外国人を雇用するときにもっとも注意すべきことのひとつに「ハラスメント問題」があります。

日本と海外では文化や環境がちがうため、それにともない考え方や価値観も異なり、それらのちがいを理解しきれずに何気なく接していたらハラスメントとして訴えられた……というケースもあります。

ハラスメントとして訴えられる可能性としては、どのようなものがあるのでしょうか。またどのような点に注意をして、外国人と接すればいいのでしょうか。そこで今回はこれらの疑問について、実例などをもちいつつくわしく説明いたします。

外国人雇用ではハラスメントに要注意?!

外国人を雇用する際は「ハラスメント」について敏感になる必要があります。
(※ハラスメントは英語の動詞である「Harass(嫌がらせをする、迷惑をかける)」が由来であるとされており、いやがらせやいじめなどの迷惑行為を指す)

ハラスメントの定義は曖昧で、結局は受け手側が「ハラスメントである」と認識した場合、それはハラスメントとなります。
そのためハラスメント対策として、大事なのは相手のことをよく知ること。なにを言われるといやなのか、なにをされると傷つくのかをよく理解しなければ、何気ない発言や所作がハラスメントであると捉えられかねません。

外国人は文化、言語、宗教による価値観の違いなどで、考え方を理解するのに時間がかかることがあります。いったい、どのような対策をしたらいいのでしょうか?

日本と文化が違うから…

日本と海外は文化が違います。日本ではなかば当前のことでも、外国人にとってはハラスメントとしか思えないようなことも多いです。

たとえば、お酌はほとんどの国で行われていません。日本では上司のお酒が空いてしまうまえに、積極的にお酒をコップに注ぐことがマナーのように考えられていますが、このあたりに文化的なちがいがでます。

もししてしまったらお酒の強要として「アルハラ」で訴えられる可能性もあります。また逆に外国人にお酒を注がせるのもNGです。その他イスラム教の女性には、男性はいっさい触れてはいけないため、ほめるために肩に手を置いただけでもセクハラの訴訟問題になり得ます。

いっしょに働く方の考え方や価値観を理解してから接さなければ、何気ない言動でもハラスメントとして訴えられてしまいます。
「日本ではそうだから」と思わず、相手の考えを尊重することが大切です。

海外のハラスメントは厳しい?

最近は日本でも労働者にとっての環境を重視する法律や制度が整えられ始めています。企業によっては「ハラスメント」に関する、社内セミナーなど対策を講じ始めているところも多いです。

しかし海外では、以前から基本的に「労働者を守る」意識が強いです。そのため外国人は「まじめに働く自分は法で守られるべきだ」と考えており、ちょっとした不満でもすぐに上司や公的機関に相談を持ちかけることもあります。

仮にハラスメントとして訴えられた場合、社内での立場が苦しくなるのはもちろんですが、解雇処分の可能性もゼロではないでしょう。さらには転職活動にも影響を及ぼしかねません。
外国人を雇う際は、外国人のためにも自分のためにも、「考え方や価値観がたがいに違う」という事実を念頭に置きつつ、慎重にコミュニケーションを取って相互理解をはかりましょう。

ハラスメントは対策できる!

「日本人の何気ない言動が、ハラスメントとして訴えられてしまうのでは対策しようがない!」と思うかもしれません。しかし実はそんなことはありません。具体的に何点かの行動を守れば、ハラスメントの対策をすることができます。

ただどの対策も、その国や宗教や人によって捉え方はさまざま。「関係性を築きあげた」と思ったタイミングで、徐々に対策をゆるくしていくことも大事です。あまりにハラスメントを意識し過ぎると、希薄な関係になってしまい、仕事面でも逆効果でしょう。

ただ最初はきっちり仕事の関係と割り切って、対策を講じる方がいいです。一度でもハラスメントで訴えられた場合、その後ずっとその事実はつきまとうかもしれません。相手を理解できるまでは、慎重にコミュニケーションをしましょう。

ハラスメント対策⑴:プライベートは聞かない

海外では基本仕事の時間が終わったあとはプライベートの時間になります。日本のように仕事後に会社の人とご飯や飲み会へ行くことは少ないです。ただそれだけプライベートと仕事をわけて考えているひとが多いことになります。

さらに会社の人にプライベートのことを聞かれるのをいやがる外国人は少なくないです。
「休日は何をしているの?」「どこらへんに住んでいるの?」「普段は何を食べているの?」など、日本では会話の定番である質問でも、外国人によってはプライバシー侵害と捉えることもあります。

基本はプライベートについて突っ込んで聞かない方がいいでしょう。仕事上の関係と割りきって、いっしょにはたらく方がいいでしょう。

ハラスメント対策⑵:文化や宗教を侮辱しない

海外では日本以上に宗教や文化の価値観を尊重しているところが多いです。それらについてコメントすることや、ましてや侮辱すると怒りに触れてしまうこともあります。

例えば、イスラム教では豚は不浄な生物として豚肉を食べない文化があります。それを「どうして食べないの?」や「おいしいよ?」なんて声をかけるだけでも、イスラム教徒の方々にとっては耐え難い会話になってしまうのです。

その他、宗教の考え方のみならず、相手の母国の文化などにも口を出してはいけません。外国人はその考え方や価値観を人生の基軸として捉えている方もいるため、それらを否定するのは関係性を壊してしまうリスクです。

ハラスメント対策⑶:むやみにお酒を注がない

お酌の文化は海外にはほとんどありません。「上司からお酒を注がれたのだから飲まないと」なんて声をかけてしまった日には、もう翌日からその外国人は会社に来ないかもしれません。外国人にとって仕事後の時間は、あくまでプライベートの時間です。
飲み会だとしても、「好きなお酒を自分のペースで飲みたい」と考えています。

また外国人にお酒を注がせるのも、外国人からしたら考えられない行動です。自分のペースでお酒を楽しんでおり、まわりもそれぞれのペースでお酒を楽しんでいると考えているため、ひとにお酒を注ぐのにも抵抗があります。
それらを「やらないとダメだよ」と強要するのも、パワハラとして捉えられかねません。

ハラスメント対策⑷:ボディタッチしない

海外とくらべて日本はボディタッチが多いわけではないので、そこまで注意する必要ないのでは? と思ってしまうかもしれません。しかし外国人には、同性・異性関係なく指一本触れないくらいの意識がいいです。

以前、海外で「イスラム教徒の女性が宗教上面接官との握手を拒んだら面接が不合格となり、それについて宗教差別であると訴訟を起こした」という実例もありました。握手のみならず、肩や頭髪に触れるなどの行為も文化によっては許されないボディタッチだと感じてしまうこともあります。

逆に日本よりボディタッチが多い文化の国もあります。出身国にによって許容する範囲はちがうので、こちらからは基本的に触れないくらいの意識がいちばんいいです。

ハラスメント対策⑸:レイシャルハラスメントをしない

レイシャルハラスメントとは、人種や国籍など、民族的な要素にまつわる差別やいやがらせのこと。

2021年(令和3年)には仕事での困りごとでは「給料が低い(35.6%)」のつぎに「採用、配属、昇進面で日本人とくらべて不利に扱われている(12.6%)」が多くなっています。

働くうえでも、日常生活のなかでも差別を受けたと感じる方は多くいます。日本人と労働者をわけて仕事をさせるなど、悪意はなくなんとなくしてしまったことであっても、当事者にとっては精神的につらいと思えることがあります。

共通言語が同じ人間ばかりで集まってしまいがちかもしれませんが、このような点は今後ますます外国人が職場に入ってくる企業が増えれば増えるほど気をつける必要があります。

◆レイシャルハラスメントが起こる背景

・職場の多様性の高まり
・無意識に人種差別が行われている
・ハラスメントとして十分に浸透していない
・コミュニケーションを避けてしまう

以上のような背景を持っている会社では、レイシャルハラスメントに対して人事担当が啓蒙するなど、アクションが必要となるでしょう。

外国人のハラスメント対策はバッチリですか?

日本でも大きく取り上げられ始めた「ハラスメント」問題。
現状ハラスメントとして訴えられた時点で訴えられた側は、ほとんど立場がなくなるほどに日本ではハラスメント抑制の制度が整ってきています。そこで大事なのは、ハラスメントとして訴えられないように心がけることです。

ただ外国人は日本人とちがう考え方や価値観を持っているため、日本人としては「そんなことで?」と思うケースで訴えられる場合も。仕事後の飲み会でさえ訴えられるかもしれません。ただもちろん飲み会を嫌う外国人もいれば、好む外国人もいますし、日本の文化に慣れていてる方も多くいらっしゃいます。

大事なのは相手を理解することです。相手の考え方や価値観を理解した上で、失礼にならないコミュニケーションをすることが重要です。