訪日外国人の増加が著しい現在ですが、日本では受け入れ態勢や、制度面でまだまだ整っていない現状があります。そのため、医療施設では多くの問題が起きており、外国人の医療費未払い問題もそのひとつです。

外国人を雇用している方や、外国人の友人がいる方の中には「治療費はどうすればいいの?」「国民皆保険制度には入れるの?」と疑問に思う方もいるはず。そこで今回は外国人が日本で住む場合に、知っておくべき医療費負担について解説します。

日本での外国人の医療費

日本における外国人の医療費は、外国人の持っている在留資格や滞在期間で異なる制度や支援が適用されます。主要な制度としては日本人と同じ保険制度を使うことになります。

しかし留学生や短期滞在者向けには、特別な制度もあることを知っておきましょう。

日本の公的医療保険制度

外国人が日本での滞在期間が3ヶ月以上になる場合には、以下の公的な医療保険に加入することが国によって義務付けられています。

保険の種類内容
国民健康保険(国保)自営業者、学生、無職の方などが加入する保険。市区町村で加入の手続きをします。
健康保険(社保)会社員やその扶養家族が加入する保険。会社が保険料の一部を負担しています。

これらの日本の公的医療保険に加入している場合には、医療費の自己負担は原則として3割です(年齢や所得で負担する割合は変わります)。

留学生向けの特別な制度

留学生に対しては、国民健康保険への加入が推奨されています。
一部の自治体や教育機関では、保険料が助成されることもあります。多くは所得がないことを申告すれば、保険料が安くなるというものです。

短期滞在者(観光客など)

短期滞在の観光客、ビジネス旅行をされている人の場合は、日本の公的医療保険には加入ができません。旅行保険の加入か自己負担をすることになります。
費用を払わないで帰国してしまう方もいるため、病院によっては治療の前に補償金の支払いをもとめることもあります。

外国人の医療費未払い問題とは?

外国人が日本で医療を受けた際に発生する医療費未払いの問題は深刻です。

観光客や短期滞在者の一部が医療費を支払わずに帰国するケースが多く、特に東京や沖縄などの観光地の病院では未払い問題が増加しています。2022年度の調査では、外国人患者による未払い医療費は約8800万円(約5.6百万ドル)に達し、全国の医療機関の約30%が未払い問題に直面していると報告されています。

未払いはおもに旅行保険に未加入の観光客や医療費の支払い能力がない一時滞在者によるものです。日本政府はこの問題に対処するため、外国人旅行者に旅行保険への加入を促進しています。

外国人が出国すると徴収が難しいのはなぜ?

法的権限の制限

日本国内で発生した医療費の未払いについて、出国した外国人に対して法的に強制力を持って徴収する手段が限られています。出国後に医療機関が債権回収を試みる場合、外国の法律が絡むため、日本の法的な執行力が及ばないケースが多いです。
また外国での債権回収は国際的な法的手続きを必要とし、費用や時間がかかることから現実的に難しいです​。

連絡が取れないケース

出国後、患者と連絡が取れなくなることも多いです。
住所や連絡先が変更されたり、医療機関に正確な情報が提供されていなかった場合、追跡が困難です。

特に短期滞在者や観光客の場合、滞在先や帰国先の情報が不明なままであることが多く、請求書を送っても届かないことが多いです。

支払い能力や意識の問題

一部の外国人は、旅行保険に加入していなかったり、経済的な理由で医療費を支払う余裕がないケースがあります。また、母国に戻ると医療費の支払いが優先されず、未払いのまま放置されることもあります。

日本での医療費がどれほど重要か理解していない場合や、医療費を支払う意識が低い場合もあります​。

異なる通貨・銀行手続きの問題

出国後の医療費の支払いには、国際的な送金手続きを必要としますが、これも手続きが複雑で、患者が手続きを嫌がるケースがあります。通貨の違いや送金手数料が発生するため、支払いを拒否することもあります。

 医療費概算の事前提示とは?

医療費概算の事前提示とは、患者が医療機関で治療を受ける前に、予想される治療費を事前に提示することを指します。

これにより、患者は医療費がどの程度かかるかを事前に把握し、支払い能力や保険の適用範囲について確認することができます。特に外国人患者や旅行者に対しては、言語や保険制度の違いから医療費の支払いに関するトラブルが発生しやすいため医療機関が事前に費用を提示することで未払いリスクを減らすことができます。

医療費概算事前提示の利点:

費用の透明性

患者が事前にどのくらいの費用がかかるのかを知ることができ、治療に対する安心感が増します。

支払い計画の立案

特に外国人旅行者の場合、現金やクレジットカード、保険適用の範囲を考慮して支払いの計画が立てやすくなります。

未払いリスクの軽減

患者が支払い能力を確認しやすくなり、結果として未払い問題の発生を減らすことが期待できます​。この制度を導入することで、特に外国人患者への対応を強化しています。

外国人医療費関連のトラブルを避けるには?

外国人患者の受入れには、言語力不足でコミュニケーションが充分に取れず、トラブルが起きるケースが尽きません。では、トラブルを回避するには、実際にはどうすればいいのでしょう?

在留資格には注意!

訪日外国人の場合「短期滞在」もしくは「特別活動(医療滞在)」の在留資格で滞在しているケースがあります。それぞれに、滞在期間や家族や親戚の同伴の可否が異なります。該当外国人が、入院・治療のための長期滞在は可能かどうかを確認しましょう。

「短期滞在」には観光やスポーツ、親族への訪問、講習などが該当し、一般的には90日以内の滞在期間が許可されています。さらに同伴者の同席はできません。ですから長期的な治療が必要な場合には、滞在期間に合った治療計画の作成や、親族への連絡を念頭に置く必要があります。

一方で「特定活動(医療滞在)」は診察や治療を目的として、最大で6ヶ月の滞在、親族の同伴、数回の出入国が可能です。短期滞在ビザの外国人患者の滞在が、もし90日を超える場合には、医療機関の職員か日本にいる親族に、近くの地方出入国在留管理官署から「在留資格認定証明書:を受け取る必要があります。

上記のように、在留資格によって滞在期間やその他の条件がまったく異なります。長期の治療や入院が必要な場合には、在留資格をあらかじめ確認しましょう。

外国人患者受入れ医療機関とは?

訪日外国人が増えている中で、各医療機関とともに地域における外国人患者の受入れ体制が整備されています。訪日外国人に適切な治療を受けてもらえるよう、厚生労働省は「外国人患者受入れ医療機関認証制度」を策定。多言語や文化・宗教などに対応可能な、医療機関をリスト化しました。

外国人受入れ医療機関には選定基準が設けられています。その基準を確認して、状況に応じた最適なリストに振りわけられます。

まずは都道府県ごとの「重症例を受け入れ可能な医療機関」を1カ所以上選出、つぎに外国人観光客が多い2次医療圏の「軽傷例の受け入れ可能な医療機関」を選出。この制度は患者の利便性を高め、医療機関や行政サービスの向上を目的としており、外国人の受入れ体制は現在も整備が進められています。

外国人の医療費について詳しくなりましたか?

在留外国人や旅行客が増えている日本。それにともなって、外国人の医療費未払い問題も増えています。外国人医療機関がリスト化され、症状や地域を選択することで、受け入れ可能な医療機関をすぐに検索できます。

また医療費概算の算出や、外国語の対応も可能な医療機関も増えており、安心して滞在できる環境は今後さらに整備されるでしょう。