外国人労働者の源泉徴収について解説|居住者と非居住者で異なる所得税率、複雑な計算方法の具体例を紹介
企業や個人による国境を越えた経済活動が複雑・多様化するなか、日本で働く外国人の税制について関心がある方は多いです。
日本の税制は、在留資格の種類や滞在期間、所得の発生源などそれぞれの状況に応じて異なるルールが適用されます。
本記事では「居住者」「非居住者」の区分で異なる、外国人の源泉徴収の違いについて解説します。
目次
外国人の区分「居住者」と「非居住者」の違い
居住者とは
国内に住所がある人、または現在まで継続して1年以上日本に居住している人のことを「居住者」と呼びます。
来日して1年以内でも、この時点で「2年以上の雇用契約」を締結している場合は居住者に該当します。
非居住者とは
居住者以外の人は「非居住者」と呼ばれます。おもに在留資格「短期滞在」のような在留期限が1年未満の外国人などが該当します。
また、就労系のビザを取得して本人が2年以上の在留を希望していたとしても、雇用契約が1年未満の場合は来日後1年間は非居住者となります。
外国人の所得で源泉徴収の対象となる範囲
日本の「居住者」である外国人は、日本人と同様の源泉徴収対象となるため税制の解釈について齟齬が生じることは少ないといえます。
しかしながら「非居住者」である外国人に対しては、源泉徴収の対象となるかどうかを見誤ることがあり、実際の税務調査においても非居住者に対する源泉徴収もれを指摘されるケースが多くみられます。
「日本で発生する所得」は区分に関係なく源泉徴収の対象
前述したとおり居住者は日本人と同様の税制が適用されるため、日本国内はもちろん国外で発生した所得(国外源泉所得)も課税対象です。
その反面、非居住者は日本で発生した所得(国内源泉所得)のみ課税対象になります。同じ年に海外での所得があったとしても、国外源泉所得は課税対象外です。
居住者と非居住者の外国人は税率が異なる
引用:国税庁 所得税の税率
居住者は「累進課税」が適用されるため、税率は課税所得金額に対して最低5%〜最高45%です。
非居住者の税率は、給与の支給額に対し「一律20.42%」と定められています。源泉徴収のみで課税関係が完結するため、居住者とはちがい年末調整や確定申告の必要はありません。
租税条約による源泉徴収の軽減・免除
租税条約とは、二重課税の排除や脱税の防止などを目的として、二国間で締結される条約です。非居住者・海外法人の国内源泉所得や居住者の国外源泉所得などが対象となることが多いです。
非居住者の居住国と日本との間に租税条約が締結されている場合には、対象となる所得が発生した際に「租税条約に関する届出書」を提出することで、源泉徴収額の軽減や免除を受けることができます。
居住者・非居住者の源泉徴収制度の具体例
ここからは、実際のケースを例に挙げて説明します。
常勤教員として1年間働いた外国人を、非常勤として雇用する場合
来日した1年後に職場や雇用形態が変わったとしても、継続して1年以上日本に居住していることは事実のため、区分は「居住者」になります。
したがって累進税率で源泉徴収したうえで、年末調整や確定申告をおこなう必要があります。
3か月間契約で活動した外国人に報酬を支払う場合
契約した外国人が日本で暮らしている期間を確認する必要があります。
継続して1年以上日本に居住している外国人は「居住者」になるため、契約期間に関係なく累進税率で源泉徴収する必要があります。
来日公演など単発の活動の場合や、自社以外に契約をしている企業・団体で2年目以降の在留が確定していない場合は「非居住者」に対する支払いとなるので、報酬額に関係なく一律20.42%の税率で源泉徴収する必要があります。
ただし、租税条約で「政府間で合意された文化交流のための特別の計画に基づき個人により行われる場合には免除」などの規定がある国もありますので、居住国との租税条約の確認もおこないましょう。
外国人をインターンシップで雇用する場合
インターンシップが外国人留学生の場合も、現在まで継続して日本に居住している期間で「居住者」「非居住者」の区分をします。
居住者は一般のアルバイトと同じ扱い、非居住者は一律20.42%の税率で源泉徴収する必要があります。
来日して1年以内に、翌年以降の契約をする場合
来日時点では1年未満の契約で「非居住者」だった外国人が、年の途中で2年目以降の契約を獲得した場合、新たな契約を交わした日から「居住者」になります。
例えば、2024年4月1日〜2025年3月31日までの1年間契約で来日した外国人が、2024年9月1日に2025年4月以降に日本で働く契約を結んだとします。
この場合2024年4月1日〜8月31日までは「非居住者」となるので一律20.42%の税率で源泉徴収します。
そして、9月1日以降は「居住者」になるため、累進税率で源泉徴収する必要があります。
居住者になるとその年から年末調整や確定申告をおこないますが、非居住者期間の課税関係は源泉徴収時に完結していますので、税率の変更による還付などはおこなわれません。
外国人労働者が帰国する場合
「居住者」である外国人労働者が、年の途中で退職や転勤により帰国する(非居住者になる)場合、最後の給与支払いの際に年末調整をおこないます。
「非居住者」である外国人労働者が帰国する場合は退職時に年末調整をする必要はありません。
海外に暮らす外国人に仕事を依頼する場合
最近は、海外在住の個人とビジネスをおこなうことも少なくありません。
海外のフリーランス(個人)に業務委託をした場合は「非居住者」のと同じ扱いになります。
海外送金する報酬額(国内源泉所得)に対して一律20.42%の税率で源泉徴収します。
さいごに
日本の税制度をよく理解していない外国人は珍しくありません。
契約を結ぶ前に、業務内容や賃金についての説明をしておくことはもちろん重要ですが、税制度に関する説明も欠かせません。
「源泉徴収の仕組み」や「税金に関して相談できる人」などの案内を通して、外国人が安心して働ける環境を作りましょう。