけた場合のみ、労働派遣を受け入れることが可能です。しかし、原則として上記の業種では労働派遣は受け入れられないということに注意してください。

さいごに

外国人労働者は受け入れの手続きが複雑と思われがちです。しかし派遣の場合は、その手続きの大半を派遣元企業がおこなうため企業にかかる手間が小さくすみます。

派遣労働者の中でも、とくに「身分系」の在留資格を持つ外国人は就労制限ありません。「技人国」に当てはまらない業界への派遣もできます。

企業の発展にむけてぜひ一度、外国人派遣労働者の受け入れにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。