人手不足が深刻化する中、特定技能外国人の採用は企業の重要な選択肢となっています。しかし、採用を検討するにあたり、どのような費用がいつ、どのくらいかかるのかを正確に把握しておくことが不可欠です。

この記事では、公的機関が定める制度や費用相場を基に、特定技能外国人の採用手続きの流れに沿って、発生する費用と、コストを抑えるための具体的な方法を解説します。

採用手続きの全体像と費用の流れ

特定技能外国人の採用から雇用開始までには、主に以下の4つのステップがあります。

それぞれの段階で、費用が発生するタイミングが異なります。

【特定技能人材採用のフローと費用の発生タイミング】

    1. 募集・選定フェーズ:
      費用: 人材紹介会社、送出機関への費用が発生
    2. 在留資格(ビザ)申請フェーズ:
      費用: 書類準備、専門家への依頼費用が発生
    3. 入国・受け入れ準備フェーズ:
      費用: 登録支援機関への費用、住居手配費用が発生
    4. 雇用開始後:
      費用: 給与、社会保険料、福利厚生費用などが継続的に発生

(参考:出入国在留管理庁: 特定技能制度

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フェーズごとの費用とコスト削減のポイント

フェーズ1:人材の募集・選定にかかる費用

特定技能人材を採用する際、多くの企業は人材紹介会社や送出機関を利用します。

特定技能外国人に特化した人材紹介会社は、企業がスムーズに採用活動を進めるための重要な存在で、その手数料は採用コストの大部分を占めますまた、海外から人材を送り出す送出機関にも費用が発生します。

人材紹介会社の手数料|採用者の年収の約30〜35%が一般的

    • 支払い方法には、主に以下の2種類があります。
      • 成功報酬型:採用が決定し、入社した時点で手数料が発生します。多くの人材紹介会社が採用しており、企業はリスクを抑えながら採用活動を進められます。
      • 固定報酬型:求人情報の掲載や人材のスクリーニングなど、特定のサービスに対して一定額を支払います。採用の成否にかかわらず費用が発生する場合があります。

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送出機関にかかる費用(海外からの採用の場合)

送出機関は、海外で特定技能外国人を募集し、日本に送り出す役割を持つ機関です。

特定技能外国人を採用するときに、送出機関の利用が必要になることがあります。

送出機関に支払う費用には、主に以下のようなものがあります。

  • 講習費用(送出費用) 10万~60万円ほど
    各国の送り出し機関が日本での就労を望む外国人に対して教育を行うための資金として使われます。
  • 渡航費用 数万円~数十万円ほど

また、フィリピンやベトナムをはじめとした特定の国の外国人を採用したい場合は、採用活動の際に必ず送出機関を使う必要があります。この際に、別途手数料が必要になる場合もあります。

【コスト削減のポイント】

自社で直接募集を行う: ハローワークや自社の採用サイトなどを活用することで、人材紹介手数料をゼロにできます。

技能実習制度からの移行: すでに自社で働いている技能実習生を特定技能に移行する場合、新たな募集費用や送出機関の費用はかかりません。

フェーズ2:在留資格(ビザ)申請にかかる費用

特定技能外国人が日本で働くためには、出入国在留管理庁に在留資格(特定技能)の申請を行い、許可を得る必要があります。この手続きは複雑なため、多くの費用が発生します。

  • 申請書類の準備費用
    • 特定技能ビザを取得するには、在留資格申請書以外にも、以下の費用が発生します。
      • 必要書類の取得費用(住民票、戸籍謄本、健康診断書など)
      • 翻訳費用(外国語の書類を日本語に訳す費用)
      • 健康診断費用(日本で働くために必要な健康チェック)
      • 写真撮影費用(申請時に必要な証明写真)
    • これらの費用は企業が負担することが一般的です。
  • 行政書士への依頼費用| 10万円〜20万円程度。
    • 特定技能の申請は必要書類が多く、手続きも複雑です。そのため、多くの企業は専門家である行政書士に手続きを依頼しています。専門家に任せることで、手続きのミスを防ぎ、スムーズにビザを取得しやすくなります。
【コスト削減のポイント】

自社で申請手続きを行う: 手間と時間がかかりますが、行政書士への依頼費用を削減できます。ただし、書類の不備があると手続きが滞るため、慎重な対応が求められます。

フェーズ3:入国・受け入れ準備にかかる費用

登録支援機関の費用

登録支援機関は、外国人が日本で安心して働き、生活できるようにサポートする機関です。
特定技能1号の外国人を受け入れる企業は、法律で定められた「義務的支援」を行う必要があります。

対応が難しい場合は登録支援機関に依頼することができます。

登録支援機関の支援費用|外国人1人あたり月額2万円〜4万円

  • 役割:入国時の送迎、住居の確保、生活オリエンテーション、行政手続きの補助など、法律で定められた10項目の支援を代行します。
【コスト削減のポイント】

自社で支援を実施する: 登録支援機関に委託せず、企業自身が支援を行う方法です。ただし、出入国在留管理庁が定める支援体制の要件を満たす必要があります。要件には、支援責任者と支援担当者の選任、支援の実施能力などが含まれます。

(参考: 出入国在留管理庁: 登録支援機関について )

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フェーズ4:雇用後にかかる継続的な費用

手当を受け取る特定技能外国人の画像

給与・福利厚生費

    • 給与: 特定技能外国人の給与は、「日本人と同等以上」に設定する必要があります。これは、労働基準法や最低賃金法に基づく重要な要件です。
    • 社会保険・雇用保険: 企業は、日本人と同様に健康保険、厚生年金保険、雇用保険に加入させ、保険料を負担する義務があります。

住居・生活支援費

    • 住居の手配: 社員寮の提供やアパートの契約など、住居を確保する際の初期費用(敷金・礼金など)や家賃補助は、企業が負担することがあります。

これらの保険料は給与の一部として計算されるため、企業の人件費に影響します。
特定技能外国人を雇う際は、これらの費用も事前に確認し、予算に組み込んでおきましょう。

(参考:厚生労働省: 外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針 e-Gov法令検索: 外国人労働者の在留資格に関する情報

特定技能の採用費用をうまく管理するコツ

企業が特定技能外国人を採用するための費用を把握し、予算をうまく管理することはとても大切です。正しい管理をすることで、予想以上の支出を避けることができます。

【行政書士監修】特定技能の業種と雇用の流れを徹底解説!外国人支援計画を策定する上で大切なことは?

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費用を抑えるための工夫

コストダウンのイメージ画像

人材紹介会社や登録支援機関を比較する

人材紹介会社や登録支援機関の紹介手数料は会社によって違うため、複数の会社から見積もりを取ることが大切です。
同じようなサポート内容でも、費用に差があることが多いので、料金の相場を把握してできるだけコストを抑えられる会社を選びましょう。
また、契約内容やフォロー体制も確認し、必要な支援を適正な価格で受けられるようにしましょう。

自社で求人を出す

人材紹介会社を利用せず、自社で直接求人を出すことで、紹介手数料を削減できます。
求人サイトや会社のホームページ、ハローワークなどを活用し、外国人向けの求人情報を発信するとよいでしょう。
また、すでに働いている外国人労働者やその知人を通じて紹介してもらう方法もあります。こうした工夫をすれば、コストを抑えつつ、信頼できる人材を確保しやすくなります。

技能実習生から特定技能へ移行する

すでに技能実習生として働いている外国人がいる場合、特定技能に移行することで、新たな紹介手数料や送り出し費用がかかりません。
技能実習の期間中に業務に慣れているため、新しく採用するよりもスムーズに即戦力として活躍してもらうことができます。

信頼できる人材紹介会社・登録支援機関の選び方

登録支援機関のスタッフと打ち合わせをする女性の画像

特定技能外国人の採用を成功させるために、人材紹介会社や登録支援機関の選び方もコツをつかんでおきましょう。

実績や評判を確認する

まず、その会社が過去にどのような実績を持っているのかを調べましょう。成功事例導入企業の声を確認し、信頼できる会社かどうか判断することが大切です。
インターネットのレビューだけでなく、同業他社に紹介してもらうのも良い方法です。

対応できる国や言語を確認する

企業が採用を検討している国の人材を紹介できるかどうかを確認しましょう。
また、外国人労働者が安心して働けるように、母国語でのサポートが充実しているかも重要なポイントです。たとえば、書類の翻訳や生活サポートを母国語で対応できるかどうかは、外国人が日本で長く働くうえで大きな助けになります。

契約内容や手数料をしっかり確認する

契約を結ぶ前に、料金やサポート内容を細かく確認しましょう。手数料が相場と比べて高すぎないか、サポートの範囲が十分かどうかをチェックすることが大切です。
とくに「後から追加料金が発生する」ような契約には注意し、すべての費用が明確に書かれているか確認してから契約を結ぶようにしましょう。

【特定技能】「雇用契約書」の作り方 完全ステップガイド

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さいごに

特定技能外国人の採用には一定のコストがかかりますが、それ以上の長期的なメリットがあります。

  • 人手不足の解消と生産性の向上
  • 職場の活性化と新たな視点の導入

コストを抑えるためには、複数の選択肢を比較検討し、自社の状況に合った方法を選ぶことが重要です。そして何より、長期的な信頼関係を築けるパートナー(人材紹介会社や登録支援機関)を選ぶことが、成功への鍵となります。

特定技能制度を正しく理解し、計画的に採用を進めることで、企業と外国人双方にとって、より良い未来を築くことができるでしょう。