【最新情報】新制度「育成就労」について|技能実習制度との違い、何が変わるのか、今後の動きを詳しく解説
就労系の在留資格の中でも保有率が高い「技能実習」が廃止されることになりました。
代わりとなる新制度「育成就労」が創設されたら、何がどう変わるのでしょうか。
本記事では育成就労制度の方針や内容、開始に向けた政府の動きについて最新情報をまとめています。
目次
「育成就労」制度とは? 概要や目的、移行の時期
育成就労制度は、技能実習制度の廃止にともない導入される予定の新しい制度(在留資格)です。
2024年3月に閣議決定され、国会での改正法の審議は2024年の夏ごろと予想されています。
成立すれば、2027年までに施行される予定です。
現行の技能実習制度は「帰国を前提とした人材育成(国際貢献)」を掲げていますが、育成就労制度は「国内の人手不足対策のための人材確保・育成」を目的としています。
在留期間中に特定技能への移行をしやすくするなど、育成する人材が日本で働き続けること(人手不足の解消)を見据えて改革が進められています。
育成就労制度で目指す4つの方向性
① 実態に即した形で、技能実習制度を改善する
技能実習制度は、途上国の外国人へ日本の技術・知識を伝えることを目的としていますが、その本来の意義を忘れて「実習生」が単なる「労働者」として扱われるケースが多いと指摘されています。これにより、国際貢献活動とは異なる状況が生じているのが実態です。
そのため育成就労制度は「実習生」ではなく「労働者」を受け入れる制度への方向転換を目指しています。
② 外国人材に選ばれる国になる
技能実習制度と育成就労制度は、どちらも在留期間に上限があります。この2種類の在留資格を持つ外国人が長く日本で働き続けたい場合は、複雑な手続きを通過して在留資格を(在留期間に上限のないものに)変更する必要があります。
育成就労制度では、在留資格の移行を円滑化することで「将来も日本で働く」ことを選択する外国人の増加を目指しています。
③ 外国人の人権を保護する
技能実習制度では、外国人に対して「不当な解雇」や「日本国内での生活を制約」するなど、人権侵害の事例が相次いでいることが指摘されています。
このような問題を無くすために、本人の意向による転籍を認めるとともに、監理団体・登録支援機関・受入れ機関などの要件を厳格化する方針です。
④ 外国人との共生社会を実現する
将来も日本で働き続けてもらうためには、これまで以上に外国人材の受け入れ環境を整備する必要があります。
代表的な取り組みとして、外国人材の日本語能力が段階的に向上する仕組みの創設が予定されています。
参考:出入国在留管理庁 技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議
「技能実習」の廃止と「育成就労」の創設で変わること
ここからは前述した4つの方向性をもとに、具体的にどのような変化が見込まれているかを解説します。
① 「特定技能」との関係性
現行の技能実習制度は、特定技能制度と直接的な関係はありません。※条件を満たせば移行は可能です
育成就労制度は、基本的に「3年間の育成期間を通して、特定技能1号の水準の人材に育成する」ことをめざしているので「育成就労」と「特定技能」は密接した関係になります。
特定技能の取得要件である「即戦力レベルの外国人材」を育成するための在留資格が、育成就労だといえます。
② 受け入れ対象分野
受け入れ対象の分野は、現行の技能実習制度の業種・職種をそのまま引き継ぐのではなく、新しく設定されます。
その内容は特定技能制度で「特定産業分野」に設定されている業種・職種と同じになる予定です。
ただし、国内における就労を通じた人材育成になじまない分野は対象外とし、季節性のある分野(農業や漁業)においては、実情に応じた受け入れを検討しています。
特定産業分野の詳細は、以下の記事で紹介しています。
③ 人材育成機能・日本語能力の向上策
技能実習制度は帰国が前提となっているため「在留資格を変更して日本で働き続ける」というキャリアアップのイメージが描きにくい状況でした。
育成就労制度では「キャリアアップの道筋を明確化」して、特定技能への移行を推進します。
具体的には前職に縛られないキャリア形成ができるように、従事する業務の中で「主たる技能」を定めて育成・評価するシステムを設けます。
また日本語能力を高めるために、就労開始前から目標を掲げた講習をおこない、移行に必要な日本語能力を身につけるための支援の質も高めていく予定です。
④ 特定技能への移行条件
育成就労から特定技能1号へ移行する際の条件は、以下になります。
- 技能検定試験3級、または特定技能1号評価試験に合格
- 日本語能力A2(日本語能力試験N4)相当以上の試験に合格
この条件を満たす(特定技能制度が使える)人材になるために、育成就労制度を使うことで、日本で働きながら準備することが可能になります。
⑤ 受け入れる外国人数
特定技能制度の考え方と同様に、分野ごとに受け入れ見込数(上限数)が設定される予定です。
⑥ 転籍の可否
技能実習制度では、同じ職場で計画的に技能を学ぶという考え方から、基本的に転籍は認められていませんでした。
育成就労制度では厳しい制約によるトラブル(転籍制限による人権侵害や外国人労働者の失踪など)を防ぐため、一定の条件のもと本人の意向による転籍を認めるとともに手続きを柔軟化する予定です。
⑦ 監理・支援・保護のあり方
外国人技能実習機構に代わり転籍支援や外国人からの相談を受け付ける「外国人育成就労機構」を設立し、労働基準監督署や地方出入国在留管理局との連携を強化します。
また監理団体の許可要件を厳しくし、関与できる範囲の制限や外部監視を強化することで独立性・中立性を確保します。
受入れ機関の許可要件も見直し、受入れ人数枠や支援体制の適正化などをすすめる予定です。
⑧ 国・自治体の役割
外国人育成就労機構・労働基準監督署・地方出入国在留管理局が連携し、不適正な受け入れ・雇用を排除する役割を担っていきます。
具体的には、受け入れガイドラインの作成・キャリア形成プログラムの策定・日本語教育の適正な実施と水準の維持向上・外国人材受入れ環境整備などの制度運用における「中心的役割」として取り組んでいく予定です。
「育成就労」「技能実習」「特定技能」混同しやすい制度の比較
前項の内容では「育成就労」「技能実習」「特定技能」の3つの違いがよくわからない方もいるかもしれません。
そこで、違いをおさえておきたい代表的な項目を表にまとめました。
育成就労(創設予定) | 技能実習(廃止予定) | 特定技能 | |
目的 | ・人材育成 ・人材確保 | ・国際貢献 ・人材育成 | ・人材確保(即戦力) |
対象分野 | 特定産業分野 (12分野) | 産業分野の限定なし (90職種165作業) | 特定産業分野 (12分野) |
在留期間 | 原則3年 | 最長5年 | 上限なし(2号) |
キャリアパス (イメージ) | 育成就労 →特定技能1号 →特定技能2号・その他就労ビザ →日本で働き続ける | 技能実習 →帰国、習得した技術を生かして働く | 特定技能1号 →特定技能2号・その他就労ビザ →日本で働き続ける |
転籍 | 可 | 原則不可 | 可 |
目的の違い
育成就労制度の目的
外国人が「知識・技能を習得」「専門性を向上」できるよう育成し、育成後も日本で働き続けてくれる人材を確保することが目的です。
技能実習制度の目的
途上国などの母国で活かせる技能の習得を目指し、日本で人材を育成(実習)します。帰国することを前提とした国際貢献活動です。
特定技能制度の目的
人手不足の産業分野で、即戦力として働ける外国人材を確保することが目的です。
対象分野の違い
育成就労制度の対象分野
基本的には、特定技能制度で「特定産業分野」に設定されている業種・職種(後述)と同じです。
技能実習制度の対象分野
国が定めた技能検定等を有する90職種165作業が対象です。
ただし、技能実習3号へ移行できる対象の職種は77職種144作業となっています。
※詳細は表のリンクを参照してください
特定技能制度の対象分野
生産性の向上・国内人材の確保などの取り組みを充分におこなってもなお、人材を確保することが困難だと判断された12分野(特定産業分野)が対象です。
また今後、特定産業分野に4分野が追加される予定です。
※詳細は表のリンクを参照してください
在留期間の違い
育成就労制度の在留期間
原則3年間です。
技能実習制度の在留期間
技能実習1号が1年、技能実習2号が2年、技能実習3号が2年です。
通算で最長5年となっています。
特定技能制度の在留期間
特定技能1号の在留期間は最長で5年です。ただし、2号に移行することで在留期間に制限がなくなります。
キャリアパスの違い
政府が推進するキャリアパスのイメージを紹介します。
育成就労制度のキャリアパス(イメージ)
まずは原則3年間の在留期間中に「技能」や「日本語能力」を習得し、特定産業分野における即戦力人材に成長します。その後、特定技能1号を経て特定技能2号(在留期間に制限なし)へ移行します。
最終的に将来も日本で働き続ける、といったキャリアパスがイメージされています。
技能実習制度のキャリアパス(イメージ)
技能実習を終えた後、帰国して技能を生かせる仕事に就くといったキャリアパスがイメージされています。
特定技能制度のキャリアパス(イメージ)
すでに一定の技能や日本語能力をもつ外国人が、即戦力として特定の分野で働きます。
特定技能2号(在留期間に制限なし)へ移行し、最終的に将来も日本で働き続ける、といったキャリアパスがイメージされています。
転籍可否の違い
育成就労制度の転籍要件
以下を要件に本人意向の転籍が可能です。
- 同一機関での就労が1~2年(分野ごとに設定)を超えている
- 技能検定試験基礎級等に合格している
- 日本語能力A1(日本語能力試験N5)相当以上の試験に合格している
- 転籍先が同じ分野であり、受入れ機関の要件を満たしている
技能実習制度の転籍要件
原則、取得後3年間の転籍は認められていません。
ただし、受入れ企業が倒産した場合、もしくは技能実習2号から3号に移行するタイミング(4年目)でのみ転職が可能となっています。
特定技能制度の転籍要件
以下を要件に本人意向の転籍が可能です。
- 転籍後に従事する分野に適した技能試験に合格している※同業種での転籍の場合は、再試験の必要はありません
- 転籍先が受入れ機関の要件を満たしている
育成就労制度の開始に向けた政府の動き
「技能実習」から「育成就労」への移行期間を設定
育成就労制度を開始してから3年間の移行期間を設ける方針で調整しています。
新制度の開始は2027年を見込んでいるため、移行期間は2030年まで続くと想定されています。
対象分野から外れる職種・作業への対応
現行の技能実習を企業単独でおこなっている場合、新制度の趣旨に合うと判断されたものは、監理や支援をより適切にした形で引き続き実施できるように進められます。
グローバル企業でおこなわれている1年以内の育成など、新制度とは趣旨・目的が異なるものについては、その質が維持できるように既存の在留資格の分野・範囲を広げたり、新制度とは別の方法での受け入れを検討しています。
不法就労助長罪の厳罰化
技能実習制度が「外国人に対する人権侵害」と指摘されていることを踏まえたもので、悪質な雇用主や転籍ブローカー(仲介業者)の排除を進めていく方針です。
不法就労助長罪の罰則は、今までは「3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金」でしたが「5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金」に引き上げられる予定です。
永住許可制度の改定
育成就労制度を通じて、永住に繋がる「特定技能2号」の増加が予想されることから、永住許可制度を適正化する方針です。
永住許可の要件をより一層明確化し、その基準を満たさなくなった場合に在留資格「永住者」を取り消すことなどが内容に盛り込まれる予定です。
さいごに
育成就労制度に関する、現段階で公表されている内容をまとめました。
この制度が開始されることで、外国人が日本でより「長期間」かつ「安心して」生活できるようになると期待されています。
ぜひ活用を見据えて、今後の動きに注目していきましょう。